教室の窓から

いえろ~

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第2章 夏

1.大縄

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 6月中旬、嵯峨本さがもとの通う中学校では、そろそろ体育祭がやってくる。体育祭と言っても、中身は小学校の運動会に少し毛の生えたくらいに過ぎない。流石に、玉入れとかパン食い競争なんてものはないが。

 うちの中学校の「推し競技」は3年の大縄らしい。他の中学校の目玉は全員リレーで、実際そういうものの方が見ている側も楽しい。しかし、うちの中学校には全員リレーがなく、代わりに大縄。生徒の間でも「全員リレーやりたいなー」なんて声が挙がっていたが、今年も遂にそれは叶わなかったわけだ。

 それで、今3年2組はその大縄の練習の真っ最中である。梅雨時で雨が続いている中、久々の陽光を浴びる昼休みの校庭は多くの生徒で溢れていた。皆、競技の練習をしているのだ。トラックにはリレーの練習をしている生徒もいたため、嵯峨本らはトラックから少し外れた所にある、新緑で覆われた桜の木の下に集まった。

「い~ち……、に~……」

 さ~ん、と言う前に、縄が止まった。誰かが引っ掛かったのだ。

「うーん、どうも3回以上行かないな。皆、もう少し高く跳んでみよう」

 体育祭実行委員の日比谷薫ひびやかおるが励ました。彼は野球部に所属していたが、2年の時に怪我をして退部したらしい。今は無所属だが、今回、誰もやりたがらない実行委員に立候補したのだった。いつもは友人達とふざけあっていて怒られることもあるが、この大縄については俄然張り切っていた。

 それにしても、このフレーズさっきも聞いたな。嵯峨本は気づいたが、言わなかった。他のクラスメイトも同じだった。言ったところで無駄であるし、策もないからだ。そもそも、皆これが初めての大縄のわけだから、日比谷でさえも助言できるはずがないのだ。

 唯一知っているとすれば、担任の中野である。彼はこの学校に5年勤務している。3年の担任をしていたこともあったから、指導できるはずだ。しかし、今彼はこの場にいない。それどころか、この前クラスに「大縄の指導はしない。どうしてもわからないことがあったら、俺に聞け」と言い放ったのだ。端から見捨てていると捉えられても不思議ではない。まあ、このクラスメイトはこれほど頭が悪くはなかったが。

「い~ち……、に~……、さ~ん! ……、し~……」

 今度は3回まで跳べた。日比谷は独り喜ぶ。

「やった! これはかなりの進歩だ! この調子で回数を伸ばしていこう!」

 キーン、コーン、カーン、コーン――授業5分前を知らせる予鈴が鳴った。生徒達が校舎へ戻っていく。

「あー、チャイムが鳴っちゃったね。今日はこれで終わりだな。また明日頑張ろう」

 日比谷の声を聞くなり、クラスメイトも生徒達の波に加わっていく。その時に「だりーなー」という声を嵯峨本は聞いてしまい、日比谷のことを気の毒に思った反面、愚痴の主に同情もしてしまった。
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