教室の窓から

いえろ~

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第2章 夏

2.直談判

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 放課後、嵯峨本が生徒玄関の掃除を終わらせ教室へ帰ってくると、日比谷が担任の中野と何か話しているのが見えた。掃除は終わっているらしく、生徒は他にいない。嵯峨本はいさ知らず、しれっと教室に入る。

「先生、大縄のコツを教えて下さい」

「いや、まだダメだ。まだ早いだろ」

 なるほど、と思いながら、いつものように勉強道具を机に広げる。

「早いとかの問題ではないと思います。体育祭は2週間後です。他の競技の練習もしないといけないですし、大縄にだけ時間を割くこともできません」

「そうは言っても、他の競技はお決まりのばっかりだろう。徒競走とか二人三脚リレーとか。大縄の練習を主にやっても問題はないはずだ」

 これについては、両者の意見も一理あるな、と思った。この梅雨時、いつ校庭で練習できるかもわからない。雨天時は体育館で練習することはできるが、たちまち場所取り合戦が起きる。少しでも遅れたクラスは、立つことさえままならないのだ。しかし、体育祭と言っても実際走る競技のオンパレードだ。1・2年からずっとやっているものが多いから、メンバーさえ決まれば最低ぶっつけ本番でも何とかできるだろう。まあ、結果を考えなければの話だが。勝ちを目指すなら、それ相応の準備が必要であることは中野も理解していると思うのだが、何故か彼は消極的である。

「ですが、いかんせん、わからないんです」

「何がわからないかは知らんが、わからんことをお前はすぐ人に聞くのか? 自分で調べようともしないのか? それは無能がやることだ」

 無能。その単語を聞き嵯峨本は反射的に中野の方を見た。その時、少し中野と目が合ってしまった。威圧的で、淀みのある眼差しを見て、嵯峨本は慌てて手元のノートを見る。

 だが、当の日比谷は食い下がる。

「事前にネットで調べました。並び順だって工夫してますし、回し手だって大柄の体力のある奴を選んでます。それでも、記録が伸びんのです」

 こうした威圧は野球部時代に散々浴びていたのだろう。嵯峨本は素直に感心する。

 だが本人は言い終わってすぐギョッとしたようで、少し背中が撥ねた。中野がどうとかではなく、「伸びんのです」と砕けた言葉をつかってしまったことに対する動揺だろう。案外生真面目である。中野は全く気にしていないようだが。

「まだ1回目の練習なんだろ? これからだろ。さっきも言ったけど、大縄の練習に重きを置いても全く問題ないと思うぞ」

「そうですが……。わかりました。じゃあ、その代わり、クラスのまとめ方を教えて下さい」

 日比谷が言い終わる前に、中野は食い気味に言った。

「日比谷、俺の話聞いてたか? それは無能がやることだ。少しは自分で調べてみろ。……俺はこれから部活があるから、ごめんな」

 このままでは埒が明かないと思ったのか、中野はそそくさと教室を出て行ってしまった。中野は女子卓球部の顧問をしているが、“女卓”は精力的な部活を行っていない。言ってしまえばお遊びだ。別にそれがいけないとは思わないし、そういうクラブ活動的な部活は運動が苦手な生徒達の拠り所となっているだけで問題はないと思う。だが、もう少し日比谷の熱意を汲んでやってもいいのに、と嵯峨本は思っていた。

 日比谷は中野が教室を去ったあと、嵯峨本をチラリと見て帰っていった。チラリと、と言うにはかなり凶暴な目つきだった。
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