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第2章 夏
4.意義
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帰りの会の直前、中野は日比谷を呼んだ。
「日比谷、内容は決まったか」
「いや、考えてるところです」
考えてはいる。でも何を話せばいいのかわからなかった。
「もし行き詰っているなら、こういうこと話してみればどうだ」
そう言って、中野はメモを渡した。いつもの無骨な文字はそのままで、加えて流し書きしたらしく、短時間で書き上げたように見えた。
「ありがとうございます」日比谷は一応そう言った。
* * *
程なくして、帰りの会が始まった。中野が早速本題に入る。
「皆、日比谷が少し話したいことがあるそうだから、聞いてくれ」
日比谷、と促され、皆の前に立つ。自分ではほぼ何も思い浮かばなかったから、内容は結局ほとんどがメモに書いてあることになり、日比谷の目はメモと奥の黒板を行ったり来たりする。緊張で、クラスメイトの顔を見ることはできなかった。
自分でも何を言ったのかはっきり覚えていなかった。ひたすらメモの内容と頭に浮かんだことを声に出しただけだった。
「皆、大縄のことなんだけど……。もしかしたら練習が嫌な人もいるかもしれないけど、これからもしっかり頑張ってほしいと思ってます。大縄の練習をすることで、クラスの団結力も上がるし、皆で多く跳べるようになれば、きっと気持ちいいと思います。優勝を目指すなら、大縄はかなりのウエイトを占めるし、大縄を制するクラスが体育祭を制すことになると思う。なので、皆さんどうかご協力お願いします」
日比谷が話し終わると、はーい、と手が挙がった。木口だった。
「質問でーす。それなら、大縄の練習をしなくてもいいんじゃないですかー?」
クラスメイトがざわつきだす。中野が「静かに」と制しようとするが、その声は届かなかった。それをお構いなしに、木口は続ける。
「だって、大縄って皆の行動を縛るじゃん。だったら、大縄を捨てて、他の競技を頑張った方が合理的だと思うんだけど」
別の生徒も加担する。
「俺、一回計算したんだけどさ、大縄で1位を取ると150点取れるんだけど、男子・女子・混合の3つのリレーを全部1位取れば、合計で180点取れるんだよね。もっと細かく計算すれば、仮に大縄で最下位でも、リレー系全部1位で、あとはそこそこの順位を取れば、優勝はできる。大縄に固執し過ぎるのは悪手だよ」
「え、そうなの?」
「え、って。まさか、その辺考えてなかったの?」
どこかから野次が聞こえる。誰の声か探し出す気力もなかった。視界がどんどん絞られていく。
「それは、ごめん。でも、本当にそうでも、それは結構博打にならないか」
「だから、そのために練習するんじゃん。大縄を捨てて」
木口に当然のように言われて、日比谷は怯み、何も言い返せなかった。
「勝ちたいんじゃないの? 戦略的にはとてもいいと思うんだけど」
勝ちたい。そうだよ、俺は勝ちたいだけなんだよ。じゃあ、大縄を捨ててもいいんじゃないか。でも、もう後戻りはできないのだ。俺は「何が何でも大縄をやりたい奴」になってしまっていた。苦し紛れに日比谷は絞り出す。
「でも、団結に繋がるし、達成感も味わえるし」
「それはさ――」
木口が食って掛かろうとしたところを、中野の大きな咳払いが制した。そこで、クラスのあらゆる運動がやっと止まった。
「はい、掃除の時間がなくなっちゃうから、今日はこの辺で終わりにしよう。俺は皆の方針に口出しはしないから、明日以降どうするかを日比谷を中心に決めること」
以上、号令。きりーつ、ちゅーもーく、れい。さよーならー。
日比谷を置き去りにして、帰りの会は呆気なく終わってしまった。
「日比谷、内容は決まったか」
「いや、考えてるところです」
考えてはいる。でも何を話せばいいのかわからなかった。
「もし行き詰っているなら、こういうこと話してみればどうだ」
そう言って、中野はメモを渡した。いつもの無骨な文字はそのままで、加えて流し書きしたらしく、短時間で書き上げたように見えた。
「ありがとうございます」日比谷は一応そう言った。
* * *
程なくして、帰りの会が始まった。中野が早速本題に入る。
「皆、日比谷が少し話したいことがあるそうだから、聞いてくれ」
日比谷、と促され、皆の前に立つ。自分ではほぼ何も思い浮かばなかったから、内容は結局ほとんどがメモに書いてあることになり、日比谷の目はメモと奥の黒板を行ったり来たりする。緊張で、クラスメイトの顔を見ることはできなかった。
自分でも何を言ったのかはっきり覚えていなかった。ひたすらメモの内容と頭に浮かんだことを声に出しただけだった。
「皆、大縄のことなんだけど……。もしかしたら練習が嫌な人もいるかもしれないけど、これからもしっかり頑張ってほしいと思ってます。大縄の練習をすることで、クラスの団結力も上がるし、皆で多く跳べるようになれば、きっと気持ちいいと思います。優勝を目指すなら、大縄はかなりのウエイトを占めるし、大縄を制するクラスが体育祭を制すことになると思う。なので、皆さんどうかご協力お願いします」
日比谷が話し終わると、はーい、と手が挙がった。木口だった。
「質問でーす。それなら、大縄の練習をしなくてもいいんじゃないですかー?」
クラスメイトがざわつきだす。中野が「静かに」と制しようとするが、その声は届かなかった。それをお構いなしに、木口は続ける。
「だって、大縄って皆の行動を縛るじゃん。だったら、大縄を捨てて、他の競技を頑張った方が合理的だと思うんだけど」
別の生徒も加担する。
「俺、一回計算したんだけどさ、大縄で1位を取ると150点取れるんだけど、男子・女子・混合の3つのリレーを全部1位取れば、合計で180点取れるんだよね。もっと細かく計算すれば、仮に大縄で最下位でも、リレー系全部1位で、あとはそこそこの順位を取れば、優勝はできる。大縄に固執し過ぎるのは悪手だよ」
「え、そうなの?」
「え、って。まさか、その辺考えてなかったの?」
どこかから野次が聞こえる。誰の声か探し出す気力もなかった。視界がどんどん絞られていく。
「それは、ごめん。でも、本当にそうでも、それは結構博打にならないか」
「だから、そのために練習するんじゃん。大縄を捨てて」
木口に当然のように言われて、日比谷は怯み、何も言い返せなかった。
「勝ちたいんじゃないの? 戦略的にはとてもいいと思うんだけど」
勝ちたい。そうだよ、俺は勝ちたいだけなんだよ。じゃあ、大縄を捨ててもいいんじゃないか。でも、もう後戻りはできないのだ。俺は「何が何でも大縄をやりたい奴」になってしまっていた。苦し紛れに日比谷は絞り出す。
「でも、団結に繋がるし、達成感も味わえるし」
「それはさ――」
木口が食って掛かろうとしたところを、中野の大きな咳払いが制した。そこで、クラスのあらゆる運動がやっと止まった。
「はい、掃除の時間がなくなっちゃうから、今日はこの辺で終わりにしよう。俺は皆の方針に口出しはしないから、明日以降どうするかを日比谷を中心に決めること」
以上、号令。きりーつ、ちゅーもーく、れい。さよーならー。
日比谷を置き去りにして、帰りの会は呆気なく終わってしまった。
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