あやかし探偵倶楽部、始めました!

えっちゃん

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1章.少女と付喪神

付喪神だという不審者②

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「待って、行くってどこに行くつもりですか?」
「ここから出る。隷属の鎖を掛けられ章政が動けぬ以上、ここに祀られている必要も無い。幸魂さきみたま」にまじないを込めた者の鎖により、俺はお前の側にいなければならぬ。共に来い」

 駄目だと、怪しすぎる相手だと頭では分かっていても彼の言葉に逆らえず、鈴は差し伸べられた手を取ってしまった。
男の手を取ると、軽い眩暈に襲われ目を瞬かせた鈴は次の瞬間、ハッと息を飲む。

 瞬く間に、刀が祀られていた小部屋から棚の上に収蔵品が並ぶ蔵の中へ、どういう仕組みなのか戻っていたのだ。


 鈴の手を握っている男が一歩踏み出した時、棚の上の収蔵品から次々に淡い光が放たれていき、暗かった蔵内部が明るくなる。

「どうなっているの?」

 蝋燭の光ともガス灯の光とも違う、白緑びゃくろう色と藍白あいじろ色の光。
 例えるのならば、蛍の放つ光の色に近かった。

「この蔵に居る者達が俺の氣にあてられて出て来ただけだ。長い年月を経た物には魂が宿る。こ奴らは年月を経て妖となった者達だ。高梨の下で存在している妖は、鈴を害することはしない。鈴を怯えさせないよう気を配り、俺の場所に導いたのもこ奴等だ」
「そうなんだ」

 もしかしたら、真っ暗で怯えていた時に少しだけ周囲が明るくなったのも、物音も奥の衣紋掛けの前まで導いた風も、妖とやらの力だったのか。
 悪意も害意もないから先ほどの赤黒い霧に比べたら、収蔵品から発せられているやわらかな光には、恐怖心は湧きおこってこない。

「さて、行くぞ」

 扉へ向かって一直線に歩く男に手を引かれ、呆けていた鈴は慌てて歩き出す。

「あ、刀さん。扉は外から鍵をかけられていて、開けられな」

 ギィィイー!

 外から鍵が掛けられていたはずの扉は、男が触れると軋み音を立てて簡単に開いていく。

「……開いた」

 唖然となった鈴の呟きは、扉の開閉音によって掻き消される。

「何だ? 鍵が勝手に開いた、うわぁ!」
「ひぃい!」

 蔵の外で様子を窺っていた従兄弟達と使用人は、鍵をかけたはずの扉が開いたことに驚きの声を上げた。

「なんだお前、うぎゃっ」
「お、お兄様、はぅう」

 従兄弟達と使用人達は、四肢に絡まりつく赤黒い霧によって自由を奪われ、勝手に鍵が開いた蔵の扉から出て来た鈴の姿に目を白黒させていた。

「この者達が鈴を閉じ込めたのか?」
「うん。でも、こっちの人達は二人に命じられただけだよ」

 鈴が指差した従兄弟達を一瞥して、男はフンッと鼻を鳴らす。

「同じ高梨の血でも鈴とは違う、随分と淀んでいるな。あの小僧の子どもらか。まあいい」

 ざわざわと霧が蠢き、拘束している従兄弟達と使用人達の全身を包み込んだ。
 体を覆いつくす霧によって声すら発せられず、彼等は無数の光が飛び交う蔵の中へと放り込まれた。

「俺が手を下さぬとも、蔵の中に居る者達が仕置きをするだろう」

 キィィイー、バタンッ!

 男が言い終わると同時に、蔵の扉は音を立てて閉まった。
閉まる直前、扉の隙間から漏れ聞こえたのは複数の悲鳴と固くて重い物が動く音。

「中に居る者達は気の良い者達だ。やりすぎはしないだろう。鈴が気にすることはない」
「……うん」

 無言のまま男に手を引かれて歩いていた鈴は、木々の間から離れの建物が見えて来てようやく、外へ出られたのだと実感が湧いてきた。

「刀さん」
「何だ? お前を閉じ込めた奴等を助けろとでも言いたいのか?」

 振り向いた男からの問いに、鈴は首を横に振る。

「いいえ、使用人も一緒ならあの二人は大丈夫でしょう。お坊ちゃんはすぐ殴るし、お嬢様は我儘だし、すっきりしました。ありがとうございます」

 緊張で表情を強張らせていた鈴から、感謝の感情と少々引き攣っている微笑みを向けられ、男は僅かに目を開いた。

 ガラリ!

 離れの出入り口の戸に指をかける前に勢いよく戸は開き、戸を開けようと手を伸ばした状態のまま鈴は停止した。

【お嬢―! 無事だったかー!】
【ヒヒイロ様が目覚めてくれたから、動けるようになったよ~!】

 部屋の奥から大きな足音を立ててやって来たソレは、唖然とする鈴目掛けて土間へと飛び降りた。

【お嬢―! あいつらに嫌なことされなかったかー?】
「ひっ」

 千切れんばかりに尻尾を振って、青銅色の犬のような形をしたソレは鈴の足元に顔を擦り付けた甘える。
 犬もどきに遅れて、部屋の奥からドタンドタンという騒々しい音を立てて土間へとやって来たモノを目にして、鈴の目は更に大きく見開かれた。

【あれ? ヒヒイロ様も一緒だよー?】
【あのガキ達が言っていたのはやっぱり例の蔵だったのね。お嬢? どうしました?】

 浮遊する掛け軸に描かれた天女が浮き上がり、青白い顔で唇を震わせる鈴の頬を撫でた。

「ひぃいっ! 茶釜と掛け軸と壺が動いて喋ってるぅ⁉ ぎゃああっ!」

 掛け軸の天女の手から逃れようと、背後へ飛び上がった鈴の足は縺れて後ろ向きに倒れていく。


「この程度で失神するとは。高梨の血を持つ者とは思えん」

 呆れた口調で言う男の腕が伸び、後ろへ傾いでいく鈴の体を抱き留める。
 反論しようにも、奇想天外な出来事が続いたため疲弊した鈴の心は限界を訴えていた。
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