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第2章 ライフワーク
第23話 将軍
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このハーライト王国の第一王子であるルナイテ・オルディアス・ハーライトである。
前世では徳川家茂と名乗る少年だった。
徳川家茂は幕末の日本の舵を取るコトを期待され、徳川十四代将軍として迎え入れられつつ、二十歳という若さで病没した悲劇の将軍である。
決断力があり、臣下の話しを良く聞き、常に将軍であろうと努力した生真面目な少年だった。
幕末という難しい時代の狭間で、強硬な外国人排斥を命じる孝明天皇と、消極的排斥を考慮する幕臣の板挟みになりながら、日本にとって最も良い方法を模索し続けた少年は、海軍の重要性を慮り海軍の訓練所を開設したり、フランスとの友好を深めたりと、諸外国を嫌悪するだけでなく、立場と感情を理解しつつ利用するバランス感覚に優れていた。
勝海舟をして『家茂公が成熟したなら、どれほどの名君となっただろうか』と嘆いたという。
また、家茂は武道に対しても誠実であり、幕末の剣豪として明治天皇の御前で冑割りをひろかした榊原鍵吉は、道場の上座に家茂の額を掛け、道場に入る度に頭を下げていたほど尊敬していた。
これは榊原鍵吉の師である男谷信友や、幕末三舟の一、山岡鉄舟も同じで、剣術を志す幕臣に慕われ続けていた。
就任期間は短くとも、徳川将軍の中でもトップランクの名君であった。
そうした前世を持つ魂が、クレイとサザビーが出会ったハーライト王国の王族として転生してきた。
王子は順調に皇太子となり、ハーライト国王として成長する。
傭兵のサザビーはルナイテに従って功を得、辺境伯の爵位を賜り、クレイはルナイテ肝煎りで組織の基盤を作った。
ルナイテの進言で組織は表面化させず、王家と切り離して行動するコトとなったが、これは自分がいなくなった後の王族に利用されないための措置だった。
結果、ルナイテは組織作りに尽力しつつ、対外的には無関係を貫き、クレイとの接触すら憚ったのである。
ルナイテは夭逝した前世に比べて人並みの人生を送り、転生者の処遇をサザビー辺境伯に託して亡くなった。
ルナイテがエルフだったならばと、人族であるコトを惜しまれた最期であった。
ルナイテの跡を継いだ皇太子は、サザビー辺境伯に組織の活用を命じるが、サザビー辺境伯はこれを笑い飛ばして惚け通した。
そのため、組織は存在しないものとして成長し、現在まで活動を続けているのである。
クレイがルナイテと対面したとき、ルナイテは先祖の話を聞きたがり、斟酌なく答えると大笑いしながら手を叩いて喜んだ。
この一事で、クレイはルナイテという転生者が好きになっていた。
「この数日で観察した限り、顕著な能力はないな。まだ顕在化してないか、著しく低いか・・・様子見だな」
シチローの能力のコトである。
町に着くまで、クレイはシチローにこの世界を説明しながら、シチローの一挙手一投足を観察していた。
出した結論が、
「貧弱」
であった。
筋力は女児並み、瞬発力は女児以下、持久力は平均を大きく下回り、耐久性は無いに等しい。
魔物で謂えばスライムである。
前世が病に侵され、スライド状態で転生したなら、それはそれで仕方ない話なのだろう。
むしろ前世の病を持ち込まなかった一点においてのみ僥幸であろう。
シチローの話では、二日に一回は血を綺麗にしないと死ぬ病だったという。
それがこの世界に来て改善されたらしい。
身体を鍛えられなかった分、これからのノビシロは未知数である。
「鍛え甲斐がありそうだな」
酷すぎるシチローの身体的能力に絶句しつつ、サザビー辺境伯はなんとか言葉を紡いだ。
「そこは否定せんよ」
サザビー辺境伯の呟きに、クレイは悪そうな笑みを浮かべる。
「本人次第だが、な」
「兵法好きなのであろう?」
「好きだけでモノになるなら苦労はせん」
「そりゃそうだ」
愚問だったとサザビー辺境伯が笑う。
「知識としての兵法など役に立たんどころか、成長の妨げにしかならんからな。一度位を見た上でぶち壊す」
兵法に限らず、物事は実施を以て蕾となり、それを支える心身の成長を以て開花する。
知識は糧となるが、過信は毒となる。
実を得るには、それらのバランスが重要だと言うコトだ。
まず心身を鍛えて下地を作り、技を繰り返して身体に馴染ませ、知識として理論を理解する。
一定の完成を見た後、次の段階に進む。
そうして極めていくのが正しい順序である。
クレイはシチローにこれをさせようと考えていた。
サザビー辺境伯も同じ考えである。
「モノになれば良いな」
「こればかりは、やってみんと分からんからな」
なんだかんだ言いながら、クレイ自身もシチローのノビシロに期待しているようだった。
「取り敢えず、剣の握りと姿勢からだがな」
「ソコからかよ!?」
「あるのは知識だけなんだよ!本人は棒きれ一本振ったコトがないそうだ」
「前途多難だな、おい」
同じ兵法家であるサザビー辺境伯との会話を楽しいと、クレイは笑って頷く。
前世では徳川家茂と名乗る少年だった。
徳川家茂は幕末の日本の舵を取るコトを期待され、徳川十四代将軍として迎え入れられつつ、二十歳という若さで病没した悲劇の将軍である。
決断力があり、臣下の話しを良く聞き、常に将軍であろうと努力した生真面目な少年だった。
幕末という難しい時代の狭間で、強硬な外国人排斥を命じる孝明天皇と、消極的排斥を考慮する幕臣の板挟みになりながら、日本にとって最も良い方法を模索し続けた少年は、海軍の重要性を慮り海軍の訓練所を開設したり、フランスとの友好を深めたりと、諸外国を嫌悪するだけでなく、立場と感情を理解しつつ利用するバランス感覚に優れていた。
勝海舟をして『家茂公が成熟したなら、どれほどの名君となっただろうか』と嘆いたという。
また、家茂は武道に対しても誠実であり、幕末の剣豪として明治天皇の御前で冑割りをひろかした榊原鍵吉は、道場の上座に家茂の額を掛け、道場に入る度に頭を下げていたほど尊敬していた。
これは榊原鍵吉の師である男谷信友や、幕末三舟の一、山岡鉄舟も同じで、剣術を志す幕臣に慕われ続けていた。
就任期間は短くとも、徳川将軍の中でもトップランクの名君であった。
そうした前世を持つ魂が、クレイとサザビーが出会ったハーライト王国の王族として転生してきた。
王子は順調に皇太子となり、ハーライト国王として成長する。
傭兵のサザビーはルナイテに従って功を得、辺境伯の爵位を賜り、クレイはルナイテ肝煎りで組織の基盤を作った。
ルナイテの進言で組織は表面化させず、王家と切り離して行動するコトとなったが、これは自分がいなくなった後の王族に利用されないための措置だった。
結果、ルナイテは組織作りに尽力しつつ、対外的には無関係を貫き、クレイとの接触すら憚ったのである。
ルナイテは夭逝した前世に比べて人並みの人生を送り、転生者の処遇をサザビー辺境伯に託して亡くなった。
ルナイテがエルフだったならばと、人族であるコトを惜しまれた最期であった。
ルナイテの跡を継いだ皇太子は、サザビー辺境伯に組織の活用を命じるが、サザビー辺境伯はこれを笑い飛ばして惚け通した。
そのため、組織は存在しないものとして成長し、現在まで活動を続けているのである。
クレイがルナイテと対面したとき、ルナイテは先祖の話を聞きたがり、斟酌なく答えると大笑いしながら手を叩いて喜んだ。
この一事で、クレイはルナイテという転生者が好きになっていた。
「この数日で観察した限り、顕著な能力はないな。まだ顕在化してないか、著しく低いか・・・様子見だな」
シチローの能力のコトである。
町に着くまで、クレイはシチローにこの世界を説明しながら、シチローの一挙手一投足を観察していた。
出した結論が、
「貧弱」
であった。
筋力は女児並み、瞬発力は女児以下、持久力は平均を大きく下回り、耐久性は無いに等しい。
魔物で謂えばスライムである。
前世が病に侵され、スライド状態で転生したなら、それはそれで仕方ない話なのだろう。
むしろ前世の病を持ち込まなかった一点においてのみ僥幸であろう。
シチローの話では、二日に一回は血を綺麗にしないと死ぬ病だったという。
それがこの世界に来て改善されたらしい。
身体を鍛えられなかった分、これからのノビシロは未知数である。
「鍛え甲斐がありそうだな」
酷すぎるシチローの身体的能力に絶句しつつ、サザビー辺境伯はなんとか言葉を紡いだ。
「そこは否定せんよ」
サザビー辺境伯の呟きに、クレイは悪そうな笑みを浮かべる。
「本人次第だが、な」
「兵法好きなのであろう?」
「好きだけでモノになるなら苦労はせん」
「そりゃそうだ」
愚問だったとサザビー辺境伯が笑う。
「知識としての兵法など役に立たんどころか、成長の妨げにしかならんからな。一度位を見た上でぶち壊す」
兵法に限らず、物事は実施を以て蕾となり、それを支える心身の成長を以て開花する。
知識は糧となるが、過信は毒となる。
実を得るには、それらのバランスが重要だと言うコトだ。
まず心身を鍛えて下地を作り、技を繰り返して身体に馴染ませ、知識として理論を理解する。
一定の完成を見た後、次の段階に進む。
そうして極めていくのが正しい順序である。
クレイはシチローにこれをさせようと考えていた。
サザビー辺境伯も同じ考えである。
「モノになれば良いな」
「こればかりは、やってみんと分からんからな」
なんだかんだ言いながら、クレイ自身もシチローのノビシロに期待しているようだった。
「取り敢えず、剣の握りと姿勢からだがな」
「ソコからかよ!?」
「あるのは知識だけなんだよ!本人は棒きれ一本振ったコトがないそうだ」
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