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第2章 ライフワーク
第22話 裏柳生
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「そのシチローな。能力は確認したのか?」
自分の感情を振り切るようにジョッキを呷り、サザビー辺境伯はクレイに尋ねた。
転生者には能力者が多い。
この世界には魔力という前世には無かった力があり、人の生活を底上げしている。
魔力には個人差があり、使えない者もいるし、使える者も能力値がピンキリという曖昧さだった。
当然能力値により個人の価値が変動し、能力値を補完する魔力量でほぼ確定する。
つまり、魔力量が多くて能力値が高い者が偉いと認識される世界である。
転生者はほぼ能力値が高く、魔力量も一般人より多いのがクレイの調べた結果だが、近年とんでもない魔力量を有する転生者が増えた。
そういう者たちは、自身のコトをチートと称し、身勝手な行動を取るようになる。
クレイが討伐した転生者はその最たる者たちだった。
転生者であるコトを広言し、一般人を害するようになると、盗賊として討伐依頼がギルドに出るのだ。
クレイはギルドと契約し、転生者の討伐依頼は一括して請け負っている。
会ってクレイに従ってくれれば保護し、反抗すれば討伐する。
また、各地の新生児に能力値が高い者があれば出向き、転生者であれば動向を監視しつつ成人を待って保護し、環境次第では強制的に保護する。
クレイは長い時間をかけ、それが出来る環境と組織を作ってきた。
保護の方法も、多くはサザビー辺境伯の領地に集め、暴走を避ける教育を施し、仕事の斡旋や組織の構成員として受け入れる。
近年になればなるほど、転生者の考え違いが目立ち、それが前世の『サブカルチャー』に因を発すると理解してからは、クレイは頭を抱えてしまった。
要は物語の主人公と自分を混同しているのだ。
もちろん物語のような展開があれば、自分を主人公として振る舞う気持ちも判らないではない。
しかし、それはこの世界の秩序や、一般人への迷惑を鑑みない理由とはならない。
クレイは冒険者として、サザビー辺境伯はこの世界の貴族として、この世界と転生者の橋渡しをしていたのだ。
力を世界のために使う組織は『裏柳生』と言った。
クレイのネーミングセンスこそどうにかしたいサザビー辺境伯だったが、何故か近年の転生者たちには受けが良い。
ちなみに、前世には裏柳生と言った組織は存在していない。
柳生家の領地が伊賀に近く、旧くから交流があったコトから、柳生家に仕官したり、新陰流を習った者が多いのは事実だし、宗矩が諜報に活用していたコトもあるが、組織としての活動ではなかったし、名称があった訳でもない。
宗矩の諜報活動で中心的な役割を担ったのは、各地に派遣され、または仕官した新陰流の高弟たちだった。
各地の領主は密偵を密偵と理解して雇っていたコトになる。
新陰流の高弟を受け入れなければ、異心有りと痛くない腹を探られてしまう。であれば、最初から受け入れてしまい、幕府の心証を良くしようと考えるのだ。
柳生宗矩が諸家に畏れられた所以である。
後年これが裏柳生と誤解され、柳生家が謀臣とされた原因になる。
むしろ宗矩は誤解を誤解のまま真実のように振る舞ったフシもあるが。
幕府としても使い勝手が良かったのであろう。宗矩に監視・監督を旨とする役職に登用したりしている。
もちろん、クレイがこの架空の隠密組織を意識したハズもなく、単にクレイ自身のセンスの問題であったわけだが、クレイは期せずして、世の厨二病患者が泣いて喜ぶ組織を立ち上げたコトになる。
また、クレイが冒険者ギルドを立ち上げ理由の一つも、組織の隠れ蓑として利用出来るからである。
ギルドの上層部は組織の存在を認識している。のみならず、積極的に支援している。
これは転生者の能力をギルドに取り入れるコトを目的とし、冒険者の層を厚くするためでもある。
基本的に冒険者ギルドは国に依存しない。
王族や貴族であっても干渉出来ない組織である。
冒険者ギルドで冒険者になるというコトは、国の軛を離れるコトを意味する。
クレイがシチローをギルドに連れて行った理由もここにある。
能力に優れた転生者を、国の管理の中に組み込ませないためだ。
国に登録された転生者は、使い潰されてしまう。
知識を搾り取るため、貴族に拷問された転生者がいる。
奴隷に落とされ商人の所有物となった転生者がいる。
クレイが組織を立ち上げる前は、転生者たちはこの世界の権力者たちの喰い物にされていたのである。
クレイ自身も転生者であるコト以前にエルフであるコトから、色々な権力者に狙われていた。
クレイが助かったのは、成人前から既に兵法家であったためでしかない。
ただの力のないエルフの子供だったとすれば、クレイは成人すらしていなかった可能性は大きい。
それはサザビー辺境伯も同じである。
前世の知識を持つドワーフだ。
どんなコトをしても手に入れたい奴は現れる。
その結果、両親を喪い、傭兵として転戦しながら流れ続け、とある作戦でクレイと出会ったのだ。
同じ転生者であり、兵法家であり、似た境遇を経たクレイとサザビーは意気投合し、転生者を護るための構想を練ったが、ここに組織を立ち上げるために重要な人物と出会う。
自分の感情を振り切るようにジョッキを呷り、サザビー辺境伯はクレイに尋ねた。
転生者には能力者が多い。
この世界には魔力という前世には無かった力があり、人の生活を底上げしている。
魔力には個人差があり、使えない者もいるし、使える者も能力値がピンキリという曖昧さだった。
当然能力値により個人の価値が変動し、能力値を補完する魔力量でほぼ確定する。
つまり、魔力量が多くて能力値が高い者が偉いと認識される世界である。
転生者はほぼ能力値が高く、魔力量も一般人より多いのがクレイの調べた結果だが、近年とんでもない魔力量を有する転生者が増えた。
そういう者たちは、自身のコトをチートと称し、身勝手な行動を取るようになる。
クレイが討伐した転生者はその最たる者たちだった。
転生者であるコトを広言し、一般人を害するようになると、盗賊として討伐依頼がギルドに出るのだ。
クレイはギルドと契約し、転生者の討伐依頼は一括して請け負っている。
会ってクレイに従ってくれれば保護し、反抗すれば討伐する。
また、各地の新生児に能力値が高い者があれば出向き、転生者であれば動向を監視しつつ成人を待って保護し、環境次第では強制的に保護する。
クレイは長い時間をかけ、それが出来る環境と組織を作ってきた。
保護の方法も、多くはサザビー辺境伯の領地に集め、暴走を避ける教育を施し、仕事の斡旋や組織の構成員として受け入れる。
近年になればなるほど、転生者の考え違いが目立ち、それが前世の『サブカルチャー』に因を発すると理解してからは、クレイは頭を抱えてしまった。
要は物語の主人公と自分を混同しているのだ。
もちろん物語のような展開があれば、自分を主人公として振る舞う気持ちも判らないではない。
しかし、それはこの世界の秩序や、一般人への迷惑を鑑みない理由とはならない。
クレイは冒険者として、サザビー辺境伯はこの世界の貴族として、この世界と転生者の橋渡しをしていたのだ。
力を世界のために使う組織は『裏柳生』と言った。
クレイのネーミングセンスこそどうにかしたいサザビー辺境伯だったが、何故か近年の転生者たちには受けが良い。
ちなみに、前世には裏柳生と言った組織は存在していない。
柳生家の領地が伊賀に近く、旧くから交流があったコトから、柳生家に仕官したり、新陰流を習った者が多いのは事実だし、宗矩が諜報に活用していたコトもあるが、組織としての活動ではなかったし、名称があった訳でもない。
宗矩の諜報活動で中心的な役割を担ったのは、各地に派遣され、または仕官した新陰流の高弟たちだった。
各地の領主は密偵を密偵と理解して雇っていたコトになる。
新陰流の高弟を受け入れなければ、異心有りと痛くない腹を探られてしまう。であれば、最初から受け入れてしまい、幕府の心証を良くしようと考えるのだ。
柳生宗矩が諸家に畏れられた所以である。
後年これが裏柳生と誤解され、柳生家が謀臣とされた原因になる。
むしろ宗矩は誤解を誤解のまま真実のように振る舞ったフシもあるが。
幕府としても使い勝手が良かったのであろう。宗矩に監視・監督を旨とする役職に登用したりしている。
もちろん、クレイがこの架空の隠密組織を意識したハズもなく、単にクレイ自身のセンスの問題であったわけだが、クレイは期せずして、世の厨二病患者が泣いて喜ぶ組織を立ち上げたコトになる。
また、クレイが冒険者ギルドを立ち上げ理由の一つも、組織の隠れ蓑として利用出来るからである。
ギルドの上層部は組織の存在を認識している。のみならず、積極的に支援している。
これは転生者の能力をギルドに取り入れるコトを目的とし、冒険者の層を厚くするためでもある。
基本的に冒険者ギルドは国に依存しない。
王族や貴族であっても干渉出来ない組織である。
冒険者ギルドで冒険者になるというコトは、国の軛を離れるコトを意味する。
クレイがシチローをギルドに連れて行った理由もここにある。
能力に優れた転生者を、国の管理の中に組み込ませないためだ。
国に登録された転生者は、使い潰されてしまう。
知識を搾り取るため、貴族に拷問された転生者がいる。
奴隷に落とされ商人の所有物となった転生者がいる。
クレイが組織を立ち上げる前は、転生者たちはこの世界の権力者たちの喰い物にされていたのである。
クレイ自身も転生者であるコト以前にエルフであるコトから、色々な権力者に狙われていた。
クレイが助かったのは、成人前から既に兵法家であったためでしかない。
ただの力のないエルフの子供だったとすれば、クレイは成人すらしていなかった可能性は大きい。
それはサザビー辺境伯も同じである。
前世の知識を持つドワーフだ。
どんなコトをしても手に入れたい奴は現れる。
その結果、両親を喪い、傭兵として転戦しながら流れ続け、とある作戦でクレイと出会ったのだ。
同じ転生者であり、兵法家であり、似た境遇を経たクレイとサザビーは意気投合し、転生者を護るための構想を練ったが、ここに組織を立ち上げるために重要な人物と出会う。
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