22 / 84
第2章 ライフワーク
第21話 想い
しおりを挟む
長岡は無二斎と相談し、武蔵を召喚してこれに対しようとしたのだ。
藩内の騒動ではなく、兵法家同士の対決にまで引き落としたのである。
対決は細川家主導で行われ、対決場所への立ち入りは厳しく制限された。
佐々木小次郎と宮本武蔵は打ち合い、武蔵の木刀が小次郎を打ち、昏倒させたコトで勝負は決した。
武蔵は長岡の進言に従い、直ちに島を抜け出したが、気絶から醒めた小次郎は、長岡が手配した武蔵の弟子たちに斬り殺されてしまう。
細川家は士道不覚悟として、巌流の御役御免を言い渡すコトが出来た。
すべてが武蔵の策略と誤解した巌流残党は、武蔵を仇として跡を付け狙うようになる。
後日そのコトを知った武蔵は、細川家の弟子を罷免し、細川家を去るコトとなる。
巌流島の対決で長岡の中に武蔵の敗北はなく、結果は既に織り込み済みのデキレースだった訳だ。
この対決に、佐々木家にも武蔵にも、得るものはほとんど無かった。
ただ細川家のみが利を得る結果を生んだだけであった。
すべては長岡家老の思惑通りにコトは成ったのだ。
元々巌流は中条流の流れを汲む鐘巻流の傍流で、初代佐々木小次郎が立てたとされている。
巌流道場では初代小次郎が中条流の富田勢源の仕太刀を務め、小太刀の中条流を長太刀で相手するうちに天啓を得たコトになっていた。
しかし、長岡家老はまったく信用していなかった。
室町幕府で重鎮の細川家の家老である。
あらかたの兵法家と縁もある。
中条流富田山崎将監を知り、鐘巻流鐘巻自斎を知っても、佐々木小次郎は知らないのだ。
密かに調べても、鐘巻流印可の書状は現存するも、佐々木小次郎宛ではないと言う事実が知れた。
佐々木小次郎は佐々木家の嘱望を肩に剣術修行の旅に出たのは間違いないものの、旅の途中で修行を忘れ、身を持ち崩していった。
若い兵法家が陥る罠である。
また、佐々木小次郎は美形で知られ、それも落ちぶれる原因となる。
中間仲間を斬って逃げた小次郎は、鐘巻流印可を得たという若い兵法家と出会う。
自身が得られなかった栄光を一身に浴びたような兵法家に、小次郎は暗い怨嗟を纏って付き従う。
小次郎は兵法家を謀り、印可状を奪ってしまう。
佐々木小次郎は一心不乱に剣術修行をやり直すと、他人の印可状を手に意気揚々と故郷に帰った。
親類一同は歓喜し、小次郎のために道場を開く。
小次郎は自身の流派を巌流とし、親類たちが集めた弟子に剣術を教え始めるようになる。
これが初代佐々木小次郎である。
武蔵が対決したのは、三代目佐々木小次郎であり、兵法に夢を託した若武者であった。
長岡家老の思惑を知らなかったとはいえ、若い兵法家をむざむざと殺させてしまったコトに、武蔵は例えようもない無力感を味わった。
ある意味トラウマになったと言っていい。
兵法家が試合で倒れるのはいい。
それは運命でもある。
試合は相手と自分。技や覚悟、心構えが拙い方が倒れるだけである。
しかし、誰か他人の介在で倒れるコトを決められるのはダメだ。
自分が兵法家から武芸者に貶められた事実に、修行の旅が流浪の旅に変わってしまった。
この世界への転生が想いだとすれば、何故転生先が人族より寿命が長いドワーフだったのか。
クレイは自身と照らし合わせ、兵法の探求か仕官への未練と断じていたが、サザビー辺境伯自身それらを魅力的だとは思わなかった。
あるとすれば、芸術への思い入れだろう。
すべてを忘れて作品に没頭する至高の時間。それこそが、自身をドワーフに転生させたのだと、サザビー辺境伯は確信していた。
クレイには説明していない。する必要もないし、考えてない。
何故なら、これはサザビー辺境伯自身の問題だからだ。
とはいえ、兵法家であるクレイを拒絶もしない。
兵法が嫌いな訳ではないのだから。
この世界の兵法は、前世の兵法より楽しいのも事実だからだ。
新陰流を進化せしめたクレイとの兵法談義も楽しい。
二天一流の改変も楽しい。
それを振るう戦場も楽しいのだ。
エルビン・サザビーとして、前世とは無縁の生を生きるのが楽しい。
では何故、前世を引き摺るように兵法に携わるのか、兵法家であるクレイと友誼を深めるのか。
思いに反する行動に、サザビー辺境伯は自問するが、答えはまだ出ない。
人生に満足しながら人生を諦めたのが前世であり、くすぶっているのが今世の自分である。
「どうであろうな」
クレイが思うほど拘っていないとも思う。
アレは試合ではなかった。
ただの政争だ。
自分は利用されただけでしかない。
だからこそ、武蔵は自身の著書に巌流との試合は書かなかった。
いや、書けなかった。
それが利用されたコトへの反抗か、兵法家としての矜持かは分からないが、この話をした時、クレイは、
『利用されたと判じた時点で斬れば良かったのだ。養父も、城代も』
凄まじい笑顔で即答した。
柳生の梟雄と称された男は、この世界で野獣となった。
それが羨ましくもあり、楽しくもあった。
「分からんコトを考えても仕方あるまい?」
クレイは緩やかに笑っていた。
藩内の騒動ではなく、兵法家同士の対決にまで引き落としたのである。
対決は細川家主導で行われ、対決場所への立ち入りは厳しく制限された。
佐々木小次郎と宮本武蔵は打ち合い、武蔵の木刀が小次郎を打ち、昏倒させたコトで勝負は決した。
武蔵は長岡の進言に従い、直ちに島を抜け出したが、気絶から醒めた小次郎は、長岡が手配した武蔵の弟子たちに斬り殺されてしまう。
細川家は士道不覚悟として、巌流の御役御免を言い渡すコトが出来た。
すべてが武蔵の策略と誤解した巌流残党は、武蔵を仇として跡を付け狙うようになる。
後日そのコトを知った武蔵は、細川家の弟子を罷免し、細川家を去るコトとなる。
巌流島の対決で長岡の中に武蔵の敗北はなく、結果は既に織り込み済みのデキレースだった訳だ。
この対決に、佐々木家にも武蔵にも、得るものはほとんど無かった。
ただ細川家のみが利を得る結果を生んだだけであった。
すべては長岡家老の思惑通りにコトは成ったのだ。
元々巌流は中条流の流れを汲む鐘巻流の傍流で、初代佐々木小次郎が立てたとされている。
巌流道場では初代小次郎が中条流の富田勢源の仕太刀を務め、小太刀の中条流を長太刀で相手するうちに天啓を得たコトになっていた。
しかし、長岡家老はまったく信用していなかった。
室町幕府で重鎮の細川家の家老である。
あらかたの兵法家と縁もある。
中条流富田山崎将監を知り、鐘巻流鐘巻自斎を知っても、佐々木小次郎は知らないのだ。
密かに調べても、鐘巻流印可の書状は現存するも、佐々木小次郎宛ではないと言う事実が知れた。
佐々木小次郎は佐々木家の嘱望を肩に剣術修行の旅に出たのは間違いないものの、旅の途中で修行を忘れ、身を持ち崩していった。
若い兵法家が陥る罠である。
また、佐々木小次郎は美形で知られ、それも落ちぶれる原因となる。
中間仲間を斬って逃げた小次郎は、鐘巻流印可を得たという若い兵法家と出会う。
自身が得られなかった栄光を一身に浴びたような兵法家に、小次郎は暗い怨嗟を纏って付き従う。
小次郎は兵法家を謀り、印可状を奪ってしまう。
佐々木小次郎は一心不乱に剣術修行をやり直すと、他人の印可状を手に意気揚々と故郷に帰った。
親類一同は歓喜し、小次郎のために道場を開く。
小次郎は自身の流派を巌流とし、親類たちが集めた弟子に剣術を教え始めるようになる。
これが初代佐々木小次郎である。
武蔵が対決したのは、三代目佐々木小次郎であり、兵法に夢を託した若武者であった。
長岡家老の思惑を知らなかったとはいえ、若い兵法家をむざむざと殺させてしまったコトに、武蔵は例えようもない無力感を味わった。
ある意味トラウマになったと言っていい。
兵法家が試合で倒れるのはいい。
それは運命でもある。
試合は相手と自分。技や覚悟、心構えが拙い方が倒れるだけである。
しかし、誰か他人の介在で倒れるコトを決められるのはダメだ。
自分が兵法家から武芸者に貶められた事実に、修行の旅が流浪の旅に変わってしまった。
この世界への転生が想いだとすれば、何故転生先が人族より寿命が長いドワーフだったのか。
クレイは自身と照らし合わせ、兵法の探求か仕官への未練と断じていたが、サザビー辺境伯自身それらを魅力的だとは思わなかった。
あるとすれば、芸術への思い入れだろう。
すべてを忘れて作品に没頭する至高の時間。それこそが、自身をドワーフに転生させたのだと、サザビー辺境伯は確信していた。
クレイには説明していない。する必要もないし、考えてない。
何故なら、これはサザビー辺境伯自身の問題だからだ。
とはいえ、兵法家であるクレイを拒絶もしない。
兵法が嫌いな訳ではないのだから。
この世界の兵法は、前世の兵法より楽しいのも事実だからだ。
新陰流を進化せしめたクレイとの兵法談義も楽しい。
二天一流の改変も楽しい。
それを振るう戦場も楽しいのだ。
エルビン・サザビーとして、前世とは無縁の生を生きるのが楽しい。
では何故、前世を引き摺るように兵法に携わるのか、兵法家であるクレイと友誼を深めるのか。
思いに反する行動に、サザビー辺境伯は自問するが、答えはまだ出ない。
人生に満足しながら人生を諦めたのが前世であり、くすぶっているのが今世の自分である。
「どうであろうな」
クレイが思うほど拘っていないとも思う。
アレは試合ではなかった。
ただの政争だ。
自分は利用されただけでしかない。
だからこそ、武蔵は自身の著書に巌流との試合は書かなかった。
いや、書けなかった。
それが利用されたコトへの反抗か、兵法家としての矜持かは分からないが、この話をした時、クレイは、
『利用されたと判じた時点で斬れば良かったのだ。養父も、城代も』
凄まじい笑顔で即答した。
柳生の梟雄と称された男は、この世界で野獣となった。
それが羨ましくもあり、楽しくもあった。
「分からんコトを考えても仕方あるまい?」
クレイは緩やかに笑っていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
無能妃候補は辞退したい
水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。
しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。
帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。
誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。
果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか?
誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく
かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。
ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!?
俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。
第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。
「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」
信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。
賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。
様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する!
異世界ざわつき転生譚、ここに開幕!
※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。
※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。
覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
イジメられっ子世に憚る。
satomi
ファンタジー
主人公須藤正巳はぼんやりと教室で授業を受けていた。その時、突然教室中に物凄い量の光が…。 正巳が属する2-C全員が異世界転移することとなってしまった。 その世界では今まで正巳が陰キャとして読み漁ったラノベともゲームとも異なり、レベルがカウントダウン制。つまりレベル999よりレベル1の方が強い。という世界だった。 そんな中、クラスのリーダー的陽キャである神谷により全員で教室の外に出ることに。 いきなりドラゴンに出会い、クラスの全員がとった行動が『正巳を囮にして逃げること』だった。 なんとか生き延びた正巳は、まず逃げた連中へ復讐を誓う。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる