異世界・野獣暴れ旅 ~スローライフに憧れて~

送り狼

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第2章 ライフワーク

第21話 想い

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 長岡は無二斎と相談し、武蔵を召喚してこれに対しようとしたのだ。

 藩内の騒動ではなく、兵法家同士の対決にまで引き落としたのである。

 対決は細川家主導で行われ、対決場所への立ち入りは厳しく制限された。

 佐々木小次郎と宮本武蔵は打ち合い、武蔵の木刀が小次郎を打ち、昏倒させたコトで勝負は決した。

 武蔵は長岡の進言に従い、直ちに島を抜け出したが、気絶から醒めた小次郎は、長岡が手配した武蔵の弟子たちに斬り殺されてしまう。

 細川家は士道不覚悟として、巌流の御役御免を言い渡すコトが出来た。

 すべてが武蔵の策略と誤解した巌流残党は、武蔵を仇として跡を付け狙うようになる。

 後日そのコトを知った武蔵は、細川家の弟子を罷免し、細川家を去るコトとなる。

 巌流島の対決で長岡の中に武蔵の敗北はなく、結果は既に織り込み済みのデキレースだった訳だ。

 この対決に、佐々木家にも武蔵にも、得るものはほとんど無かった。

 ただ細川家のみが利を得る結果を生んだだけであった。

 すべては長岡家老の思惑通りにコトは成ったのだ。

 元々巌流は中条流の流れを汲む鐘巻流の傍流で、初代佐々木小次郎が立てたとされている。

 巌流道場では初代小次郎が中条流の富田勢源の仕太刀を務め、小太刀の中条流を長太刀で相手するうちに天啓を得たコトになっていた。

 しかし、長岡家老はまったく信用していなかった。

 室町幕府で重鎮の細川家の家老である。

 あらかたの兵法家と縁もある。

 中条流富田山崎将監を知り、鐘巻流鐘巻自斎を知っても、佐々木小次郎は知らないのだ。

 密かに調べても、鐘巻流印可の書状は現存するも、佐々木小次郎宛ではないと言う事実が知れた。

 佐々木小次郎は佐々木家の嘱望を肩に剣術修行の旅に出たのは間違いないものの、旅の途中で修行を忘れ、身を持ち崩していった。

 若い兵法家が陥る罠である。

 また、佐々木小次郎は美形で知られ、それも落ちぶれる原因となる。

 中間仲間を斬って逃げた小次郎は、鐘巻流印可を得たという若い兵法家と出会う。

 自身が得られなかった栄光を一身に浴びたような兵法家に、小次郎は暗い怨嗟を纏って付き従う。

 小次郎は兵法家を謀り、印可状を奪ってしまう。

 佐々木小次郎は一心不乱に剣術修行をやり直すと、他人の印可状を手に意気揚々と故郷に帰った。

 親類一同は歓喜し、小次郎のために道場を開く。

 小次郎は自身の流派を巌流とし、親類たちが集めた弟子に剣術を教え始めるようになる。

 これが初代佐々木小次郎である。

 武蔵が対決したのは、三代目佐々木小次郎であり、兵法に夢を託した若武者であった。

 長岡家老の思惑を知らなかったとはいえ、若い兵法家をむざむざと殺させてしまったコトに、武蔵は例えようもない無力感を味わった。

 ある意味トラウマになったと言っていい。

 兵法家が試合で倒れるのはいい。

 それは運命でもある。

 試合は相手と自分。技や覚悟、心構えが拙い方が倒れるだけである。

 しかし、誰か他人の介在で倒れるコトを決められるのはダメだ。

 自分が兵法家から武芸者に貶められた事実に、修行の旅が流浪の旅に変わってしまった。

 この世界への転生が想いだとすれば、何故転生先が人族より寿命が長いドワーフだったのか。

 クレイは自身と照らし合わせ、兵法の探求か仕官への未練と断じていたが、サザビー辺境伯自身それらを魅力的だとは思わなかった。

 あるとすれば、芸術への思い入れだろう。

 すべてを忘れて作品に没頭する至高の時間。それこそが、自身をドワーフに転生させたのだと、サザビー辺境伯は確信していた。

 クレイには説明していない。する必要もないし、考えてない。

 何故なら、これはサザビー辺境伯自身の問題だからだ。

 とはいえ、兵法家であるクレイを拒絶もしない。

 兵法が嫌いな訳ではないのだから。

 この世界の兵法は、前世の兵法より楽しいのも事実だからだ。

 新陰流を進化せしめたクレイとの兵法談義も楽しい。

 二天一流の改変も楽しい。

 それを振るう戦場も楽しいのだ。

 エルビン・サザビーとして、前世とは無縁の生を生きるのが楽しい。

 では何故、前世を引き摺るように兵法に携わるのか、兵法家であるクレイと友誼を深めるのか。

 思いに反する行動に、サザビー辺境伯は自問するが、答えはまだ出ない。

 人生に満足しながら人生を諦めたのが前世であり、くすぶっているのが今世の自分である。

「どうであろうな」

 クレイが思うほど拘っていないとも思う。

 アレは試合ではなかった。

 ただの政争だ。

 自分は利用されただけでしかない。

 だからこそ、武蔵は自身の著書に巌流との試合は書かなかった。

 いや、書けなかった。

 それが利用されたコトへの反抗か、兵法家としての矜持かは分からないが、この話をした時、クレイは、

『利用されたと判じた時点で斬れば良かったのだ。養父も、城代も』

 凄まじい笑顔で即答した。

 柳生の梟雄と称された男は、この世界で野獣となった。

 それが羨ましくもあり、楽しくもあった。

「分からんコトを考えても仕方あるまい?」

 クレイは緩やかに笑っていた。
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