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第2章 ライフワーク
第20話 巌流
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「即答かよ」
「分からんもんを相手に頭を捻っても仕方あるまい」
「頭を捻ってるうちに良い考えが浮かぶコトもあろうに」
「そりゃ頭を捻って良い考えが浮かぶヤツの仕事だ。ワシはその浮かんだ考えを吟味するだけよ」
カラカラとサザビー辺境伯が笑う。
「お前が弟子にしても良いくらいは性根は据わっておろう?」
「それも含めて分からんのだ。が、家光タイプではあるな」
見るコトに特化したタイプということだ。
「おいおい。大丈夫なのか?」
家光を直接は知らないが、サザビー辺境伯も前世で弟子を採っていたからか、過去に聞いたクレイの愚痴に似た説明で、おおよそ家光のコトは理解していた。
権力に邪魔され、まともな教導が出来ない、弟子としてはゴミとかクズに等しい。
「権力がない家光はただの悪ガキさ。鍛えればモノになるかも知れんし、な。そう言えば、シチローは面白いコトを言っていたな」
「シチロー・・・それがソイツの名か?」
「佐野七郎だそうだ。そのシチローがな、自分は視るためにこの世界に来たのではないか、とな」
「想いを叶えるためではなく、か?」
サザビー辺境伯が訝しげにクレイを見る。
クレイの予測では、前世の想いが強く残った者が、この世界に転生して想いを遂げるのではなかったか?
自分の人生に満足して前世を終えたつもりだったが、サザビー辺境伯はこの世界に転生してきた。
だが、やはりまだくすぶった想いがあったのだろうと、クレイと出会って理解した。
それが出会った直後の斬撃となった。
それはクレイも同じだったらしい。
『楽しいなぁ』
鐔競り合いの最中、剥き出しの笑顔で同時に語りかけたのだ。
どれだけ取り繕おうと、闘争本能と剣は満足するコトがないらしい。
サザビー辺境伯はクレイの言葉に納得したのだ。
そうではない転生者がいる。
確かに問題と言えば問題だな。
「そうらしい」
「どういった素性だ?」
「前世は学生で病気のために夭逝したらしい。歴史や兵法に興味があり、オレやお前の前世も知っている」
「病気で夭逝なら転生しても問題・・・そうか、そのままこちら側に来たのだったな」
「そうだ。オレがエルドの森の側で見つけた時が、こちらの世界に来た直後だったのだろうな。シチローは全裸だった」
「おいおい、大丈夫なのか?」
笑いながら、サザビー辺境伯が先ほどと同じセリフを口にする。
能力云々より人間性や変態性を考慮せにゃならんのは、さすがに嫌だぞ?
冗談半分の軽口に、クレイも笑う。
「それはそうと、まだ吹っ切れてないのか?」
先ほど見せたサザビー辺境伯の苦い顔に、クレイは斬り込んだ。
転生して人間性が円くなったとはいえ、まだまだ気遣いは苦手であった。
「巌流がコトか?」
サザビー辺境伯の表情に再び苦いものが混ざる。
宮本武蔵の代表的な試合の相手である。
巌流・佐々木小次郎。
宮本武蔵をして最悪の試合と言わせ、以後は自ら選んだ者しか弟子としなかった原因である。
通常兵法家は、多くの弟子を集め、流派の隆盛を図る。
そのために目立つように立ち回り、実力以上に吹聴し、権力者の庇護を獲ようと画策する。
宮本武蔵もまたそうして来た。
その結果が、弟子の育成に嫌悪感すら持つようになった試合に繋がる。
父親の新免無二斎が武蔵に一つの依頼を持って来たのは、九州北部に領地を持つ、細川家の家老長岡延元を訪ねた時だった。
長岡は、細川家の剣術指南役の巌流が、町中で我慢ならない振る舞いを起こすと憂い、それが細川家の施政に繋がる後ろ楯に由来すると説明する。
細川家は巌流の御役御免を申し渡したいものの、誰もが納得出来る理由がなく処分しては、後ろ楯が反旗を翻す可能性が高い。
一介の浪人者に決闘を申し込まれ、負けでもすれば、細川家は巌流の未熟を理由に処分が出来るだろうと考えたのだ。
ちょうどその時、武蔵が長岡を訪ねたのだ。
細川家が九州に転封される前からの馴染みである長岡の依頼であり、無二斎が世話になっている事実もある。
また、武蔵を先生と慕う弟子たちの存在もあった。
この時点で、武蔵に否やは無かった。
実は無二斎に呼ばれての来訪であったが、武蔵はそれを快諾した。
九州北部の修験道者に強い影響を持つ豪族、佐々木家は、細川家移封に際して地域の安定を条件に、細川家老職への参入を願ったが、長岡はこれを断り、剣術指南役として召し抱えた。
佐々木家は雀躍してこれを喜び、巌流道場をして治安維持に力を入れた。
弟子の数が増えるにつれ、町人との間に確執が深まり、細川家は対応に追われるコトとなる。
調子に乗りすぎた巌流道場が町人に嫌われ、チンピラと化したのだ。
巌流道場側は処罰は細川家に反抗する結果しか生まないと嘯き、細川家首脳を悩ませた。
転封大名は地方豪族と上手くやるコトで施策を行う。
そうでなければ地方豪族に反抗され、まともな施策も実施出来ないまま、幕府に領地の運営がなっていないと叱責され、領地の縮小や変更、最悪御家取り潰しの憂き目を見るコトになる。
「分からんもんを相手に頭を捻っても仕方あるまい」
「頭を捻ってるうちに良い考えが浮かぶコトもあろうに」
「そりゃ頭を捻って良い考えが浮かぶヤツの仕事だ。ワシはその浮かんだ考えを吟味するだけよ」
カラカラとサザビー辺境伯が笑う。
「お前が弟子にしても良いくらいは性根は据わっておろう?」
「それも含めて分からんのだ。が、家光タイプではあるな」
見るコトに特化したタイプということだ。
「おいおい。大丈夫なのか?」
家光を直接は知らないが、サザビー辺境伯も前世で弟子を採っていたからか、過去に聞いたクレイの愚痴に似た説明で、おおよそ家光のコトは理解していた。
権力に邪魔され、まともな教導が出来ない、弟子としてはゴミとかクズに等しい。
「権力がない家光はただの悪ガキさ。鍛えればモノになるかも知れんし、な。そう言えば、シチローは面白いコトを言っていたな」
「シチロー・・・それがソイツの名か?」
「佐野七郎だそうだ。そのシチローがな、自分は視るためにこの世界に来たのではないか、とな」
「想いを叶えるためではなく、か?」
サザビー辺境伯が訝しげにクレイを見る。
クレイの予測では、前世の想いが強く残った者が、この世界に転生して想いを遂げるのではなかったか?
自分の人生に満足して前世を終えたつもりだったが、サザビー辺境伯はこの世界に転生してきた。
だが、やはりまだくすぶった想いがあったのだろうと、クレイと出会って理解した。
それが出会った直後の斬撃となった。
それはクレイも同じだったらしい。
『楽しいなぁ』
鐔競り合いの最中、剥き出しの笑顔で同時に語りかけたのだ。
どれだけ取り繕おうと、闘争本能と剣は満足するコトがないらしい。
サザビー辺境伯はクレイの言葉に納得したのだ。
そうではない転生者がいる。
確かに問題と言えば問題だな。
「そうらしい」
「どういった素性だ?」
「前世は学生で病気のために夭逝したらしい。歴史や兵法に興味があり、オレやお前の前世も知っている」
「病気で夭逝なら転生しても問題・・・そうか、そのままこちら側に来たのだったな」
「そうだ。オレがエルドの森の側で見つけた時が、こちらの世界に来た直後だったのだろうな。シチローは全裸だった」
「おいおい、大丈夫なのか?」
笑いながら、サザビー辺境伯が先ほどと同じセリフを口にする。
能力云々より人間性や変態性を考慮せにゃならんのは、さすがに嫌だぞ?
冗談半分の軽口に、クレイも笑う。
「それはそうと、まだ吹っ切れてないのか?」
先ほど見せたサザビー辺境伯の苦い顔に、クレイは斬り込んだ。
転生して人間性が円くなったとはいえ、まだまだ気遣いは苦手であった。
「巌流がコトか?」
サザビー辺境伯の表情に再び苦いものが混ざる。
宮本武蔵の代表的な試合の相手である。
巌流・佐々木小次郎。
宮本武蔵をして最悪の試合と言わせ、以後は自ら選んだ者しか弟子としなかった原因である。
通常兵法家は、多くの弟子を集め、流派の隆盛を図る。
そのために目立つように立ち回り、実力以上に吹聴し、権力者の庇護を獲ようと画策する。
宮本武蔵もまたそうして来た。
その結果が、弟子の育成に嫌悪感すら持つようになった試合に繋がる。
父親の新免無二斎が武蔵に一つの依頼を持って来たのは、九州北部に領地を持つ、細川家の家老長岡延元を訪ねた時だった。
長岡は、細川家の剣術指南役の巌流が、町中で我慢ならない振る舞いを起こすと憂い、それが細川家の施政に繋がる後ろ楯に由来すると説明する。
細川家は巌流の御役御免を申し渡したいものの、誰もが納得出来る理由がなく処分しては、後ろ楯が反旗を翻す可能性が高い。
一介の浪人者に決闘を申し込まれ、負けでもすれば、細川家は巌流の未熟を理由に処分が出来るだろうと考えたのだ。
ちょうどその時、武蔵が長岡を訪ねたのだ。
細川家が九州に転封される前からの馴染みである長岡の依頼であり、無二斎が世話になっている事実もある。
また、武蔵を先生と慕う弟子たちの存在もあった。
この時点で、武蔵に否やは無かった。
実は無二斎に呼ばれての来訪であったが、武蔵はそれを快諾した。
九州北部の修験道者に強い影響を持つ豪族、佐々木家は、細川家移封に際して地域の安定を条件に、細川家老職への参入を願ったが、長岡はこれを断り、剣術指南役として召し抱えた。
佐々木家は雀躍してこれを喜び、巌流道場をして治安維持に力を入れた。
弟子の数が増えるにつれ、町人との間に確執が深まり、細川家は対応に追われるコトとなる。
調子に乗りすぎた巌流道場が町人に嫌われ、チンピラと化したのだ。
巌流道場側は処罰は細川家に反抗する結果しか生まないと嘯き、細川家首脳を悩ませた。
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