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第2章 ライフワーク
第19話 会見
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翌日、オレは早くから屋敷を出、領主の館を訪れた。
ヤツもなかなかに忙しいようで、時間が取れなかったそうだ。
町の門と広島を直線で結んだ延長線上に、サザビー辺境伯の館はある。
通常は敵の侵入を分散させるため、直線的な町割りはしないものだが、サザビー辺境伯はほとんど頓着せず、暮らしやすい町割りを行っていた。
誰に攻められても門を通す気はないという、サザビー辺境伯の気概の現れだという。
事実、サザビー辺境伯はその武威を以て地位に任じられ、その半面細やかな配慮で町を発展させてきた。
何もない荒野から、町を作り上げたのだ。
その間、辺境伯領に隣接する他国の領主は、幾度となくちょっかいをかけてきたが、サザビー辺境伯はすべての戦闘で敵を凪ぎ払って来た。
徹底的に。
嗤いながら。
いつの間にかサザビー辺境伯は、『脳筋サザビー』の二つ名を陰ながら付けられていた。
部隊編成を無視して単騎で敵の部隊に突入する指揮官は、世界広しといえサザビーくらいのものだろう。
当時はバトルアックスでフルプレートアーマーを馬ごとブッた切っていたが、クレイが太刀を鍛造し始めてからは、太刀をはくコトが多くなった。
それでもフルプレートアーマーの馬ごとブッた切るのは変わらない。
しかも『脳筋の』の二つ名は、敵味方双方から、同時多発的に言われ始めたという。
サザビー辺境伯と幾度となく同じ戦場に立ったクレイは、大笑いしながら歴史の証人となったものだ。
ちなみにサザビー辺境伯の前で二つ名を呼ぶバカはいない。
クレイでなければ、例外なく刀の錆になるからだ。
「錆になどするものか。きちんと手入れはしているからな」
と、口の端を上げて宣うサザビー辺境伯だが、洒落たつもりのその言葉がまた、『脳筋』の『脳筋』たる所以になっていると、本人はまだ気付いていない。
クレイも親切に教えてやる気はない。
ドワーフの平均的な体型を言葉にすると、がっしりした体幹、太い腕、短い足、身長は低く、体毛が濃い。
性格は陽気だが頑固。酒好きで怒りっぽく、手先は器用。
膂力が強く、鍛冶を生業にするものが多い。
「なんじゃ」
まんまドワーフを絵に描いたような男が、訝しげにクレイを見る。
ドワーフには珍しく、仕立てが上等の服を着ている。
しかし、ドワーフらしく着崩している。
エルビン・トール・サザビー辺境伯。
前世では宮本武蔵玄信、あるいは新免武蔵を名乗った男だ。
「いや、似合うよな」
まじまじとサザビー辺境伯を見ながら、クレイは一人頷いていた。
片眉を上げてサザビー辺境伯は酒を満たした木製のジョッキを呷る。
「堅苦しいのは好かん」
ボソッと呟くが、クレイの言葉は服装を指したものではなく、サザビー辺境伯本人を指したものだ。
宮本武蔵が転生してドワーフ。似合いすぎて面白みに欠ける。
「例の面白いヤツの話か?」
「あぁ。からかい甲斐があるヤツでな」
ふと笑うクレイに、サザビー辺境伯は口元の泡を乱暴に腕で拭う。
「転生者か?」
「それは間違いない」
はぐらかしている風にも見えるクレイの態度に、サザビー辺境伯は腕組みをして理由を探ろうとする。
「何か問題があるのか?」
「問題があるとすればあるかな」
「煮えきらんのぉ」
「生まれ変わりではない、突然こちらの世界に現れた転生者だ」
「ほぉ?」
この世界への転生者はすでに何人も確認されているし、現在進行形で調査されている。
そのすべてが生まれ変わりによる転生で、確認された中に転移を思わせる転生はなかった。
サザビー辺境伯もそれは理解しているし、彼自身がクレイと同じく転生者を保護する立場にあるため、クレイの情報は興味をそそった。
「それが何ぞこの世界に影響があるのか?」
「分からん。あるかも知れんし、無いかも知れん」
「分からんコトが問題か」
サザビー辺境伯は自身の身長ほどもある樽にジョッキを突っ込み、クレイを見やる。
「お前もやるか?」
「オレは飲んべえじゃない」
「ワシもそうじゃ」
生真面目に返すサザビー辺境伯に、クレイは肩をすくめて笑う。
この部屋、サザビー辺境伯の執務室には、巨木から削り出したような机と、テーブルとソファーの応客セットの他、何故かエールの樽がインテリアのように置いてあり、壁の花となっている。
他家の執務室であれば、本人や家族の肖像画や風景画などの絵画や、王室からの証明書や感謝状が飾り付けられているものだが、サザビー辺境伯の執務室にはそうした華美さは欠片もない。
よく言えば質実剛健。
サザビー辺境伯なら無頓着だ。
自身の趣味を飾るコトもあるだろうが、酒樽を飾っているのはサザビー辺境伯くらいのものだろう。
サザビー辺境伯は空になった酒樽を転がし、壁際から新しい酒樽を持って来て、自分の傍らに置いた。
「で、どうするよ」
さっそく樽を開け、ジョッキを突っ込む。
「取り敢えずオレの元に置いておく。一応弟子ってコトにしてるしな」
「判った」
ヤツもなかなかに忙しいようで、時間が取れなかったそうだ。
町の門と広島を直線で結んだ延長線上に、サザビー辺境伯の館はある。
通常は敵の侵入を分散させるため、直線的な町割りはしないものだが、サザビー辺境伯はほとんど頓着せず、暮らしやすい町割りを行っていた。
誰に攻められても門を通す気はないという、サザビー辺境伯の気概の現れだという。
事実、サザビー辺境伯はその武威を以て地位に任じられ、その半面細やかな配慮で町を発展させてきた。
何もない荒野から、町を作り上げたのだ。
その間、辺境伯領に隣接する他国の領主は、幾度となくちょっかいをかけてきたが、サザビー辺境伯はすべての戦闘で敵を凪ぎ払って来た。
徹底的に。
嗤いながら。
いつの間にかサザビー辺境伯は、『脳筋サザビー』の二つ名を陰ながら付けられていた。
部隊編成を無視して単騎で敵の部隊に突入する指揮官は、世界広しといえサザビーくらいのものだろう。
当時はバトルアックスでフルプレートアーマーを馬ごとブッた切っていたが、クレイが太刀を鍛造し始めてからは、太刀をはくコトが多くなった。
それでもフルプレートアーマーの馬ごとブッた切るのは変わらない。
しかも『脳筋の』の二つ名は、敵味方双方から、同時多発的に言われ始めたという。
サザビー辺境伯と幾度となく同じ戦場に立ったクレイは、大笑いしながら歴史の証人となったものだ。
ちなみにサザビー辺境伯の前で二つ名を呼ぶバカはいない。
クレイでなければ、例外なく刀の錆になるからだ。
「錆になどするものか。きちんと手入れはしているからな」
と、口の端を上げて宣うサザビー辺境伯だが、洒落たつもりのその言葉がまた、『脳筋』の『脳筋』たる所以になっていると、本人はまだ気付いていない。
クレイも親切に教えてやる気はない。
ドワーフの平均的な体型を言葉にすると、がっしりした体幹、太い腕、短い足、身長は低く、体毛が濃い。
性格は陽気だが頑固。酒好きで怒りっぽく、手先は器用。
膂力が強く、鍛冶を生業にするものが多い。
「なんじゃ」
まんまドワーフを絵に描いたような男が、訝しげにクレイを見る。
ドワーフには珍しく、仕立てが上等の服を着ている。
しかし、ドワーフらしく着崩している。
エルビン・トール・サザビー辺境伯。
前世では宮本武蔵玄信、あるいは新免武蔵を名乗った男だ。
「いや、似合うよな」
まじまじとサザビー辺境伯を見ながら、クレイは一人頷いていた。
片眉を上げてサザビー辺境伯は酒を満たした木製のジョッキを呷る。
「堅苦しいのは好かん」
ボソッと呟くが、クレイの言葉は服装を指したものではなく、サザビー辺境伯本人を指したものだ。
宮本武蔵が転生してドワーフ。似合いすぎて面白みに欠ける。
「例の面白いヤツの話か?」
「あぁ。からかい甲斐があるヤツでな」
ふと笑うクレイに、サザビー辺境伯は口元の泡を乱暴に腕で拭う。
「転生者か?」
「それは間違いない」
はぐらかしている風にも見えるクレイの態度に、サザビー辺境伯は腕組みをして理由を探ろうとする。
「何か問題があるのか?」
「問題があるとすればあるかな」
「煮えきらんのぉ」
「生まれ変わりではない、突然こちらの世界に現れた転生者だ」
「ほぉ?」
この世界への転生者はすでに何人も確認されているし、現在進行形で調査されている。
そのすべてが生まれ変わりによる転生で、確認された中に転移を思わせる転生はなかった。
サザビー辺境伯もそれは理解しているし、彼自身がクレイと同じく転生者を保護する立場にあるため、クレイの情報は興味をそそった。
「それが何ぞこの世界に影響があるのか?」
「分からん。あるかも知れんし、無いかも知れん」
「分からんコトが問題か」
サザビー辺境伯は自身の身長ほどもある樽にジョッキを突っ込み、クレイを見やる。
「お前もやるか?」
「オレは飲んべえじゃない」
「ワシもそうじゃ」
生真面目に返すサザビー辺境伯に、クレイは肩をすくめて笑う。
この部屋、サザビー辺境伯の執務室には、巨木から削り出したような机と、テーブルとソファーの応客セットの他、何故かエールの樽がインテリアのように置いてあり、壁の花となっている。
他家の執務室であれば、本人や家族の肖像画や風景画などの絵画や、王室からの証明書や感謝状が飾り付けられているものだが、サザビー辺境伯の執務室にはそうした華美さは欠片もない。
よく言えば質実剛健。
サザビー辺境伯なら無頓着だ。
自身の趣味を飾るコトもあるだろうが、酒樽を飾っているのはサザビー辺境伯くらいのものだろう。
サザビー辺境伯は空になった酒樽を転がし、壁際から新しい酒樽を持って来て、自分の傍らに置いた。
「で、どうするよ」
さっそく樽を開け、ジョッキを突っ込む。
「取り敢えずオレの元に置いておく。一応弟子ってコトにしてるしな」
「判った」
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