異世界・野獣暴れ旅 ~スローライフに憧れて~

送り狼

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第2章 ライフワーク

第25話 素直な阿保

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「エルフは目の前にいるとして・・・ドワーフとかワーウルフとかワーキャットとか?」

「ドワーフはそのままだが、犬人とか猫人とか狼人だな」

 ワーウルフやワーキャットがどんなかは分からんが、動物の特徴を持つ獣人族は存在するし、転生者が増えているのはそうした種族だ。

 シチローは目をキラキラさせながらも、

「だとすれば・・・」

 と言葉を区切り、

「小説とかアニメとかマンガの影響・・・かな?」

 と続ける。

「何だ、それは?」

「小説は・・・講談本?マンガは草子、アニメは動く草子?」

 ますます分からん。

 シチローは身振り素振りで説明しようとするが、基本的なコトが理解出来ないのだから仕方ない。

「つまり、講談とは講釈ってコトか」

 漸く理解出来る単語に辿り着く。

 武家の講釈は軍法を善くする家にお邪魔し、話聞かせから始まり、六韜三略を諳じ、礼法を修める。

 小笠原流や上泉流、楠流など、割りと多い。

 無役の旗本や御家人には丁度良いアルバイトみたいなものだ。

 一般人相手なら、神社や寺院で開かれる読み聞かせであり、軍記や経、漢詩などを題材にする。

 基本的に俗な物語が多いとシチローに説明され、オレは浄瑠璃に近いのかと納得した。



「なるほど。物語の中では力量を数値化して解り易く説明するのか。とすれば、それが転生に影響して、力量の視覚化として定着したわけだ」

 オレはシチローの説明通りに力量の視覚化を試してみたが、まったく反応しなかった。

 シチローも試しているが、オレ同様さっぱり反応はなかった。
 
 えらい落ち込みようだが、やはり能力だと言うコトだろう。

 個人差で現れる能力は異なるのだ。

 転生者に人族以外が増えたのも、同じ理由だろう。

 『さぶかるちゃあ』で種族の違いに忌避感がなくなり、逆に憧れのような感情を持ちながら転生すると、人族以外になる可能性が高くなる。

「文化の変革で選択肢が増えたってコトか」

「クレイのように、偶然エルフに転生するって方が稀なんじゃないの?ナターシアさんも人族だし、昔の転生者は今ほど選択肢がなかったみたいな」

 前世で異世界の知識がなければ、種族の多様性すら想像出来ないと考えれば、選択肢などあるはずもないのだ。

 シチローは、前世とこの世界は時間軸が沿って流れ、死亡した時点で隣の世界に魂が移動し、生まれ変わるのではないかと推論した。

 時間軸がランダムなら、今日死んだ魂が去年に転生していたなんて事態もあり得る話だと言う。

 それでも記憶の持ち越しは説明出来ないが。

 それこそ想いの強さなのだろうと思うコトにする。

「そういえば、クレイはこの町の領主と友人なんだよな?まさか、そのサザビー辺境伯も・・・?」

「ん?ああ、ヤツも転生者だな」

「え?誰?」

「武蔵」

 さらりと告げるオレに、シチローの目が点になる。

「・・・宮本?」

 ため息のように漏れでたシチローの言葉に、オレは頷く。

 シチローの中で何かしらの葛藤がありそうだ。その何とも言えない表情を見て、オレはニヤニヤと笑う。

 本来なら伏せておくべき情報なのだろうが、シチローの思い悩むような姿を見ると、そうした常識的な思考は霧散した。

「・・・あ」

 しばらく悶えていたシチローが、何かに気付いて声を上げる。

 

「どうした?」

「・・・」

「・・・?」

「・・・クレイ。僕がクレイの考察に合わない理由が解ったかも・・・」

「何だ?」

「僕はさ、兵法とか剣豪とか流派ってのが好きなんだよ。強くなりたいとか、違う自分になりたいとか、この世界を楽しみたいとかじゃなく、ただ兵法や剣豪が好きなんだ」

 シチローが何を言いたいのか理解出来ず、オレはじっとシチローから視線を外さず話を促した。

「つまり、僕はこの世界の一部としての転生者ではなく、単なる傍観者ってコト」

「どういうコトだ?」

「僕は転生した兵法者を見るためだけに転生した人間ってコト」

 だからシチローは、オレが言う転生者の枠から外れた存在として、ここにいるってコトか。

「・・・」

「・・・?」

 自分が導き出した答えに自信があるのか、シチローはオレの肯定を期待した視線を投げてくる。

 が、

「そんな訳あるかーっ!!」

 オレはシチローは頭を袋竹刀で殴った。

 オレに最後まで敵対して斬られた阿保共とは違うが、コイツはコイツで阿保だ。

 家光が恐ろしくひねくれた阿保だとすれば、コイツは恐ろしく素直な阿保だ。

 拗ねた性格で口の利き方も知らないガキだが、見た目以上にガキだ。

 自分をどれだけ特別だと考えているんだ?

 シチローが転生者の枠から外れた存在であるのは間違いないとして、好きな兵法を観るためだけに転生したなど、戯言以外の何物でもない。

 ましてやそれを真実であると信じられる程、シチローは人として未熟であった。

「お前がどんな存在かは分からん。が、その性根は叩き直さねば転生者の是非に拘わる。明日より甘えは許さず鍛えるゆえ覚悟いたせ!」

 オレは白目を剥いて気絶するシチローに言い捨て、道場を後にした。

 聞いてはいないだろうが。

「シチローを見てやれ。目が醒めたら明日より厳しくすると伝えてくれ」

 道場脇に控えていたサクラに声をかけ、オレは自室に向かった。

 真面目に話していたのに茶化されたような苛立ちが、未だ身内から抜けずにイラつく悪循環に、クレイの表情は益々憮然としていた。

 
 
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