異世界・野獣暴れ旅 ~スローライフに憧れて~

送り狼

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第3章 鍛練

第80話 命乞い

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 喧嘩を遊びだと思っているのかと、僕はリーダーっぽい冒険者を見て言った。

 膝下のフリューゲスは首に剣先がちょっとだけ刺さり、大人しく震えていた。

「一度人に危害を加えようと振り上げた拳だろう?そこはもう命のやり取りの場じゃないのか?」

「喧嘩と殺し合いは違う!」

 リーダーっぽい冒険者が僕と睨み合う。

「どう違う?お前たちは剣を抜いておきながら、遊びだからと笑うのか?」

「フリューゲスは殴ろうとしただけだ」

 そう。殴ろうとしただけ。

 新人相手に中堅以上の冒険者で囲んで、な。

「分からないな。こいつは指折りの冒険者なんだろう?新人が殴られてただで済む程度の実力なのか?」

 現代日本でも格闘技の有段者が拳を奮えば、拳は凶器と見なされる。

 ましてや身体能力に補正がかかっているこの世界で、取り敢えず有力な冒険者が拳を奮えば、新人冒険者なんてあっという間に再起不能か死ぬだろう。

 一方にだけ死の危険を突き付ける理不尽に、何故付き合わなければならないのか?

「・・・」

 僕が言いたいコトを理解したのか、リーダーっぽい冒険者は黙り込んだ。

「つまり、こいつの拳は剣と同じなんだよ。剣を抜かれた先には命の取り合いしかないじゃないか」

 僕は重ねてリーダーっぽい冒険者に、邪魔をするなと言い募る。

「それでも、頼む。この場は俺に預けてくれないか」

 自分たちの理不尽さを理解し、拳に握り締めて肩を震わせながら、リーダーっぽい冒険者は僕に頭を下げる。

 頼むコト自体が恥ずかしいコトだと分かって尚、フリューゲスの命乞いをするリーダーっぽい冒険者に、僕はため息を吐いてしまう。

 こうなった以上、続けるコト自体不可能だ。
  
「・・・アンタ、名前は?」

 呆れ半分、忌々しさ半分で、僕はリーダーっぽい冒険者の名前を尋ねる。

 どうしようもないから任せるにしても、任せた相手の名前すら知らないでは話にならない。

「トリス・モーガン」

「・・・次はない」

 リーダーっぽい冒険者はすんなりと名前を告げ、僕はトリスに釘を刺す。

 これ以上絡むなら、次は問答無用で斬り伏せるつもりだった。

「感謝する」

 トリスもそれを理解したのか、これ以上はないと断言した上で頭を下げ、仲間の冒険者に指図し、放心状態のフリューゲスを引き摺るように去って行った。

 その姿を見ながら、僕は何故、トリス程の冒険者がフリューゲスの下に着いているのかを訝っていた。

 正直な話、フリューゲスが有力コミュニティのリーダーであるコト自体、何の冗談かと疑っていた。
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