異世界・野獣暴れ旅 ~スローライフに憧れて~

第５章 新興勢力

第102話 ハリガリ村

　ハリガリ村へと至る道は細い。

　商業道路から外れた村であるし、戸数も少ない上、主要産業と呼べるものが何も無いからだ。

　それでも寒村という印象を受けないのは、村民に悲壮感が見られないからだろう。

　自給自足が十分成り立ち、男女の比率や老若の割合のバランスが良く、加えて税率が低く設定されているため、無理なく生活出来ているためだ。

　転生者は、この村の一番若い夫婦の長女として産まれた。

　この国の聖女アリシアの名前を貰い、アリシエルと名付けられた。

　聖女アリシアは、建国の英雄王アルスランの双子の妹で、常にアルスランの傍らに控えて補佐し、光魔法を駆使する法術師として活躍した。

　アルスランと同じく、転生者だった。

　アリシアの人気は非常に高く、新生女児の名前によく使用される。

　ハリガリ村で『草』の任務にあたるエランは、村人の一人として新生児誕生を喜び、人一倍若夫婦に気遣っていた。

　若夫婦の夫は、自分の弟でもあったからだ。

　弟は『草』の任務を知らない、ただの村人として育った。

　エランとしては姪が転生者であるコトに忸怩たる思いもあったが、自身の立場と転生者が狙われている事実に危機感を抱き、裏柳生への庇護を求めたのだった。

　エランは成人後すぐ、冒険者になるために村を出た。

　父親の命令だったが、その時既に『草』の任務を教えられていたエランは、喜び勇んで旅立った。

　ソドリームのギルドで七年活動し、クレイの道場で鍛練してランクＣになった時、ハリガリ村に戻って『草』を引き継いだ。

　ハリガリ村で農業を営み、結婚して家族を作り、自警団として村を守るエランは、村の中心人物という立場になっていた。

　村長は別にあり世襲となっているため、治めるコトはないが、実質ナンバーツーとして村民を率いることが出来る。

　これが効を奏して怪しげな者たちの存在を察知することが出来た。

　『草』でなければ見逃した程度の異変だったが、姪に転生者の兆しを見たエランは、即座に裏柳生へ繋ぎを放ったのである。

　転生者は赤子とは思えない程、目が深い知性を湛えている。

　周囲の状況を把握することに努め、ほとんど手が掛からない上、精神的成長が著しく、何らかのスキルを生まれつき持っている。

　多くは神童と称され、成長を期待されるものの、親の愛情に恵まれない。

　これは間違いなく自分の子供であるにも関わらず、他人のような感覚に陥ることが原因である。

　転生者の遠慮が違和感を生み、得体の知れない何かが子供の中にいると、ある意味的を得た感情に襲われるからだ。