異世界・野獣暴れ旅 ~スローライフに憧れて~

送り狼

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第1章 推参!

第1話 マジ勘弁してください

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 鬼の血も赤いんだ。

 などと益体もなく考えていると、崩れ落ちた鬼の身体の向こうに、誰かが佇んでいるのが見えた。

 長い金髪をポニテにした、スラリと背が高い・・・おぉう、エルフだ。

 多分、エルフだろう。

 耳も長くて尖ってるし。

 エルフはやっぱり美形だった。

 男か女かも判断できない。

 とりあえず胸はぺったんこである。

 いやいや、そうじゃなくってさ!

 そのエルフさんは、右手に持った刀を血振りして肩に担ぎ、訝しげに僕を見た。

「・・・楽しそうだな」

 は?

 指で頬を掻きながらの第一声である。

 この声でエルフさんが男と判明。

 て言うか、何言ってんだ、この人?

 鬼の血を頭から被って怯える人を見て、言うことがソレか?

 ・・・ん?

 ていうか、日本語!?

「日本人・・・ですか?」

 落ち着いて観察すると、エルフさんは浴衣っぽい着物を着ていた。

 腰には黒塗りの刀の鞘を差し、左手を懐に入れ、ポリポリと掻いている。

 ポリポリと・・・。

 あぁ、これはあれだ。やっぱり夢だ。

 現実に鬼が存在するハズがないし、エルフな侍がいるハズない。ましてや風情も緊張感もなくポリポリする訳がない。

 僕の趣味が融合してこんなイミフな夢を作りあげたのだろう。

 太秦で自分が侍になったと信じている外国人を見ているような、そんな残ね・・・違和感がハンパない。

 ということは、僕は死なずに済んでるってコトだな。

「はぁ? 日本人? お前も日本人なのか?」

「当たり前じゃないですか」

 自分の中で納得がいったコトから、僕には余裕が出ていた。

 にこやかにエルフさんに応える。

「そうか。何が当たり前かは知らんが・・・まぁ頑張れ」

 エルフさんは刀を鞘に差し戻し、一言残して歩き出した。

 あからさまに厄介事から離れようとしている態度に、ちょっとカチンときた。

「僕が日本人だったら何なんですか」

「・・・」

 僕はエルフさんの後を追って話しかけるが、エルフさんが歩みを止めるコトはなかった。

「ちょっと待ってください、エルフさん」

「・・・」

 むしろ歩く速度が上がりやがった!

「エールーフーさーん!!」

「うるせーよ!!」

 エルフさんがしびれを切らせて振り返る。

「無視するコトはないじゃないですか」

「寄るな。ヘンタイが移る」

 ビシッと僕を指差し、エルフさんがのたまう。

「はぁ?誰がヘンタイだ!」

「股関に粗末な逸物を晒しながら、ヘンタイではないと言い張るかよ? ソレがオレのなら、恥ずかしくて真っ先に隠すがな」

 エルフさんの差した指が下に曲がり、口の端が弛む。

 僕は曲がった指先を目で追い、ソレを見付けた。

 詳しくは描写出来ないアレを・・・。

「・・・おぉう」

 マジ勘弁してください。





「佐野七郎ってのか」

 インベントリから服と下着を借り、僕はようやく落ち着いた。

 服は和服、下着は褌だが、マッパよりはマシだ。

 ブレないね、僕の夢は。

 鬼やエルフがいるファンタジーの世界で和服で日本刀とか。

 起きたら彼女に教えてあげよう。臨死体験はファンタジーですって。

 彼女がいい具合に作品にしてくれるかも知れないからね。

 彼女は自分で書いてたりするから。

 あぁ、ラノベと言えばインベントリです。サラッと流したけど。

 何でも入る、いくらでも入る、ファンタジー作品御用達の、時間固定に空間隔離のあのインベントリ(無限収納)です。

 いちいち驚くのも疲れるので、そういう異世界あるあるは、すべて受け入れる方向で妥協しまくりました。

 とりあえず自己紹介をして、お互いに歩み寄ろうとなった訳だが、何だか僕の名前にえらく食い付くエルフさんだった。

 日本人の名前が珍しいのか?

「佐野が苗字で七郎が名前にな・・・」

「知ってる」

 親切で教えてあげようとしたのに、間髪入れずに打ち捨てられてしまった。

「いや、すまんな。佐野の名は古い馴染みの名でな。しかも七郎。これはオレの小さい時の名前であった。つい懐かしくてな」

 エルフさんは小さく笑うと、

「今はクレイユ・エムリス・アリハザルト・コーダと名乗っている。親しい者はクレイと呼んでいる」

「それじゃクレイ・・・」

 長ぇよ!ってツッコミは喉の奥に押し込め、僕はクレイの言葉の意味を問おうとしたが、

「親しい者は、だ」

 と、愛称での呼称をソッコー拒否られた。

「んじゃコーダ」

 イラッとしても僕のせいじゃないだろう。

「年上に対する礼儀すら持てないのか?」

 年上どころか、すでに老害レベルの難癖である。

「話が進まないだろ、もと七郎」

「ほぉう」

 立ち止まり、ゆっくりと振り向く元七郎のクレイが刀を抜く。

 僕はその所作を目の端に捉えながら、まっすぐ元七郎のクレイの目を睨み付けた。

 夢の中だと大胆になれるのだ。

 ムスッとしていた元七郎のクレイが、不意にニヤリと笑う。

 元七郎のクレイの刀の切っ先が、いつの間にか首筋に当てられていた。

 まったく見えなかったんですけど・・・。

「豪胆なものよ」

 刀を引くと、鞘に納めながらカラカラと笑う。

 いやいや、見えなかったんだって。

 再びすたすたと歩き始めた元七郎のクレイの後を追・・・うコトが出来なかった。

 膝が笑うどころか、絶賛爆笑中で、立てているコトすら奇跡の範ある。

 夢の中でも怖いモンは怖いわっ!

「どうした、七郎・・・」

 十歩ほど先で、元七郎のクレイが踵を返す。

 しばし僕を見ると、それはもう楽しそうに歩き出した。

 豪胆さの正体があっさりバレた感じ?


   
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