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第1章 推参!
第3話 ソドリーム
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翌早朝、朝日が昇る前の朝焼けの中、門の外は喧騒に包まれる。
門が開くまでは若干の時間があるため、軽く朝食をとったり、野宿のあとを片付けたりするのだ。気の早い人は門の前に並んでたりする。
いづれも昨日の閉門に間に合わなかった、商人や冒険者、早朝から出稼ぎに来た近隣の村人たちであるらしい。
クレイと僕はのんびりと干し肉を食みながら、そんな人たちを眺めていた。
野宿といっても、鞣した毛皮にくるまり寝るだけだったし、朝食といっても、火を使って調理するわけでもないから、時間をとらなかった。
「並ばないの?」
「慌てるコトはない。どのみち今日、町には入れるさ」
早く起きて人間観察とか、何をしたいんだ?
訝しげな視線をクレイに向けると、ニヤリと悪い顔で笑う。
しばらくすると門が開き、兵士が検閲を始める。
歩きの者は簡単な聞き取りと納税、馬車の者は馬車内の検閲と聞き取りに納税、怪しい者は別所に連れて行かれ、町の住民や冒険者は証明書を提示して素通りである。
納税は一律銀貨一枚。
僕は所在なげに門の辺りに視線を向け、移ろう人の波を見るとはなしに見ていた。
「行こうか」
慌ただしい人波がはけ、門に入る人が疎らになった時、クレイはゆっくりと歩き出した。
僕が慌ててクレイを追うと、クレイは兵士に聞き取りを受けていた商人の後ろに付く。
「滞在は三日間だな」
「はい。さようでございます」
商人はにこやかに頷き、兵士に納税の銀貨を手渡す。
流れるような所作に慣れを感じたものの、クレイはニヤニヤ笑いながら、商人の肩越しに手元を覗き込んでいた。
どこの傾奇者だよ!
「これはクレイさん。クエスト終了ですか?」
クレイに気付いた兵士が、ニコリと笑い、商人を手振りで行かせた。
知り合いなのか、クレイが笑顔で応対すると、兵士は僕に視線を向けた。
「この子は?」
「弟子だ」
クレイは事も無げにそう宣った。
僕はいつからクレイの弟子になった?
「これは珍しい。クレイさんが人族の弟子をとるとか」
「そりゃいいが、いいのか?」
「はい?何がです?」
クレイの物言いに、兵士の頭に?が浮かぶ。
「ありゃ商人のナリをしてるが、盗賊か間者だぞ?」
そう言いつつ、クレイは商人の方に視線を投げる。
「っ!?そこの商人、待て!!」
クレイの言葉に兵士が固まり、直ぐに商人に向かって走り出す。
商人は辺りを見回して進退を図っていたようだが、諦めて腰のナイフを抜いた。
街の壁は厚く、門から街の中までちょっとしたトンネルになっている。
その中央辺りで、商人は正体を暴露されたのだ。
袋のネズミである。
「何で分かったんだ?」
僕は兵士に囲まれ抵抗する商人に目をやりながら、クレイに聞いた。
「足の運び、身体の捌き、気配の絶ち方、血の臭い・・・注意深く見てりゃ解るけどな」
「そんなもんか・・・」
クレイ、すごいな。遠目で足の運びや身体の捌き方を見て、怪しいと思い、気配の絶ち方で確信を持ち、近づいて血の臭いを嗅いで確認したようだ。
盗賊が盗品を売りさばきに来たのか、他国のスパイが情報を得に来たのかまでは判らないが、街にとって後々災いになるのは間違いないだろう。
「そんなもんさ」
偽商人と兵士の捕物を見遣りながら、クレイは呟いていた。
中々の手練れのようで、兵士たちが攻めあぐねていた。殺さず捕まえ、情報を引き出そうとしているから、どうしても後手に回ってしまうのだろう。
兵士たちが覚悟を決めたのか、雰囲気がガラリと変わった。
即死させなきゃ回復薬でなんとかなると開き直ったのだろうと、クレイが解説する。
回復薬あるのか。
しかし、雰囲気が変わったのは偽商人も同じだった。
ナイフを逆手に、自分の胸を突いて自決を図ったのだ。
「間者だったか」
回復薬を使用しても意味がないように、キッチリ死んで見せた偽商人に、クレイは頷いて笑う。
アンタ、どっち側だよ。
そうこうしている内に、兵士がこちらに走って来た。
「すみません、せっかく教えて頂いたのに、結局死なせてしまいました。しかし、さすがはクレイさん。アレが偽物だと良く判りましたね」
恐縮する兵士に、クレイは再びあの説明を繰り返す。
兵士はなるほどと呟きながら、頻りに頷いていた。
クレイはドヤッって顔をしていた。
しかし、兵士のクレイに対する腰の低さって言うか、丁寧さって何だろうね。
僕たちは兵士に見送られて門をくぐり抜けた。
やっと町の中かよ。どんだけだよ。
着いた当初から、街に入るまでの手間取り具合にゲンナリしつつも、僕は視界に入る町並みの綺麗さにしばし呆然とした。
道は門から真っ直ぐ延び、噴水を中央に配する広場まで続いている。
広場は門を正面に見て、後ろは公共施設や商家がならび、道に沿って宿屋や職人の店舗が軒を連ねている。
道は石畳みで舗装され、目に入る家は白い粘土で被われていた。
この町の建築基準なのか、町全体のほとんどが同じ仕様らしい。
文化水準が高いんじゃないか?
門が開くまでは若干の時間があるため、軽く朝食をとったり、野宿のあとを片付けたりするのだ。気の早い人は門の前に並んでたりする。
いづれも昨日の閉門に間に合わなかった、商人や冒険者、早朝から出稼ぎに来た近隣の村人たちであるらしい。
クレイと僕はのんびりと干し肉を食みながら、そんな人たちを眺めていた。
野宿といっても、鞣した毛皮にくるまり寝るだけだったし、朝食といっても、火を使って調理するわけでもないから、時間をとらなかった。
「並ばないの?」
「慌てるコトはない。どのみち今日、町には入れるさ」
早く起きて人間観察とか、何をしたいんだ?
訝しげな視線をクレイに向けると、ニヤリと悪い顔で笑う。
しばらくすると門が開き、兵士が検閲を始める。
歩きの者は簡単な聞き取りと納税、馬車の者は馬車内の検閲と聞き取りに納税、怪しい者は別所に連れて行かれ、町の住民や冒険者は証明書を提示して素通りである。
納税は一律銀貨一枚。
僕は所在なげに門の辺りに視線を向け、移ろう人の波を見るとはなしに見ていた。
「行こうか」
慌ただしい人波がはけ、門に入る人が疎らになった時、クレイはゆっくりと歩き出した。
僕が慌ててクレイを追うと、クレイは兵士に聞き取りを受けていた商人の後ろに付く。
「滞在は三日間だな」
「はい。さようでございます」
商人はにこやかに頷き、兵士に納税の銀貨を手渡す。
流れるような所作に慣れを感じたものの、クレイはニヤニヤ笑いながら、商人の肩越しに手元を覗き込んでいた。
どこの傾奇者だよ!
「これはクレイさん。クエスト終了ですか?」
クレイに気付いた兵士が、ニコリと笑い、商人を手振りで行かせた。
知り合いなのか、クレイが笑顔で応対すると、兵士は僕に視線を向けた。
「この子は?」
「弟子だ」
クレイは事も無げにそう宣った。
僕はいつからクレイの弟子になった?
「これは珍しい。クレイさんが人族の弟子をとるとか」
「そりゃいいが、いいのか?」
「はい?何がです?」
クレイの物言いに、兵士の頭に?が浮かぶ。
「ありゃ商人のナリをしてるが、盗賊か間者だぞ?」
そう言いつつ、クレイは商人の方に視線を投げる。
「っ!?そこの商人、待て!!」
クレイの言葉に兵士が固まり、直ぐに商人に向かって走り出す。
商人は辺りを見回して進退を図っていたようだが、諦めて腰のナイフを抜いた。
街の壁は厚く、門から街の中までちょっとしたトンネルになっている。
その中央辺りで、商人は正体を暴露されたのだ。
袋のネズミである。
「何で分かったんだ?」
僕は兵士に囲まれ抵抗する商人に目をやりながら、クレイに聞いた。
「足の運び、身体の捌き、気配の絶ち方、血の臭い・・・注意深く見てりゃ解るけどな」
「そんなもんか・・・」
クレイ、すごいな。遠目で足の運びや身体の捌き方を見て、怪しいと思い、気配の絶ち方で確信を持ち、近づいて血の臭いを嗅いで確認したようだ。
盗賊が盗品を売りさばきに来たのか、他国のスパイが情報を得に来たのかまでは判らないが、街にとって後々災いになるのは間違いないだろう。
「そんなもんさ」
偽商人と兵士の捕物を見遣りながら、クレイは呟いていた。
中々の手練れのようで、兵士たちが攻めあぐねていた。殺さず捕まえ、情報を引き出そうとしているから、どうしても後手に回ってしまうのだろう。
兵士たちが覚悟を決めたのか、雰囲気がガラリと変わった。
即死させなきゃ回復薬でなんとかなると開き直ったのだろうと、クレイが解説する。
回復薬あるのか。
しかし、雰囲気が変わったのは偽商人も同じだった。
ナイフを逆手に、自分の胸を突いて自決を図ったのだ。
「間者だったか」
回復薬を使用しても意味がないように、キッチリ死んで見せた偽商人に、クレイは頷いて笑う。
アンタ、どっち側だよ。
そうこうしている内に、兵士がこちらに走って来た。
「すみません、せっかく教えて頂いたのに、結局死なせてしまいました。しかし、さすがはクレイさん。アレが偽物だと良く判りましたね」
恐縮する兵士に、クレイは再びあの説明を繰り返す。
兵士はなるほどと呟きながら、頻りに頷いていた。
クレイはドヤッって顔をしていた。
しかし、兵士のクレイに対する腰の低さって言うか、丁寧さって何だろうね。
僕たちは兵士に見送られて門をくぐり抜けた。
やっと町の中かよ。どんだけだよ。
着いた当初から、街に入るまでの手間取り具合にゲンナリしつつも、僕は視界に入る町並みの綺麗さにしばし呆然とした。
道は門から真っ直ぐ延び、噴水を中央に配する広場まで続いている。
広場は門を正面に見て、後ろは公共施設や商家がならび、道に沿って宿屋や職人の店舗が軒を連ねている。
道は石畳みで舗装され、目に入る家は白い粘土で被われていた。
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