異世界・野獣暴れ旅 ~スローライフに憧れて~

送り狼

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第1章 推参!

第7話 転生者の各々

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 食事を終え、僕はクレイに真面目な話を振った。

 いつまでもバカ話を出来るほど、僕の進退は悠長にしてられないからだ。

 とりあえずナターシアさんに、僕の真意を理解して貰えたのは良かった。

「進退は自分で決めれば良い。一応安全のために弟子ってコトにしておくが、客分として遇しよう」

 クレイはそう言って笑った。

「いいの?」

「良いも悪いもなかろう?一応、先達としては、同胞を無碍には出来まいよ」

 僕は素直に頭を下げた。

 さんざん遊ばれたが、結果良ければそれで良しだ。ナターシアさんも微笑んで頷いてくれている。

「もしかして、ナターシアさんも・・・?」

 転生者だったりするのか?

「本名はマーサ・グレアムという。アメリカ人だったそうだ」

 ナターシアさんの代わりにクレイが答える。ナターシアさんは恥ずかしそうに笑ってるだけだ。

 マーサ・グレアムって・・・誰?

「彼女は奴隷だったのを、オレが身請けした」

 だから、爆弾発言をサラッと言うな!

「前世は詳しくは知らないが、満足しているらしい」

 ナターシアさんは小さく頷き、

「生涯をかけましたから」

 喋れたのか!!

 ナターシアさんは喋れない人だと思っていた。今まで喋ってなかったし。

 自分なりに気を遣ってたのに!

「時代は?」

「話してはくれないな」

「過去のコトですので」

 そう言って頭を下げる。

「これだ」

 人族でアメリカ人っていうなら、近代地球出身なのだろう。見た感じ、二十五歳前後ってとこか。 

 僕って例があるから、転生者がすべて有名人ってわけじゃないから、ナターシアさんはナターシアさんで良いってコトだな。

 クレイの豪放磊落な笑い声と、慈愛に満ちた目元の微笑みが、ナターシアの存在そのものを肯定している。

 て言うか、もうくっついちまえよ。何なんだ、この甘ったるい空間は!!

「さて、と。後は若い者同士に委せてましょうかね」

 どこぞの見合い仕掛け人のようなセリフを残し、僕は与えられた自室に戻る。

 付き合ってられるか。

 部屋に戻ると、ネコ耳メイドちゃんが待っていた。

 話を聞くと、僕に付けられた専属らしい。名前はサクラという。

 元戦災孤児で、僕のようにクレイに拾われて来たという。

 本名はサラクールと言うらしいが、クレイが付けてくれたと、恥ずかしそうに小さく笑った。

 まったくフラグ製造機ってヤツは始末に負えんな。






 翌日、僕はゴロゴロと過ごした。

 特に用件もなく、したい事もなかったからだ。

 クレイは今朝から出掛け、ナターシアさんは何も言わず、サクラもまた甲斐甲斐しく世話をやいてくれるだけだ。

 こりゃ堪らんな。

 僕は立ち上がり、外出するコトにした。

 町の観光はまだ完了してないし、何かをしていないとダメになりそうな気がしたからだ。

 スローライフには憧れるが、これじゃ引きニートになっちまう。

 ゆっくりするのと怠けるのじゃ意味が違う。

「てな訳で、ちょっと出掛けて来ます」

 廊下でちょうど顔を合わせたナターシアさんに告げ、僕は玄関へ足を向けた。

「え?ええっ!?どんな訳ですか!?ちょっと待ってください!サクラ!!」

「はい!ただ今!!」

 切羽詰まったナターシアさんの声に、サクラが慌てて現れる。

「シチロー殿がお出掛けです。馴れない町ゆえ、お供なさい」

 サクラの反応の速さにホッとし、落ち着きを取り戻したナターシアさんは、そう言って、サクラの手にそっと何かを握らせる。

「承りました」

 サクラは小さく頷き、僕の傍らに駆け寄ってくる。

「ご案内致しますので、今暫くお待ち願えますか?」

 僕が頷くと、サクラはパタパタと部屋へ引き返し、程なくして戻ってきた。

「お待たせ致しました」

 着替えに戻ったと思ったが、ポシェットを取りに戻っただけのようだ。

 連れ立って屋敷を出た僕らは、確実に奇妙なカップルだった。

 他人の着物を借りているためか、着物に着られている感が否めない僕に、ネコ耳メイド姿にポシェットを袈裟懸けにしているサクラ。

 町の人がすれ違い様に遠慮なくガン見するのは仕様に違いない。 

「どこへ向かわれているのですか?」

 サクラが遠慮がちに聞いてきた。

「さぁ。これと言って目的もないんだけど・・・」

「・・・はぁ」

 要領を得ない僕の言葉に、サクラは気の抜けた返事をする。

「強いて言うなら、町に馴れるための外出かな」

 地理を得るとか、行き付けになりそうな店を探すとか、自分という存在を町に定着させるとか、そういう意味合いの外出なわけで、目的と言える目的はない。

 僕の意図を理解したのか、サクラは僕の傍らに並び、僕が興味を持ったものに解説を付けてくれた。

「あの店の甘味は絶品ですが、ちょっとお高めで、お給金を頂いた日にだけ、自分へのご褒美として入ります」

「あの店は先ほどの店よりお安いですが、若干物足りなくあります」

「お土産にはこちらのお店ですかね。頼めば女の子好みの商品をチョイスして貰えるのですよ?」

 後半はサクラ御用達の甘味処の紹介になっていた。これが彼女の素なのだろう。

「実は南側のお店が隠れた名店と言われ、メニューにない品があるらしいのですが、名前が判らないため、常連さん以外の注文は難しいみたいです」

「なるほど。名前が判ったら一度行って見ようか?」

「はい!宜しくお願いします!!」

 えらい食い付き方だった。
  
 て言うか、これってデートだったか?
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