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第2章 ライフワーク
第13話 邂逅
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オーガが何に反応したかは分からないが、おそらく探していたものだ。
これはつまり、オーガはハグレや巣分けなどではなく、意図を持って行動していたに他ならない。
個人的な行動ではないコトは、オーガのこれまでの態度や行動で予測出来る。
態度が不真面目で、行動が雑なのだ。
断るコトが出来ない、統制の取れた集団の命令で、不承不承従っている印象が強い。
そう確信し、クレイはオーガを追った。
重要度は低いが放置も出来ない。さりとて確認された訳でもない目標を確保、もしくは殲滅するための探索。
オーガは単体で何日も森を探索していたのだろう。
嫌気がさしていたのかも知れない。拗ねていたのかも知れない。イラついていたのかも知れない。
そうした状況が一転、オーガは目当てのものを見つけた。
未だに気配を消しつつ、クレイは狂喜したオーガに付かず離れず、追跡を続けた。
オーガは吠えながら森を飛び出し、一瞬目標を見失ったように立ち止まるが、すぐに視線を固定して目標を確認する。
誰だ?
クレイは木に隠れるようにして、オーガの前方に呆然と佇む全裸の少年に目を剥いた。
ヤバい!
少年の姿に躊躇した一瞬の隙を突くように、オーガが動く。
あっという間に少年との距離を詰め、右腕を引き絞る。
ヤル気満々のオーガに、少年は驚いているだけで突っ立ったままだ。
緊張の余り、咄嗟の対応が出来ないのだろう。
クレイは縮地でオーガの背後に肉迫し、素早く刀の鯉口を切って腰を捻り、浴びせかけるように抜刀した。
その瞬間、オーガは雷に射たれたように硬直した。
オーガの左肩から右脇に赤い線が走り、頭と右肩がゆっくりと落ちていく。
クレイは余裕をもってオーガから距離を取り、返り血を回避して状況を見守った。
血煙の向こうに呆然としたままの少年が見える。
少年もクレイに気付いたようだ。
クレイは抜き身の太刀に血振りをし、肩に担ぐようにして少年に歩み寄る。
「・・・楽しそうだな」
何とはなしにクレイが呟く。
この何もない草原で全裸で佇む少年に、掛ける言葉が見つからなかったのだ。
状況的に盗賊に身ぐるみ剥がされたと見るコトも出来るが、そういった状況に相応しい悲壮感とか緊急性が、この少年からは欠片も伝わらない。
「日本人・・・ですか?」
ずいぶんと無遠慮にクレイを見ていた少年が、クレイの言葉に驚いていた。
「はぁ?日本人?・・・お前、日本人なのか?」
「当たり前じゃないですか」
あまりにのんき過ぎるセリフに、クレイは呆れてしまった。
転生者にしては異質だった。
普通、転生者は前世の記憶を引き継いだ赤ん坊としてこの世界に現れる。
あくまでもこの世界の住人だ。
当然容姿や知識はこの世界に準拠する。
しかし、この少年は違うようだ。
少年はクレイの言葉を日本語として認識している。クレイがこの世界の標準言語を喋っているにも関わらず、だ。
また、少年の雰囲気もおかしい。
人間はその場、その国、その世界に相応しい雰囲気を纏うものだ。
気配が違うというべきか。
とにかく、この少年は異質だった。
実年齢は分からないが、元服してニ、三年ってところだろうか。黒髪に黒い瞳、のっぺりとした顔立ち、日本人としては手足は長い。
あるいは外国人の血が交ざっているかも知れないが、日本語を喋っていると思っているくらいには日本人なのだろう。
しかし、何故全裸なのだろうか。
筋肉自慢をするほど筋肉は付いてないし、もとより自慢出来るほどの美しい体格でもない。むしろ貧相ですらある。
ここでクレイはハッとする。
そういう性癖なのではないか?
着衣を嫌い、全裸で生活をおくる者たちがいると、いつか聞いたコトがある。
その時は自宅内や自室で全裸になると聞いたが、中には川辺や海辺など、外で全裸になる者たちもいるらしい。
クレイ自身に他人の性癖をとやかく言うコトはないが、理解出来ないのであれば、これ以上関わる必要はなかった。
「何が当たり前かは知らんが・・・まぁ頑張れ」
転生者であろう人物の保護はクレイのライフワークの一つではあるが、この少年には関わるべきではない。
この世界には、明らかに前世の記憶を引き継いで産まれてくる者たちが存在する。
種族や性別、時代の別なくだ。
クレイ自身が日本の江戸時代初期、寛永時代に死去してエルフとして転生した経緯を持つ。
クレイの友人であるサザビー辺境伯もまた、同時代を生きた日本人だったが、人生を全うした上でドワーフに転生してきた。
他にも日本の学生だった山下忠文の記憶を持つ盗賊、山下の同級生だったという盗賊の横山光孝、同じく山下の同級生だった盗賊の平井則夫、JK下柳留美、日本の兵士、栗山康宏の記憶を持つ傭兵、医師だった寺岡和人、豊前中津川藩士小泉孫四郎など、クレイが出会った転生者は全て産まれ変わりだった。
ちなみに、盗賊になった転生者たちは、クレイに討伐され、傭兵と藩士はクレイに挑んで斃され、医師はクレイに斬られて果てた。
これはつまり、オーガはハグレや巣分けなどではなく、意図を持って行動していたに他ならない。
個人的な行動ではないコトは、オーガのこれまでの態度や行動で予測出来る。
態度が不真面目で、行動が雑なのだ。
断るコトが出来ない、統制の取れた集団の命令で、不承不承従っている印象が強い。
そう確信し、クレイはオーガを追った。
重要度は低いが放置も出来ない。さりとて確認された訳でもない目標を確保、もしくは殲滅するための探索。
オーガは単体で何日も森を探索していたのだろう。
嫌気がさしていたのかも知れない。拗ねていたのかも知れない。イラついていたのかも知れない。
そうした状況が一転、オーガは目当てのものを見つけた。
未だに気配を消しつつ、クレイは狂喜したオーガに付かず離れず、追跡を続けた。
オーガは吠えながら森を飛び出し、一瞬目標を見失ったように立ち止まるが、すぐに視線を固定して目標を確認する。
誰だ?
クレイは木に隠れるようにして、オーガの前方に呆然と佇む全裸の少年に目を剥いた。
ヤバい!
少年の姿に躊躇した一瞬の隙を突くように、オーガが動く。
あっという間に少年との距離を詰め、右腕を引き絞る。
ヤル気満々のオーガに、少年は驚いているだけで突っ立ったままだ。
緊張の余り、咄嗟の対応が出来ないのだろう。
クレイは縮地でオーガの背後に肉迫し、素早く刀の鯉口を切って腰を捻り、浴びせかけるように抜刀した。
その瞬間、オーガは雷に射たれたように硬直した。
オーガの左肩から右脇に赤い線が走り、頭と右肩がゆっくりと落ちていく。
クレイは余裕をもってオーガから距離を取り、返り血を回避して状況を見守った。
血煙の向こうに呆然としたままの少年が見える。
少年もクレイに気付いたようだ。
クレイは抜き身の太刀に血振りをし、肩に担ぐようにして少年に歩み寄る。
「・・・楽しそうだな」
何とはなしにクレイが呟く。
この何もない草原で全裸で佇む少年に、掛ける言葉が見つからなかったのだ。
状況的に盗賊に身ぐるみ剥がされたと見るコトも出来るが、そういった状況に相応しい悲壮感とか緊急性が、この少年からは欠片も伝わらない。
「日本人・・・ですか?」
ずいぶんと無遠慮にクレイを見ていた少年が、クレイの言葉に驚いていた。
「はぁ?日本人?・・・お前、日本人なのか?」
「当たり前じゃないですか」
あまりにのんき過ぎるセリフに、クレイは呆れてしまった。
転生者にしては異質だった。
普通、転生者は前世の記憶を引き継いだ赤ん坊としてこの世界に現れる。
あくまでもこの世界の住人だ。
当然容姿や知識はこの世界に準拠する。
しかし、この少年は違うようだ。
少年はクレイの言葉を日本語として認識している。クレイがこの世界の標準言語を喋っているにも関わらず、だ。
また、少年の雰囲気もおかしい。
人間はその場、その国、その世界に相応しい雰囲気を纏うものだ。
気配が違うというべきか。
とにかく、この少年は異質だった。
実年齢は分からないが、元服してニ、三年ってところだろうか。黒髪に黒い瞳、のっぺりとした顔立ち、日本人としては手足は長い。
あるいは外国人の血が交ざっているかも知れないが、日本語を喋っていると思っているくらいには日本人なのだろう。
しかし、何故全裸なのだろうか。
筋肉自慢をするほど筋肉は付いてないし、もとより自慢出来るほどの美しい体格でもない。むしろ貧相ですらある。
ここでクレイはハッとする。
そういう性癖なのではないか?
着衣を嫌い、全裸で生活をおくる者たちがいると、いつか聞いたコトがある。
その時は自宅内や自室で全裸になると聞いたが、中には川辺や海辺など、外で全裸になる者たちもいるらしい。
クレイ自身に他人の性癖をとやかく言うコトはないが、理解出来ないのであれば、これ以上関わる必要はなかった。
「何が当たり前かは知らんが・・・まぁ頑張れ」
転生者であろう人物の保護はクレイのライフワークの一つではあるが、この少年には関わるべきではない。
この世界には、明らかに前世の記憶を引き継いで産まれてくる者たちが存在する。
種族や性別、時代の別なくだ。
クレイ自身が日本の江戸時代初期、寛永時代に死去してエルフとして転生した経緯を持つ。
クレイの友人であるサザビー辺境伯もまた、同時代を生きた日本人だったが、人生を全うした上でドワーフに転生してきた。
他にも日本の学生だった山下忠文の記憶を持つ盗賊、山下の同級生だったという盗賊の横山光孝、同じく山下の同級生だった盗賊の平井則夫、JK下柳留美、日本の兵士、栗山康宏の記憶を持つ傭兵、医師だった寺岡和人、豊前中津川藩士小泉孫四郎など、クレイが出会った転生者は全て産まれ変わりだった。
ちなみに、盗賊になった転生者たちは、クレイに討伐され、傭兵と藩士はクレイに挑んで斃され、医師はクレイに斬られて果てた。
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