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第2章 ライフワーク
第14話 こんぱる
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刀を鞘に納めたクレイは、踵を返してその場を後にした。
少年が後ろから付いてくるのが気配で判ったが、クレイは足を緩めるコトなく、歩みを進めた。
「僕が日本人だったら何なんですか?」
「ちょっと待ってください、エルフさん」
「エールーフーさーん!!」
「うるせーよ!!」
余りのウザさに、クレイは少年に向き直って怒鳴り付けた。
しかし、少年はたじろぐどころか、シタリ顔で何事もなかったように話しかけてくる。
大した胆力だな。
クレイは変に感じ入ってしまった。
全裸の少年はそれが性癖ではないとクレイに懸命に説明し、クレイはインベントリから着物を出して放り渡す。
着込めるかと心配になったが、少年は喜んで袖を通す。
旅館とかホテルには行き慣れていると少年は言っていたが、クレイには通じなかった。
ここでようやく、二人は落ち着いて話しが出来た。
少年シチローはこの世界へ来た経緯を、予想を交えて話し、クレイはこの世界のコトを簡単に説明する。
その結果、クレイは少年を放置も出来ず、なし崩し的に町へ伴うコトになった。
名前に親近感を持ってしまったのが、大きな要因であるだろう。
シチローはクレイの前世の幼名で、佐野は前世で家の老職を勤めていた家系と同じだ。
佐野主馬。
宗矩に気に入られ、家人の姓を継いで武士となった朝鮮人李朱明である。
もっとも父宗矩の仲介で叔父厳勝の娘春を娶り、柳生姓を名乗るコトを許されてから柳生主馬を名乗っていたが。
ちなみに、宗矩が主馬と春を、春の兄である甥の利厳に相談するコトなく結婚させたため、利厳が激怒して江戸柳生家と尾張柳生家は断交するに至る。
主馬はこのコトを気にしていたが、宗矩は柳生宗家の当主が決めたコトとし、問題ないと言って主馬を慰めていた。
前世ではこの苦労性の家老に、ずいぶんと迷惑を掛けたものだ。
十兵衛だけでなく、弟の左門、又十郎も例外なく世話になっただろう。
特に兵法に身が入らずフラフラと遊び歩いていた又十郎は、主馬に庇われて成長したと言えた。
又十郎自身、胸に軽い病があるコトから長時間の鍛練が出来ず、十兵衛の厳しい性格と宗矩の無関心を嫌い、逃げるように家を空けて寄り付かず、主馬の取りなしと心遣いに助けられて生活していたほどだった。
シチローが主馬の子孫とは限らないが、馴染み深い名前なのは違いなかった。
町に帰った時に一騒動があったものの、クレイは半分死にかけたシチローを連れ、冒険者ギルドに入った。
クエストの報告と、シチローの冒険者登録のためだ。
シチローを弟子扱いにして、面倒な手続きをはしょって町に入ったクレイは、そのまま冒険者登録まで済ませた。
受付職員のミーシャだけでなく、ギルド内の冒険者たちがざわめいたが、クレイは用件が済んだとお構い無しにギルドを後にする。
しばらくシチローがギルドから出て来なかったが、はぐれてもアホでもない限りクレイの屋敷には辿り着くだろう。
すれ違いざまに頭を下げてくる住民に愛想を返していると、シチローは文句を言いながら追い付いてきた。
よほど不安だったのか、取り繕ってはいたが泣きそうな表情だった。
クレイはくつくつと笑いながら、屋敷の門をくぐった。
門には目立たないように門番がおり、来訪者の監視と案内、門扉の開閉を行う。
季節によって時間はまちまちだが、町門と同じく日の出と共に開き、日の入りと共に閉じている。
クレイは町の有力者ではあるが貴族ではない。そのため門番は家人ではなく、元冒険者や住民の雇われ者と、表向きにはなっている。
表向きと言うのは、門番一人ひとりが一角の剣士であり、心情的には私兵と変わらないからだ。
また、屋敷内にはメイド五人が住み込み、敷地内外の雑用を引き受けている。
基本的に外出が多いクレイの代わりに、屋敷の統括をしているのはメイド長のナターシアで、奴隷として売られていたところをクレイが引き取った。
彼女もまた、クレイと同じ転生者で、転生者の保護と掌握に努めるクレイに賛同し、その補助的役割を担っている。
クレイ自身がナターシアの前世を詮索しないため、ナターシアも詳しい話はしていないが、マーサ・グレアムというアメリカ人だとだけは話していた。
これはクレイを信用していないのではなく、前世は前世だと割り切っているためだと、クレイは理解していた。
彼女の立ち居振舞いのキレの良さに、クレイは一角の技量を見たが、感覚的に戦闘技能ではないと判断している。
金春辺りの立ち居振舞いに通じている。
金春は金春流能楽のシテ方宗家で、金春七郎重勝を指す。
金春家と柳生家の交流は深く、金春家は能楽を、柳生家は新陰流を相教授し、奥義奥伝を伝え合うほどの仲であった。
十兵衛の父宗矩が能楽にかぶれ、弟又十郎が剣を捨て能楽に走ろうとした下地はここにあった。
少年が後ろから付いてくるのが気配で判ったが、クレイは足を緩めるコトなく、歩みを進めた。
「僕が日本人だったら何なんですか?」
「ちょっと待ってください、エルフさん」
「エールーフーさーん!!」
「うるせーよ!!」
余りのウザさに、クレイは少年に向き直って怒鳴り付けた。
しかし、少年はたじろぐどころか、シタリ顔で何事もなかったように話しかけてくる。
大した胆力だな。
クレイは変に感じ入ってしまった。
全裸の少年はそれが性癖ではないとクレイに懸命に説明し、クレイはインベントリから着物を出して放り渡す。
着込めるかと心配になったが、少年は喜んで袖を通す。
旅館とかホテルには行き慣れていると少年は言っていたが、クレイには通じなかった。
ここでようやく、二人は落ち着いて話しが出来た。
少年シチローはこの世界へ来た経緯を、予想を交えて話し、クレイはこの世界のコトを簡単に説明する。
その結果、クレイは少年を放置も出来ず、なし崩し的に町へ伴うコトになった。
名前に親近感を持ってしまったのが、大きな要因であるだろう。
シチローはクレイの前世の幼名で、佐野は前世で家の老職を勤めていた家系と同じだ。
佐野主馬。
宗矩に気に入られ、家人の姓を継いで武士となった朝鮮人李朱明である。
もっとも父宗矩の仲介で叔父厳勝の娘春を娶り、柳生姓を名乗るコトを許されてから柳生主馬を名乗っていたが。
ちなみに、宗矩が主馬と春を、春の兄である甥の利厳に相談するコトなく結婚させたため、利厳が激怒して江戸柳生家と尾張柳生家は断交するに至る。
主馬はこのコトを気にしていたが、宗矩は柳生宗家の当主が決めたコトとし、問題ないと言って主馬を慰めていた。
前世ではこの苦労性の家老に、ずいぶんと迷惑を掛けたものだ。
十兵衛だけでなく、弟の左門、又十郎も例外なく世話になっただろう。
特に兵法に身が入らずフラフラと遊び歩いていた又十郎は、主馬に庇われて成長したと言えた。
又十郎自身、胸に軽い病があるコトから長時間の鍛練が出来ず、十兵衛の厳しい性格と宗矩の無関心を嫌い、逃げるように家を空けて寄り付かず、主馬の取りなしと心遣いに助けられて生活していたほどだった。
シチローが主馬の子孫とは限らないが、馴染み深い名前なのは違いなかった。
町に帰った時に一騒動があったものの、クレイは半分死にかけたシチローを連れ、冒険者ギルドに入った。
クエストの報告と、シチローの冒険者登録のためだ。
シチローを弟子扱いにして、面倒な手続きをはしょって町に入ったクレイは、そのまま冒険者登録まで済ませた。
受付職員のミーシャだけでなく、ギルド内の冒険者たちがざわめいたが、クレイは用件が済んだとお構い無しにギルドを後にする。
しばらくシチローがギルドから出て来なかったが、はぐれてもアホでもない限りクレイの屋敷には辿り着くだろう。
すれ違いざまに頭を下げてくる住民に愛想を返していると、シチローは文句を言いながら追い付いてきた。
よほど不安だったのか、取り繕ってはいたが泣きそうな表情だった。
クレイはくつくつと笑いながら、屋敷の門をくぐった。
門には目立たないように門番がおり、来訪者の監視と案内、門扉の開閉を行う。
季節によって時間はまちまちだが、町門と同じく日の出と共に開き、日の入りと共に閉じている。
クレイは町の有力者ではあるが貴族ではない。そのため門番は家人ではなく、元冒険者や住民の雇われ者と、表向きにはなっている。
表向きと言うのは、門番一人ひとりが一角の剣士であり、心情的には私兵と変わらないからだ。
また、屋敷内にはメイド五人が住み込み、敷地内外の雑用を引き受けている。
基本的に外出が多いクレイの代わりに、屋敷の統括をしているのはメイド長のナターシアで、奴隷として売られていたところをクレイが引き取った。
彼女もまた、クレイと同じ転生者で、転生者の保護と掌握に努めるクレイに賛同し、その補助的役割を担っている。
クレイ自身がナターシアの前世を詮索しないため、ナターシアも詳しい話はしていないが、マーサ・グレアムというアメリカ人だとだけは話していた。
これはクレイを信用していないのではなく、前世は前世だと割り切っているためだと、クレイは理解していた。
彼女の立ち居振舞いのキレの良さに、クレイは一角の技量を見たが、感覚的に戦闘技能ではないと判断している。
金春辺りの立ち居振舞いに通じている。
金春は金春流能楽のシテ方宗家で、金春七郎重勝を指す。
金春家と柳生家の交流は深く、金春家は能楽を、柳生家は新陰流を相教授し、奥義奥伝を伝え合うほどの仲であった。
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