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プロローグ
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夏休み直前の高校一年生はなにかと忙しい。
とはいえ、大学受験を視野に入れたカリキュラムを実践しだしたり、スポーツ推薦を得るために部活に勤しんだり、一攫千金を夢見て文化活動っぽい何かをしたり・・・はしない。
まずは友達作りに失敗しないコトが重要なんです。
厳しい高校受験を乗りきって入学したのに、ボッチやハブなんて悲惨すぎますからね。
ましてや私は地元民ではないので、中学時代の友人関係に期待は出来ない。
親の海外転勤について行くほど行動力があった訳でもない私は、父方の祖父母と同居するため、片田舎の高校を受験した。
個人的には自宅マンションで、地元高校に通いつつ優雅な一人暮らしをエンジョイしたかったのだが。
ついて行かない条件なので仕方ない。
自宅は帰国するまで会社に預け、短期転勤組のシェアハウスとして利用するらしい。
正直言って、私が使っていた部屋やお風呂やトイレを、知らないオジサンに使われるのは気分が良くない。
お父さんたちが帰ってきた後、その誰とも知らない人がいた空間で生活するとか、マジでゴメンなさい。
まぁまぁそれはそれ。
お父さんはついて来て欲しかったみたいだけど、英語も喋れない引っ込み思案の私には、海外旅行ですらハードルが高いのですよ。
海外勤務をセレブだと勘違いしている、お母さんの天然は放っておいて(向こうで気付けばイイんです。日本と海外の意識の違いと面倒臭さを)、私はのんびり日本で田舎生活を満喫します。
おじいちゃんは地元民で、町で道場を開いている武術家だそうで、警察にも顔が利く名士らしいです。
家と道場は別なため、おじいちゃんは道場に通って指導しているので、私の生活が汗臭さやラッキースケベに浸食されるコトはありません。
いつもニコニコと笑っているおじいちゃんだから、そんなに強いとは思えないし、おじいちゃんの流派も聞いたコトないので、実は地元オンリーの流派なのだろうと思っています。
ちなみに、お父さんはおじいちゃんのシゴキに耐えかねて地元を出たと、私はニランでいます。
お父さんの口から武術の話が出たコトないし、お父さんが強いって話を聞いたコトないので、多分間違いないです。
おばあちゃんは専業主婦で、趣味で色々やってます。
コツを掴んだ専業主婦は暇をもて余すんだそうです。
ポヤポヤっとして、やっぱりニコニコと笑っている、春の日だまりのようなおばあちゃんです。
こんなおばあちゃんになりたいと、私は秘かに尊敬してます。
「なづなちゃん、お友達よ~」
階下から、おばあちゃんの声が届く。
「ハァーイ」
姿見の鏡で制服のチェックをし、イスのカバンを持って、私は階段を降りて行った。
玄関には私と同じ制服を着た、一人の女の子が立っていた。
小学生みたいな身長がコンプレックスの、全体的に可愛い女の子だ。が、眠たそうな目が唯一表情と言える程、この娘、風早由奈は残念美少女だった。
頭の上で、アホ毛が跳ねている。
最近気付いたけど、このアホ毛が由奈ちゃんの感情表現を担当しているようだ。
「なに?」
相変わらずの一言返事だけど、別に不機嫌になった訳じゃない。
なぜなら、頭の上ではまだ、アホ毛が跳ねている。
「ううん、何でも。お待たせ、由奈ちゃん。行こう?」
「ん。」
「行ってき「ます。」」
連れ立って玄関を出た私たちは、玄関のたたきで小さく手を振るおばあちゃんに声をかけ、学校に向かっていく。
「可愛い、おばあちゃん。」
由奈ちゃんが幸福感に満たされたようです。
最初におばあちゃんを見た時の由奈ちゃんの表情を、私は一生忘れないよ。
表情に乏しい由奈ちゃんが、雷を浴びたみたいな衝撃を見せたあの瞬間を。
あれから由奈ちゃんは、日を開けずおばあちゃんに会いにくる。
何が由奈ちゃんの琴線に触れたのか、おばあちゃんを一目見るだけで、実に満足そうに一日を過ごしているみたいだ。
高校入学の初日、私は新しいクラスで奇妙な空間に紛れ込んだような錯覚に陥った。
中学の同級生や共通の話題を持つ地元民らが、小さなグループを作ってワイワイやっているのを目の端に見ながら、私は焦燥感に苛まれていた。
転校生なら最初から余所者だから、それなりの対応をされるのでしょうけど、今の私は受験でこの学校に通う地元民もどき。
アレ誰?状態です。
そんな中、私と同じように、一人で机に凭れて眠る由奈ちゃんを発見した。
「げ、勇者じゃん」
「マジかぁー、ナイわー」
「何で勇者がココにいんの?」
何だろう、不穏な発言が飛び交ってます。
キョロキョロと、恐る恐る周囲を見回すと、クラスメートの視線は由奈ちゃんに集中してました。
当の由奈ちゃんは、そんな周りの声を気にかける素振りもなく、机の天板に小さな顎を乗せ、ボヘーっとしていた。
この日は初日というコトで、ホームルームだけで終了する。
簡単な自己紹介の後、担任の先生の意向で、何故かパートナー制を導引されるコトとなる。
集団行動の基本はツーマンセルだそうです。
意味不明です。
今現在友人と呼べる人がいない私に取って、その提案は渡りに舟だけど、友人がいないってだけで余り者確定だったりする。
変な人がパートナーになると、下手するとこの一年を棒に降るコトになりかねない。
しかもパートナー選抜はドラフト指名制。
私、ピンチです。
事前くじ引きで選ぶ方と選ばれる方に別れ、私は選ぶ方になりました。
教室の前に並ぶ選ばれる人の中から、パートナーになりたい人を選ぶのですが、誰が誰やら分からない私には、ハードルが走り高跳びのポール以上に高くて、もぅどうしたらいいのか。
て言うか、何なんでしょうか、このクラスのノリは?
私が変な汗をかいてる間にも選抜は進み、一巡目が終了しました。
私は取り敢えず人当たりの良さそうな子に入れたのですが、やっぱり一番人気の方で、私は交渉権最下位で敢えなく撃沈。
そこでふと気付いてしまいました。
前に並ぶ人の中で、一人だけ指名がなかった子がいたコトに。
由奈ちゃんでした。
大きなあくびを隠しもせず、由奈ちゃんはしょざいな気に佇んでます。
二巡目、私は由奈ちゃんとパートナーになりました。
とはいえ、大学受験を視野に入れたカリキュラムを実践しだしたり、スポーツ推薦を得るために部活に勤しんだり、一攫千金を夢見て文化活動っぽい何かをしたり・・・はしない。
まずは友達作りに失敗しないコトが重要なんです。
厳しい高校受験を乗りきって入学したのに、ボッチやハブなんて悲惨すぎますからね。
ましてや私は地元民ではないので、中学時代の友人関係に期待は出来ない。
親の海外転勤について行くほど行動力があった訳でもない私は、父方の祖父母と同居するため、片田舎の高校を受験した。
個人的には自宅マンションで、地元高校に通いつつ優雅な一人暮らしをエンジョイしたかったのだが。
ついて行かない条件なので仕方ない。
自宅は帰国するまで会社に預け、短期転勤組のシェアハウスとして利用するらしい。
正直言って、私が使っていた部屋やお風呂やトイレを、知らないオジサンに使われるのは気分が良くない。
お父さんたちが帰ってきた後、その誰とも知らない人がいた空間で生活するとか、マジでゴメンなさい。
まぁまぁそれはそれ。
お父さんはついて来て欲しかったみたいだけど、英語も喋れない引っ込み思案の私には、海外旅行ですらハードルが高いのですよ。
海外勤務をセレブだと勘違いしている、お母さんの天然は放っておいて(向こうで気付けばイイんです。日本と海外の意識の違いと面倒臭さを)、私はのんびり日本で田舎生活を満喫します。
おじいちゃんは地元民で、町で道場を開いている武術家だそうで、警察にも顔が利く名士らしいです。
家と道場は別なため、おじいちゃんは道場に通って指導しているので、私の生活が汗臭さやラッキースケベに浸食されるコトはありません。
いつもニコニコと笑っているおじいちゃんだから、そんなに強いとは思えないし、おじいちゃんの流派も聞いたコトないので、実は地元オンリーの流派なのだろうと思っています。
ちなみに、お父さんはおじいちゃんのシゴキに耐えかねて地元を出たと、私はニランでいます。
お父さんの口から武術の話が出たコトないし、お父さんが強いって話を聞いたコトないので、多分間違いないです。
おばあちゃんは専業主婦で、趣味で色々やってます。
コツを掴んだ専業主婦は暇をもて余すんだそうです。
ポヤポヤっとして、やっぱりニコニコと笑っている、春の日だまりのようなおばあちゃんです。
こんなおばあちゃんになりたいと、私は秘かに尊敬してます。
「なづなちゃん、お友達よ~」
階下から、おばあちゃんの声が届く。
「ハァーイ」
姿見の鏡で制服のチェックをし、イスのカバンを持って、私は階段を降りて行った。
玄関には私と同じ制服を着た、一人の女の子が立っていた。
小学生みたいな身長がコンプレックスの、全体的に可愛い女の子だ。が、眠たそうな目が唯一表情と言える程、この娘、風早由奈は残念美少女だった。
頭の上で、アホ毛が跳ねている。
最近気付いたけど、このアホ毛が由奈ちゃんの感情表現を担当しているようだ。
「なに?」
相変わらずの一言返事だけど、別に不機嫌になった訳じゃない。
なぜなら、頭の上ではまだ、アホ毛が跳ねている。
「ううん、何でも。お待たせ、由奈ちゃん。行こう?」
「ん。」
「行ってき「ます。」」
連れ立って玄関を出た私たちは、玄関のたたきで小さく手を振るおばあちゃんに声をかけ、学校に向かっていく。
「可愛い、おばあちゃん。」
由奈ちゃんが幸福感に満たされたようです。
最初におばあちゃんを見た時の由奈ちゃんの表情を、私は一生忘れないよ。
表情に乏しい由奈ちゃんが、雷を浴びたみたいな衝撃を見せたあの瞬間を。
あれから由奈ちゃんは、日を開けずおばあちゃんに会いにくる。
何が由奈ちゃんの琴線に触れたのか、おばあちゃんを一目見るだけで、実に満足そうに一日を過ごしているみたいだ。
高校入学の初日、私は新しいクラスで奇妙な空間に紛れ込んだような錯覚に陥った。
中学の同級生や共通の話題を持つ地元民らが、小さなグループを作ってワイワイやっているのを目の端に見ながら、私は焦燥感に苛まれていた。
転校生なら最初から余所者だから、それなりの対応をされるのでしょうけど、今の私は受験でこの学校に通う地元民もどき。
アレ誰?状態です。
そんな中、私と同じように、一人で机に凭れて眠る由奈ちゃんを発見した。
「げ、勇者じゃん」
「マジかぁー、ナイわー」
「何で勇者がココにいんの?」
何だろう、不穏な発言が飛び交ってます。
キョロキョロと、恐る恐る周囲を見回すと、クラスメートの視線は由奈ちゃんに集中してました。
当の由奈ちゃんは、そんな周りの声を気にかける素振りもなく、机の天板に小さな顎を乗せ、ボヘーっとしていた。
この日は初日というコトで、ホームルームだけで終了する。
簡単な自己紹介の後、担任の先生の意向で、何故かパートナー制を導引されるコトとなる。
集団行動の基本はツーマンセルだそうです。
意味不明です。
今現在友人と呼べる人がいない私に取って、その提案は渡りに舟だけど、友人がいないってだけで余り者確定だったりする。
変な人がパートナーになると、下手するとこの一年を棒に降るコトになりかねない。
しかもパートナー選抜はドラフト指名制。
私、ピンチです。
事前くじ引きで選ぶ方と選ばれる方に別れ、私は選ぶ方になりました。
教室の前に並ぶ選ばれる人の中から、パートナーになりたい人を選ぶのですが、誰が誰やら分からない私には、ハードルが走り高跳びのポール以上に高くて、もぅどうしたらいいのか。
て言うか、何なんでしょうか、このクラスのノリは?
私が変な汗をかいてる間にも選抜は進み、一巡目が終了しました。
私は取り敢えず人当たりの良さそうな子に入れたのですが、やっぱり一番人気の方で、私は交渉権最下位で敢えなく撃沈。
そこでふと気付いてしまいました。
前に並ぶ人の中で、一人だけ指名がなかった子がいたコトに。
由奈ちゃんでした。
大きなあくびを隠しもせず、由奈ちゃんはしょざいな気に佇んでます。
二巡目、私は由奈ちゃんとパートナーになりました。
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