友達のお兄ちゃん

送り狼

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クリュー

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 私の目の前で、アホ毛が跳ねる。

 由奈ちゃんのアホ毛が、縦横無尽に跳ね廻る。

「由奈ちゃん、すごく良いコトがあった?」

「ん。」

 傍目で見て、とてもそうは見えない表情で、由奈ちゃんは頷く。

 背中に背負ったカバンの背負帯を握り、何時もと変わらない速度で帰宅している。

 こんなに嬉しそうな由奈ちゃんを、私は初めて見た。

 何となく私も楽しくなり、口元を緩めながら由奈ちゃんのアホ毛を見ていると、不意にアホ毛が固まったように停止した。

「どうしたの、由奈ちゃん?」

「なづな、今日、暇?」

 何やら重大な懸案事項が発生したような、切羽詰まった声音で、由奈ちゃんが私を伺い見る。

 マンガだと、由奈ちゃんの背景を掛け網が覆い、目尻に縦線が這い、『ずももも・・・』とか効果音が描かれているレベルの雰囲気です。

「今日は課題もなかったし、忙しくないよ」

 私がそう言うと、由奈ちゃんは明らかにホッとしていたが、何故か緊張感は増したように思えた。

「なづな、家、来る?」

「由奈ちゃんの家?行きたいっ!!」

 普段が会話を一言で片付ける由奈ちゃんが、今日は頑張って喋ってくれた。

 しかも、内容は自宅にご招待です。

 私は即答してました。

 由奈ちゃんは私から視線を外し、アホ毛がクネクネと揺れる。

 これは・・・照れている?

「ん。」

 由奈ちゃんは俯いたまま、再び歩き出したけど、耳が真っ赤になってました。





 一旦家に帰宅した私と由奈ちゃんは、お婆ちゃんに持たされたお土産を手に、由奈ちゃんの家に向かった。

 お土産は裏庭で収穫した野菜だと言う。

 篭に入れた各種野菜を、風呂敷に包んで持っているけど、けっこう重い。

 ビジュアル的にもどうなんだろう?と思いつつ、風呂敷の利便性に感心したりしていた。

 由奈ちゃんの家は、私の家からでも見えるほど近く、お土産の重さも苦にはならないし、初めての訪問で緊張していて正直それどころではなかったです。

 それでも傍らを歩く由奈ちゃんのアホ毛は楽しげで、なおかつ私以上に緊張しているかも知れないほど震えてもいた。




 由奈ちゃんのアホ毛は由奈ちゃんの家に近付くに従い、ガチガチに固まっていた。

 真冬の北海道で、濡れたアホ毛が跳ねながら固まったら、こうなるくらいの凍結具合です。

 まぁ、真冬の北海道の経験はないですけど、そんな感じってことで。

 初訪問はどうってコトなかったです。

 この辺りでは珍しい、オートロックのマンション入り口に、広いエントランス。清掃の行き届いたエレベーターと廊下。

 久しぶりに地元に戻ったような、ちょっと懐かしい感じがして、私は由奈ちゃんの家がお気に入りとなっていた。

 話しを聞くと、賃貸ではなく分譲らしいです。

 由奈ちゃんち、お金持ち?

 遠慮がちに尋ねると、由奈ちゃんの固まったアホ毛が一気に萎れた。

 聞いてはいけないコトみたいです。

「景色とか良さそうだよね」

 慌てて話題を変えてみましたが、アホ毛が復活するコトなく、由奈ちゃんちの玄関にたどり着いた。

 インターホンを押し、待つコト暫し。陽気な声とキレイな女性がドアを開いた。

「あらあらあら、まあまあまあ・・・由奈のお友達?」

 由奈ちゃんのお母さん、由良さんに挨拶した私は、有無も言わさず歓待されながら、ようやくお土産を手渡して肩の荷を下ろした。

 由良さんは私をダイニングに案内しようとするが、由奈ちゃんの激しい抵抗にあい、私は拉致られるように由奈ちゃんの部屋に連れ込まれてしまった。

 由良さんの背中をポカポカと殴り、

「私の、お客様」

 と宣言する由奈ちゃんに萌えそうになったのは内緒です。




 由奈ちゃんの部屋は、当たり前ですが、普通の女の子の部屋でした。

 ベッドがあり、勉強机があり、パソコンやテレビがあり、小さなテーブルがあり、本棚があり・・・総体的に私の部屋の5割増しって感じです。

 壁紙はパールホワイトで、コルクボードに写真が貼ってあったり、小さいのやら大きいのやら、ぬいぐるみが飾ってあったりして、もしかしたら私の部屋より女子力が高いかも知れません。

「わきゃっ!!」

 テーブルの傍らに座り、寛ごうとした矢先、私のお尻を硬い何かが突いてきた。

 私の恥ずかしい悲鳴に、由奈ちゃんは慌てて私の背後からぬいぐるみを抱き上げた。

 暫くジタバタと動き、ぬいぐるみはしだいに大人しくなっていった。

 ぬいぐるみ・・・?

「クリュー」

 クリュー・・・、

「名前?」

 私の問いに、由奈ちゃんはコクコクと頷く。

 良く見ると、真っ白な毛がまんまるな、短い耳のウサギのようだ。

「・・・ウサギ・・・よね?」

「ん。」

 いやいや、ウサギに角は無いよ、由奈ちゃん?

 私はクリューの額に伸びる角を見ながら、反応に困った。

「ホーンラビット」

 何でもないように種類を言う由奈ちゃんに、私はそんな種のウサギもいるのかと、ちょっと納得してしまいました。

「珍しいウサギだね」

 私が必要以上に騒がないことに安心したのか、由奈ちゃんはクリューを抱いたままベッドに座り、クリューの頭を撫でていた。

 クリューは心地好さげに目を閉じ、クリュリュリュと喉を鳴らしている。

 ウサギってあんな鳴き声なんだ?

「お兄ちゃんにもらった」

 由奈ちゃんは幸せそうに、クリューを撫で続けた。

 それを見ていて、私の右手が疼き始めた。

 もふもふ・・・。
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