ネバーランド・アパートメント

ぴよ太郎

文字の大きさ
12 / 15
一年目 ~移民の歌~

11

しおりを挟む
 木にしがみついている厄介者はツクツクホーシだけではないということか。
 いつ来るかも分からない、というかそもそも来るのかどうかも分からない獲物を待つため、じーっと木にしがみついている。
 それは・・・・・・、疲れるだろうに。
 そうやってずっと待ち伏せ、念願の獲物が来たら光悦の表情を浮かべながら木から落ちてくるのだろうか。
 ぽとん。

 「じゃあ、いつも上に気を付けておかないとダメですね」

 そうだ、と賀真田さんは更に力強く頷いた。

 「そう。そうなんだよ。盗賊どもは、いつも、木に・・・。しがみついて、いるからね」
 「じゃあ突っついちゃおうかあ」

 小山さんが呑気な声を出すと、賀真田さんが「いかん!」と叫んだ。

 「そんなことをすればだ、あとふじた君。そこらじゅうの木から、怒った盗賊が、落ちて。くるのだよ」

 ぽとん、ぽとん、ぽとん。
 夜道には気を付けよう。


 竹村医院にいる間に雨が降っていたらしく、空には虹がかかっていた。

 「清君、虹が出ているよ」
 「ほんとだ。なんだか幸先いいですね。なんだかすぐに見つかるような気がしてきましたよ」
 「幸先は良くなかったけどねえ、でもこの後はいいような気がするよねえ。いい虹だもの。この場合、幸後いいっていうのかなあ」
 「幸後いいですね」
 「幸後いいよねえ」

 ふとスマホを見ると、マキさんからラインメッセージが入っていた。画面には「タマちゃん見つかった?手伝えなくてごめんね」と書かれており、色んな角度から撮られたタマちゃんの写真が添えられている。
 マキさんも本当はタマちゃんが心配で仕方ないのだけれど、やっぱり責任ある社会人だし、オーナーから美容室を任されている身だ。自分の感情だけで動けるわけではない。その点大学生の僕や自由業の小山さんは動きやすい。
 情報屋で何も仕入れることができなかった僕らは、とりあえずタマちゃんの散歩コースを辿ってみることにした。
 毎日の散歩コースは知ってはいるが、実はやたらと長い。ゆきちゃんは小学生だけど体育会系なのか、僕らの足でも一時間以上かかるコースだ。たまにご一緒するだけならお付き合いできるが、毎日歩くとなるときつい。

 「ところで、モニカってペット飼ってよかったんでしたっけ?」
 「大型犬とかはダメだけど、小型犬や猫とかなら大丈夫だよお。あとは吉川さんのさじ加減だねえ。ゆきちゃんはいい子だし」
 「結構適当なんですね」
 「まあねえ。でも臨機応変って言ったら、聞こえはいいよねえ。日本語って便利だよねえ。政治家には住みやすい国だよねえ」

 しばらく歩いているが、平日の午前中だからかすれちがう人はほとんどいない。学生かスーツをきたサラリーマンと時折擦れ違うくらいだ。秋の足音が聞こえることも影響してか、どこか静かな街並みを、小山さんとふたりでのんびり歩いていた。

 「ここらへんじゃないかなあ」
 「タマちゃんですか?」

 小山さんは立ち止まって上を向いている。周囲の家から飛び出した枝が地面に木漏れ日の影を作り、とても爽やかな風景だ。穏やかな風が影を静かに揺らしている。

 「賀真田さんが言っていた盗賊が出没する場所だよお」
 「そういえば」
 「でもあれ、なんて言う強盗なんだろうねえ。ほら、銀行強盗とか押し込み強盗とか、一口に強盗って言っても、色々あるじゃない?あ、盗賊か」
 「分類的には辻強盗じゃないですかね。待ち伏せしている訳ですし」
 「でもそれじゃあ、木にしがみついている特殊性が説明できないと思うんだなあ。確かに待ち伏せなんだけどさあ、この場合は木から落ちてくるってところがミソなのであってね、待ち伏せは二次的要素というか」
 「うーん」

 僕は唸りながら周囲の木々を見渡した。何軒からの家から枝が出ているが、木の種類は大体同じらしい。僕は木に詳しくないから一体なんという木なのかは知らないけれど、木の表面はつるつるしていてしがみつくには相当な体力と腕力が必要だろう。何か道具を使ってしがみつくのかもしれないが、僕としては是非とも腕力だけで頑張ってほしい。

 「ヤシの実強盗ですかね」
 「いいねえ、ヤシの実盗賊団。雰囲気出てるねえ」

 当たり前だが、木の上に人影は見えない。
 僕と小山さんはすれちがう人々に声をかけてみたが、タマちゃんを見た人どころか他の犬の目撃情報も聞けなかった。通りすがりのおばあさんに戦後すぐのころに野良犬がたくさんいたという場所を教えてもらったので、他に行くところもないし行ってみると、そこにはとても綺麗なカフェが建っていた。カフェ巡りが大好きな僕としては素晴らしい発見なのだけれど、今日はそれどころではない。タマちゃんが無事見つかったらゆっくり来よう。
 迷子のチワワが行けそうな範囲がよく分からないので、僕と小山さんはとにかく歩き回った。他にもっといい方法があるかもしれないけれど、探偵気分に浸ってしまっている僕らは歩き回りたかったのだ。もちろん、タマちゃんの無事が第一だし、僕らだってそこを忘れている訳ではない。それでも一度浸ってしまった探偵気分からは抜けられそうにない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...