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無機質な来訪者
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あさ靄(もや)の立ち込めるこの大きな森の奥深く、
辺りは今日も何事もないような一日の始まりを奏でていた。
少しずつ近づいてくる冬に備え、森中が少し慌ただしい様子であった。
眠っていた虫たちが動き出し、動物たちも巣穴から餌を求めて散っていく。
おそらくもう何万何千万回と繰り返されてきたこの森の日常であろう…
しかしその平穏は突然一変することとなる。
一瞬光ったと思うといきなり空が裂けた。
ふくらんだ星の大気を、鋭い光が切り裂いていく。
光の筋は、重力に引かれるように急降下しながら、星の表面へ向かって一直線に落ちていた。
しかしその進路上、ひとつの異物が現れる。
奇妙な形をした銀色の飛行物体。
不規則な軌道を描きながら、空中を漂っていたそれと、降下してきた光は交錯した。
次の瞬間、まばゆい閃光が辺りを照らし出した。
金属同士がぶつかる嫌な音。歪む空間。
衝撃で軌道を外れた光の塊は、そのまま制御を失い、森の中へと墜落していく。
ズゴォオオオオッ!!
地響きを伴い、巨大なポッドが森を切り裂きながら落ちた。
土が跳ね上がり、木々がなぎ倒され、地面に深い裂け目が刻まれる。
やがて、森を埋め尽くした土煙の中で、ゆっくりとポッドの扉が開いた。白く濃密な蒸気が立ちこめる。
そしてその中から、一体のロボットが姿を現した。
銀色に輝く無機質な身体。
人間のような造形が施されていたが、頭と身体の大きさがほぼ1対1であり、その瞳には焦点がなかった。
森は静かだった。
鳥たちのさえずり。風に揺れる葉音。
ときおり遠くで、水の流れる微かな音が聞こえる。
ロボットは、それらをただ受け入れた。
分析も記録もできない。
ただ、耳に届く音をそのまま流し込むだけ。
小さなリスが一本の木から跳ね降りた。
ふと立ち止まり、ロボットの存在に氣づくと、素早く茂みへと逃げ込む。
鹿の親子が、慎重な足取りで小川を渡っていく。
この森には、多種多様な生き物たちがいた。
しかし、彼らはロボットを「異物」として警戒し、避けた。
ロボット自身には、そこに意味を見出す能力がなかった。
興味も、疑問も、抱かなかった。
ただ、前に進む。
ただ、歩く。
それは「任務」でも「意志」でもなかった。
プログラムの残骸のような行動だった。
《……現在の状態:探索継続。》
《ミッション:不明。》
《意識レベル:未定義。》
森の奥へ、さらに奥へと、ロボットはさまよい続けた。
昼と夜の境界は、曖昧だった。
空が青から朱に染まり、やがて漆黒へと沈む。
また、微かな光とともに朝が訪れる。
それが何度繰り返されたのか、ロボットにはわからなかった。
月が浮かび、星々が瞬き、夜空を静かに横切る。
そのすべてが、彼には意味を持たなかった。
食べることも、眠ることも、必要なかった。
ただ、動力源が続く限り、歩き続けるだけだった。
花が咲き、蝶が舞う。
小川のほとりで、動物たちが水を飲む。
森の生き物たちは、それぞれに生き、呼吸していた。
だが、ロボットだけが、そこに存在していなかった。
彼は森に「いる」だけで、森の一部にはなれなかった。
《システムログ:外部接触なし。》
《状態:継続。》
《自己認識機能:未復旧。》
辺りは今日も何事もないような一日の始まりを奏でていた。
少しずつ近づいてくる冬に備え、森中が少し慌ただしい様子であった。
眠っていた虫たちが動き出し、動物たちも巣穴から餌を求めて散っていく。
おそらくもう何万何千万回と繰り返されてきたこの森の日常であろう…
しかしその平穏は突然一変することとなる。
一瞬光ったと思うといきなり空が裂けた。
ふくらんだ星の大気を、鋭い光が切り裂いていく。
光の筋は、重力に引かれるように急降下しながら、星の表面へ向かって一直線に落ちていた。
しかしその進路上、ひとつの異物が現れる。
奇妙な形をした銀色の飛行物体。
不規則な軌道を描きながら、空中を漂っていたそれと、降下してきた光は交錯した。
次の瞬間、まばゆい閃光が辺りを照らし出した。
金属同士がぶつかる嫌な音。歪む空間。
衝撃で軌道を外れた光の塊は、そのまま制御を失い、森の中へと墜落していく。
ズゴォオオオオッ!!
地響きを伴い、巨大なポッドが森を切り裂きながら落ちた。
土が跳ね上がり、木々がなぎ倒され、地面に深い裂け目が刻まれる。
やがて、森を埋め尽くした土煙の中で、ゆっくりとポッドの扉が開いた。白く濃密な蒸気が立ちこめる。
そしてその中から、一体のロボットが姿を現した。
銀色に輝く無機質な身体。
人間のような造形が施されていたが、頭と身体の大きさがほぼ1対1であり、その瞳には焦点がなかった。
森は静かだった。
鳥たちのさえずり。風に揺れる葉音。
ときおり遠くで、水の流れる微かな音が聞こえる。
ロボットは、それらをただ受け入れた。
分析も記録もできない。
ただ、耳に届く音をそのまま流し込むだけ。
小さなリスが一本の木から跳ね降りた。
ふと立ち止まり、ロボットの存在に氣づくと、素早く茂みへと逃げ込む。
鹿の親子が、慎重な足取りで小川を渡っていく。
この森には、多種多様な生き物たちがいた。
しかし、彼らはロボットを「異物」として警戒し、避けた。
ロボット自身には、そこに意味を見出す能力がなかった。
興味も、疑問も、抱かなかった。
ただ、前に進む。
ただ、歩く。
それは「任務」でも「意志」でもなかった。
プログラムの残骸のような行動だった。
《……現在の状態:探索継続。》
《ミッション:不明。》
《意識レベル:未定義。》
森の奥へ、さらに奥へと、ロボットはさまよい続けた。
昼と夜の境界は、曖昧だった。
空が青から朱に染まり、やがて漆黒へと沈む。
また、微かな光とともに朝が訪れる。
それが何度繰り返されたのか、ロボットにはわからなかった。
月が浮かび、星々が瞬き、夜空を静かに横切る。
そのすべてが、彼には意味を持たなかった。
食べることも、眠ることも、必要なかった。
ただ、動力源が続く限り、歩き続けるだけだった。
花が咲き、蝶が舞う。
小川のほとりで、動物たちが水を飲む。
森の生き物たちは、それぞれに生き、呼吸していた。
だが、ロボットだけが、そこに存在していなかった。
彼は森に「いる」だけで、森の一部にはなれなかった。
《システムログ:外部接触なし。》
《状態:継続。》
《自己認識機能:未復旧。》
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