『ボクハ…アキボット』

アッキー

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あてもなく、ただ…

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ある晩、森に冷たい霧が立ちこめた。

木々は白くかすみ、足元すら見えなくなる。
ロボットは霧に包まれながら、ただ、まっすぐに歩き続けた。

その時だった。

ほんの一瞬、視界の端に――
何かが、動いた気がした。

小さな影。羽ばたくような気配。
透明な、けれど確かにそこに「存在するもの」。

だが、ロボットはそれを追うこともしなかった。
興味を持つ機能も、驚く感情も、彼にはなかったからだ。

霧が晴れると、そこにはただ、苔(こけ)むした倒木が横たわっているだけだった。

森は、何事もなかったように静かだった。

再び、無音の中を歩き続ける。

何かを探すわけでもなく、何かを目指すわけでもなく。

ただ、動く。それだけ。

《状態:正常(物理損傷なし)。》
《任務指示:未検出。》
《自己修復モード:待機。》

空は、何度も色を変えた。
雨が降り、また晴れ、葉が落ち、芽吹き、命が巡る。

それでも、ロボットは変わらなかった。
周囲の変化に気づくことも、心を動かすこともなかった。

半月が過ぎた。

森の中を、ただ意味もなくさまよい続ける日々。
音も、匂いも、光も、すべてが彼の中を素通りしていく。

足元の草が擦れる音。
大きな幹に登るリスの爪の音。
遠くで鹿が跳ねる気配。
夜空を横切る光虫たちの淡いきらめき。

それらすべてが、ロボットにとってはただの「現象」でしかなかった。

彼にはまだ、名前がない。
目的も、使命も、想いも、なかった。

ただこの森の中で、確かに「存在している」だけだった。

今はただ、静かに、静かに。
ロボットは、森の一部でもなく、森に拒絶されるでもなく、
ひたすら歩き続けていた。

風がそっと吹いた。

世界は、何も知らないままに、巡り続けていた…
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