聖女として白龍の生贄になると思ったらなぜか騎士様と契約結婚することになって愛されています

鳥花風星

文字の大きさ
35 / 82

愛というもの(ランス視点)

しおりを挟む

 会議でのユーズ団長の話では、瘴気騒動の裏で虹の力を持つ聖女が誘拐される事件が多発しているらしい。

 誘拐されるまでの手順としては、白龍の力を消費した騎士に怪しい女が近づいて誘惑してくる。誘惑を断ると数日後に聖女が誘拐される。誘拐には不審な男が聖女に巧みに声をかけ攫ってしまうそうだ。

 騎士にも聖女にも不審な男女が近づいてくる。一体何が目的なのだろう。王都の騎士団が解明に動いてくれているようだが、情報がまだ少なすぎる。

 それに、誘拐から救助された聖女は一時的に記憶を無くし、虹の力を持つ聖女であることすら忘れてしまうようだ。そうなると、きっと騎士や白龍のこと自体も忘れてしまうのだろう。

 もしもセシルが誘拐されるようなことがあったら……考えただけで頭がおかしくなりそうだ。万が一俺に不審な女が近づいてきたとしても断固として拒否することは当たり前として、そうなると必然的にセシルが誘拐されてしまうことになる。かといって誘拐を避けるために女の要求を飲むなんて到底無理だ。セシル以外の女とどうこうなろうなんて考えただけで吐き気がする。

 それに、誘拐の際には不審な男が言葉巧みに聖女に近づくという。それだけでも耐えられないのに、誘拐される際にはどうしたってその男がセシルに触れることになるのだろう。絶対に嫌だ、セシルに俺以外の誰かが触れるなんて耐えられない。セシルを誘拐しようとする男なんて絶対に殺す、殺す、何があっても殺す。

「おいランス、すごい形相だぞ。どうせ不穏なことでも考えているんだろう。気持ちはわかるが冷静になれよ」

 ユーズ団長に言われて我に返る。そうだ、今は会議の後に団長から詳しく話を聞こうとしていたんだった。

「すみません、もしもセシルが誘拐されたらと考えたらどうしようもなくなってしまいました」

「まぁそうなるだろうな。俺だってもしもベルが誘拐されたらなんて考えただけで無理だ。自分を保っていられる自信がない」

 ため息をついてユーズ団長が言う。あのユーズ団長でもそうなってしまうのか、なんとなくホッとする。

「だがな、俺たちは白龍使いの騎士だ。どんな時でも冷静さを保ち適切な判断を下して行動しなければならない。それはちゃんと頭に入れておいてくれ。大事な大事なたった一人の聖女を誘拐されたくないのなら、万全の対策と対応をするまでだ」

 片手を握りしめ、ユーズ団長が低い声で言う。そうだ、セシルを守るために自分ができることはなんでもする。騎士としても、一人の男としてもどちらもだ。

 ふと視線を感じてロイの方を向くと、ロイは唖然とした顔で俺とユーズ団長を見つめていた。

「ロイ、どうかしたか?」

「あぁ、いや。……なんか二人は本当にすごいなと思って…俺なんかそこまでリラのことを思えているかと言われれば断言はできないから。リラのことはもちろん大事だし大切に思ってる。でも、二人とはまた違うというかなんというか……」

 ロイが複雑そうに苦笑いをする。

「ロイのところはまだリラと打ち解け始めたばかりだろう。リラの生い立ちも影響するし仕方ないさ。それに、ロイだってリラのことは大事に思っている。それだけでも聖女を思うちゃんとした白龍使いの騎士だ。そんなに引け目に感じることはない」

「そうなんでしょうか……」

 ユーズ団長はそういうが、ロイは納得のいかない顔をしたままだ。

「いいか、もちろん聖女と白龍使いの騎士は結婚しているしいずれ男女の契りを結ぶ関係になる。だが、聖女も騎士も様々な人間がいるようにそのペアの進み方はそれぞれだ。どこにも正解なんてない。お前達はお前達のやり方、進み方で進んで行けばいい。何より、そこに愛があるのなら何も問題ないだろう」

「愛……」

 ロイがセシルやベル様と話しているリラを見てつぶやく。

「いいか、愛っていうのは男女間の愛だけじゃない。恋愛、友愛、人間愛、親子愛、様々な愛があるだろう。男女だから育まれるわけじゃない、性別も年齢も国籍も本来は関係ないんだ。愛というのはそれだけ大きく複雑で、だからこそ尊く純粋なものだ。それを歪んだ見方で扱うからおかしなことになるし、人間の物差しで決まりを作ろうとするからややこしくなる。

 お前とリラの間でお互いを大切に思い、心の底から湧き上がるものがあるとすればきっとそれが愛だ。まずはそれをちゃんと見つめて大切にしていけばいい。それがこれからどんな愛になるかは二人の進み方次第だし、そこに正解も間違いもないさ」

 ユーズ団長の話を聞いてロイの表情がどんどんと明るくなる。俺も話を聞きながらセシルのことを思って胸から暖かいものがどんどん湧き上がってくる。そうだ、愛とはそういうものなんだな。

「ありがとうございます、これからリラと向き合いながら二人にとっての愛を育んでいきたいと思います」

 ロイは晴れ晴れとした表情でそう言った。

「あぁ、そのためにもまずは誘拐犯を一刻も早く検挙しなければならない」

 ユーズ団長の言葉に、俺もロイも身が引き締まる思いになった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

子供が可愛いすぎて伯爵様の溺愛に気づきません!

屋月 トム伽
恋愛
私と婚約をすれば、真実の愛に出会える。 そのせいで、私はラッキージンクスの令嬢だと呼ばれていた。そんな噂のせいで、何度も婚約破棄をされた。 そして、9回目の婚約中に、私は夜会で襲われてふしだらな令嬢という二つ名までついてしまった。 ふしだらな令嬢に、もう婚約の申し込みなど来ないだろうと思っていれば、お父様が氷の伯爵様と有名なリクハルド・マクシミリアン伯爵様に婚約を申し込み、邸を売って海外に行ってしまう。 突然の婚約の申し込みに断られるかと思えば、リクハルド様は婚約を受け入れてくれた。婚約初日から、マクシミリアン伯爵邸で住み始めることになるが、彼は未婚のままで子供がいた。 リクハルド様に似ても似つかない子供。 そうして、マクリミリアン伯爵家での生活が幕を開けた。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました

鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。 けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。 そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。 シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。 困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。 夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。 そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。 ※他投稿サイトにも掲載中

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

処理中です...