聖女として白龍の生贄になると思ったらなぜか騎士様と契約結婚することになって愛されています

鳥花風星

文字の大きさ
75 / 82

サリ国の男ベイル

しおりを挟む
 濃い瘴気の靄の奥から出てきたのは、短髪に無精髭、片側に大きな傷があり片目が塞がれている壮年の男だった。すぐ後ろには恐らく片目の男の部下であろう男にそれぞれ拘束された聖女ニオ様と白龍リオン様がいる。ニオ様は私たちの姿を見て驚愕し、キッと片目の男を睨んだ。

「ちょっと!これは一体どういうことよ!話が違うわ!早くこの拘束を放しなさい!」

 聖女ニオ様が片目の男にそう言うと、片目の男は後ろを振り向き片手を振り翳した。

 パァアアアン

 聖女ニオ様の頬が打たれる。その場の一同が思わず息を呑んだ。

「ニオ!貴様、ニオになんてことを!」

 白龍リオン様が拘束を振り解き男に掴みかかろうとするが、拘束が解かれることはなく拘束していた男に殴られ、そのまま崩れ落ちると脚で何度も蹴られてしまう。

「リオン!」
 ニオ様が悲痛な叫びをあげた。

「困りましたね聖女様、あなたが喚けば喚くほどこの白龍は痛い目を見るだけですよ。大人しく我々の言う通り大人しくしていてください。今はあなたたちに構っている場合ではないのでね」

 そう言って片目の男はこちらを向いてニヤァと笑った。気持ち悪い程の悪どい微笑みで思わず鳥肌が立つ。

「さて、アデル国の白龍と白龍使いの騎士、そして聖女の皆様。我々のことはこの白龍からもう色々と聞いているんでしょうね。自己紹介の必要はないかと思いますが、一応。私の名前はベイル。サリ国で銀龍の力の研究を行っているものです。見てお分かりの通り、我々の元には聖女ニオと白龍リオンがいます。今攻撃を仕掛けようとすれば二人の身が無事では済まされないのでおかしな動きは控えてください。まぁ言われなくてもわかっているでしょうが」

「貴様がこちらの聖女を誘拐し虹の力を奪っていた張本人か」

 ユーズ団長がそう言うと、ベイルはふふっと笑う。

「そうです。虹の力を奪ってこちらの研究に充てていました。聖女ニオにはリオンのためだと言っていたのでリオンにも力を少し与えてはいましたがね、リオンは受け取らずにすぐ力を奪われた聖女にお返ししていたようだ」

「だから力を奪われた聖女様たちは一時的に記憶を失いつつも力を取り戻していたというわけか。カラクリがようやくわかったぜ」

 ガイル様がベイルを睨みつけながら言うと、ニオ様が驚いた顔でリオン様を眺めた。

「リオン、そうなの?どうして?私はあなたのために……」

「ニオ、君の気持ちは嬉しかったし無碍むげにしたくなかった。だから黙っていたんだ、すまない」

 殴られ蹴られボロボロになったリオン様が静かにそう言うと、ニオ様は驚愕したまま何も言えなくなっている。それもそのはずだ、ニオ様は騙されていたことも知らず、リオン様のことだけを思ってただひたすらに聖女の誘拐へ加担していたというのに、リオン様はその力を受け取ってはいなかったのだから。

「ははは、無駄ではなかったですよ。聖女様のおかげで虹の力を奪い、アデル国内を混乱させることができた。……騙しやすい頭も心も弱すぎるお前のおかげだよ、ありがとな」

 ベイルはニオ様の顎を掴んで顔を近づけると、最後は丁寧な口調を崩し気味の悪い微笑みを浮かべそう言い放った。

「う、うそ……私、私は……」

 真実を聞かされたニオ様は両目からポロポロと涙を流している。見ているだけでも辛い、だけど今何かしようとすれば捉えられているニオ様とレオン様の身が危ない。どうしよう、どうすればいいんだろう。
 他の騎士様や白龍様、聖女様たちもみんな動きを封じられたようにもどかしい表情で立ちすくんだままだ。

「虹の力も回収してこっちの国を混乱させたならもうその二人は用済みだろ。返せよ」

 ケインズ団長のドスの効いた低い声がその場になり響く。するとその声に気づいたニオ様がケインズ団長を見て両目を見開いた。

「ケインズ……?どう、して」

「よう、お前、いつの間にか姿を消したと思ったら何騙されてんだよ」

「い、いや、見ないで!どうして、どうしてケインズが」

 動揺しオロオロとするニオ様をリオン様が辛そうな表情で見つめている。そして、そんなリオン様をケインズ団長が睨み、言った。

「おい、そこの馬鹿白龍、お前にもクソほど聞きたいことと言いたいことがあるから助かった後は覚悟しとけよ」

 リオン様がケインズ団長を見て悲しげに微笑むと、それを見ていたベイルが笑みを浮かべたまま口を開く。

「ははは、それは困りますね。この二人にはまだ我々の国でしてもらうことがあるのでね。お返しすることはできません」

 


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

子供が可愛いすぎて伯爵様の溺愛に気づきません!

屋月 トム伽
恋愛
私と婚約をすれば、真実の愛に出会える。 そのせいで、私はラッキージンクスの令嬢だと呼ばれていた。そんな噂のせいで、何度も婚約破棄をされた。 そして、9回目の婚約中に、私は夜会で襲われてふしだらな令嬢という二つ名までついてしまった。 ふしだらな令嬢に、もう婚約の申し込みなど来ないだろうと思っていれば、お父様が氷の伯爵様と有名なリクハルド・マクシミリアン伯爵様に婚約を申し込み、邸を売って海外に行ってしまう。 突然の婚約の申し込みに断られるかと思えば、リクハルド様は婚約を受け入れてくれた。婚約初日から、マクシミリアン伯爵邸で住み始めることになるが、彼は未婚のままで子供がいた。 リクハルド様に似ても似つかない子供。 そうして、マクリミリアン伯爵家での生活が幕を開けた。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました

鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。 けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。 そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。 シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。 困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。 夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。 そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。 ※他投稿サイトにも掲載中

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?

はくら(仮名)
恋愛
 ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。 ※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。

処理中です...