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12気持ち
(フェイン様が来て下さってちょうどよかったわ、あのままだと心臓がもたないもの……!)
給湯室にお茶を淹れに来たローラは、ヴェルデとのあまりの近さに胸がどうにかなりそうだった。そのことを思い出して両手で頬を押さえ、ほうっとため息をつく。そして、部屋に入ってきたフェインの様子を思い出してさらにため息をついた。
(フェイン様は私のことを快く迎えてくれたわけではない気がするわ。ヴェルデ様の婚約者だから渋々、と言ったところかしら。それもそうよね、急に突然見知らぬ女が婚約者です、なんて驚くだろうし)
ヴェルデの仕事はそのほとんどをフェインが手伝っているらしい。二人の付き合いはかなり昔からのようで、そこに突然ローラが入ったような形だ、あまりいい気はしないのだろう。
(できればもうちょっと仲良くなれると嬉しいのだけれど……慌てても仕方ないわね。とにかく今はお茶を淹れましょう)
ローラはお湯を沸かしてお茶の葉を選び始めた。選棚にはいろいろなお茶の葉が並んでいる。あまりの多さにどれにしようかと悩んでいると、背後から声がした。
「ヴェルデはアールグレイが一番好きだ」
振り返ると、給湯室の入り口に背中をもたれかけて腕を組んだフェインがいる。
「フェイン様。アールグレイだと……これですね。フェイン様はどれがお好きなんですか?」
ローラがお茶の葉の入った瓶の一つを取り出しフェインに見せ首を傾げる。
「俺も同じものが好きだ」
「では、アールグレイをお淹れしますね」
ニコッと微笑むと、ローラはティーポットとカップを手際よく用意して、お湯が沸くのを待った。
「……最近の態度、色々とすまないな。ヴェルデに謝ってこいと言われた」
突然、フェインがボソッと言葉を発した。どうやらローラに謝罪をしているらしい。その顔はどこか苦々しく、だが嘘はついていないように見える。
「……いえ、私はここに突然やってきた身です。ヴェルデ様のお仕事をフェイン様がずっと今まで支えてきたと聞いていますので、お二人の仲に突然私のような人間が来て、しかもヴェルデ様のお仕事を増やしてしまったような形になって…… きっとフェイン様も色々と思うことがあったのだとわかっています」
眉を下げて少し寂しげに微笑むローラを、フェインは驚いたように見つめた。
「あんた、お嬢様なくせに随分と優しいんだな。高飛車な感じが全くしないし。まぁ、ヴェルデが見込んだご令嬢なんだから当然といえば当然か」
はぁ、とため息をついてフェインは給湯室の中へ入り、近くの椅子に座った。それを見てローラも近くの椅子に腰をかける。
「俺は、ヴェルデに拾われたようなもんなんだ。身寄りがなくていろんな仕事を転々としながら生活してたんだけど、ある時ヴェインが俺の魔法の才能を見出してくれたんだよ。研究を手伝ってくれと言われて、それからずっと一緒に研究ばかりしてきた。ヴェルデのお陰で俺は仕事も地位もまともに得ることができた。俺は人付き合いも上手くないし好きじゃない。あいつも研究さえしていればいいというタイプの人間だったから、これからもずっと二人で研究だけして生きていくとばかり思ってたんだ。そしたら突然あんたを連れてきて、婚約者だって言うんだぜ。一体どうしちまったんだろうって思うだろ」
研究をしながら苦楽を共にしてきた長年の友に、突然婚約者が現れた。そして今まではずっと一緒に研究していたのに、婚約者にかけられた魔法については自分だけで対応すると言う。疎外感を感じるのは無理もない。だが、ローラにはフェインからそれだけではない何かを感じていた。
「あの、このようなデリケートなことを聞くのは失礼かもしれませんが、フェイン様はヴェルデ様のことを、その、好きなのではありませんか。性別関係なく、といいますか、恋愛感情と言いますか、表現が難しいのですが」
ローラの問いに、フェインは両目を丸くして固まる。そして、顔を片手で覆うと盛大にため息をついた。
「いや、あんたが思ってるような感情ではないよ。この国は性別関係なく恋愛も結婚もできるし、誰も否定もしない。だけど、俺がヴェルデに思ってるのはそういうものではない、多分」
最後に多分、とつけるあたりにフェインの人の良さと誠実さを感じて、ローラは思わず微笑んだ。
「でもあんたがそう勘違いしたってことは、少なからずそう思われるような態度を俺がとってたんだろう。自覚はないけどな。そうなると、恐らくだが大切にしてた家族を急に取られた気分になったとか、そういうところだろ。ヴェルデに対して俺がそう思っているっていうのはなんだか癪だけどな」
やれやれと肩をすくめてそういうと、フェインはローラを真っ直ぐに見つめた。
「婚約者のあんたにそんな風に思わせてしまって申し訳ない。本当はあんたのこともちゃんと祝福したいんだ。でも、そもそも女性との関わりもあまりないし得意じゃないからどう接していいかわからないんだよ。気に触るようなことをしていたら申し訳ない」
フェインはそう言って静かに頭を下げる。
「いえ、お気になさらないでください。違うとはおっしゃっていましたが、もしフェイン様がヴェルデ様に恋愛感情を持っていたとしたらむしろ私の方が申し訳ないと思っていました。それに家族のように思っているのでしたら、なおさら突然やってきた私がヴェルデ様を独り占めしてしまうようなことになっていますし、どんな対応をされたとしても仕方ないと思っています。こうやってフェイン様が私に真摯に向き合って下さることは本当にありがたいことです」
首を振って静かに微笑むローラ。そんなローラを、フェインはぼうっと見惚れるように見つめていた。
「あんた、本当にできたお嬢様なんだな。こんなに素直だとヴェルデもむしろ心配になるだろ」
「誰がなんだって?」
「ヴェルデ様!」
ローラとフェインが声のする方を見ると、入り口にヴェルデが少し不満げに立っていた。
「二人がなかなか戻って来ないから心配になって見にきてみたら、随分と仲が良さそうじゃないか」
「婚約者様と仲良くしてこいって言ったのはお前だろ」
「そうだけど……なんか妬けるな」
そう言ってヴェルデはずかずかと入って来て二人の間にある椅子に座る。
「お湯も沸いたので、お茶はお部屋にお持ちしますよ?」
「いや、もうここで飲んでしまおう」
「そうだな、その方が手っ取り早い」
二人の返事にローラは思わずくすくすと小さく笑い始めた。
「ローラ様?」
「うふふ、すみません。お二人の息がぴったりなものですから、つい嬉しくて」
嬉しそうに笑うローラに、ヴェルデとフェインは目を合わせて少し照れ気味に微笑んだ。
給湯室にお茶を淹れに来たローラは、ヴェルデとのあまりの近さに胸がどうにかなりそうだった。そのことを思い出して両手で頬を押さえ、ほうっとため息をつく。そして、部屋に入ってきたフェインの様子を思い出してさらにため息をついた。
(フェイン様は私のことを快く迎えてくれたわけではない気がするわ。ヴェルデ様の婚約者だから渋々、と言ったところかしら。それもそうよね、急に突然見知らぬ女が婚約者です、なんて驚くだろうし)
ヴェルデの仕事はそのほとんどをフェインが手伝っているらしい。二人の付き合いはかなり昔からのようで、そこに突然ローラが入ったような形だ、あまりいい気はしないのだろう。
(できればもうちょっと仲良くなれると嬉しいのだけれど……慌てても仕方ないわね。とにかく今はお茶を淹れましょう)
ローラはお湯を沸かしてお茶の葉を選び始めた。選棚にはいろいろなお茶の葉が並んでいる。あまりの多さにどれにしようかと悩んでいると、背後から声がした。
「ヴェルデはアールグレイが一番好きだ」
振り返ると、給湯室の入り口に背中をもたれかけて腕を組んだフェインがいる。
「フェイン様。アールグレイだと……これですね。フェイン様はどれがお好きなんですか?」
ローラがお茶の葉の入った瓶の一つを取り出しフェインに見せ首を傾げる。
「俺も同じものが好きだ」
「では、アールグレイをお淹れしますね」
ニコッと微笑むと、ローラはティーポットとカップを手際よく用意して、お湯が沸くのを待った。
「……最近の態度、色々とすまないな。ヴェルデに謝ってこいと言われた」
突然、フェインがボソッと言葉を発した。どうやらローラに謝罪をしているらしい。その顔はどこか苦々しく、だが嘘はついていないように見える。
「……いえ、私はここに突然やってきた身です。ヴェルデ様のお仕事をフェイン様がずっと今まで支えてきたと聞いていますので、お二人の仲に突然私のような人間が来て、しかもヴェルデ様のお仕事を増やしてしまったような形になって…… きっとフェイン様も色々と思うことがあったのだとわかっています」
眉を下げて少し寂しげに微笑むローラを、フェインは驚いたように見つめた。
「あんた、お嬢様なくせに随分と優しいんだな。高飛車な感じが全くしないし。まぁ、ヴェルデが見込んだご令嬢なんだから当然といえば当然か」
はぁ、とため息をついてフェインは給湯室の中へ入り、近くの椅子に座った。それを見てローラも近くの椅子に腰をかける。
「俺は、ヴェルデに拾われたようなもんなんだ。身寄りがなくていろんな仕事を転々としながら生活してたんだけど、ある時ヴェインが俺の魔法の才能を見出してくれたんだよ。研究を手伝ってくれと言われて、それからずっと一緒に研究ばかりしてきた。ヴェルデのお陰で俺は仕事も地位もまともに得ることができた。俺は人付き合いも上手くないし好きじゃない。あいつも研究さえしていればいいというタイプの人間だったから、これからもずっと二人で研究だけして生きていくとばかり思ってたんだ。そしたら突然あんたを連れてきて、婚約者だって言うんだぜ。一体どうしちまったんだろうって思うだろ」
研究をしながら苦楽を共にしてきた長年の友に、突然婚約者が現れた。そして今まではずっと一緒に研究していたのに、婚約者にかけられた魔法については自分だけで対応すると言う。疎外感を感じるのは無理もない。だが、ローラにはフェインからそれだけではない何かを感じていた。
「あの、このようなデリケートなことを聞くのは失礼かもしれませんが、フェイン様はヴェルデ様のことを、その、好きなのではありませんか。性別関係なく、といいますか、恋愛感情と言いますか、表現が難しいのですが」
ローラの問いに、フェインは両目を丸くして固まる。そして、顔を片手で覆うと盛大にため息をついた。
「いや、あんたが思ってるような感情ではないよ。この国は性別関係なく恋愛も結婚もできるし、誰も否定もしない。だけど、俺がヴェルデに思ってるのはそういうものではない、多分」
最後に多分、とつけるあたりにフェインの人の良さと誠実さを感じて、ローラは思わず微笑んだ。
「でもあんたがそう勘違いしたってことは、少なからずそう思われるような態度を俺がとってたんだろう。自覚はないけどな。そうなると、恐らくだが大切にしてた家族を急に取られた気分になったとか、そういうところだろ。ヴェルデに対して俺がそう思っているっていうのはなんだか癪だけどな」
やれやれと肩をすくめてそういうと、フェインはローラを真っ直ぐに見つめた。
「婚約者のあんたにそんな風に思わせてしまって申し訳ない。本当はあんたのこともちゃんと祝福したいんだ。でも、そもそも女性との関わりもあまりないし得意じゃないからどう接していいかわからないんだよ。気に触るようなことをしていたら申し訳ない」
フェインはそう言って静かに頭を下げる。
「いえ、お気になさらないでください。違うとはおっしゃっていましたが、もしフェイン様がヴェルデ様に恋愛感情を持っていたとしたらむしろ私の方が申し訳ないと思っていました。それに家族のように思っているのでしたら、なおさら突然やってきた私がヴェルデ様を独り占めしてしまうようなことになっていますし、どんな対応をされたとしても仕方ないと思っています。こうやってフェイン様が私に真摯に向き合って下さることは本当にありがたいことです」
首を振って静かに微笑むローラ。そんなローラを、フェインはぼうっと見惚れるように見つめていた。
「あんた、本当にできたお嬢様なんだな。こんなに素直だとヴェルデもむしろ心配になるだろ」
「誰がなんだって?」
「ヴェルデ様!」
ローラとフェインが声のする方を見ると、入り口にヴェルデが少し不満げに立っていた。
「二人がなかなか戻って来ないから心配になって見にきてみたら、随分と仲が良さそうじゃないか」
「婚約者様と仲良くしてこいって言ったのはお前だろ」
「そうだけど……なんか妬けるな」
そう言ってヴェルデはずかずかと入って来て二人の間にある椅子に座る。
「お湯も沸いたので、お茶はお部屋にお持ちしますよ?」
「いや、もうここで飲んでしまおう」
「そうだな、その方が手っ取り早い」
二人の返事にローラは思わずくすくすと小さく笑い始めた。
「ローラ様?」
「うふふ、すみません。お二人の息がぴったりなものですから、つい嬉しくて」
嬉しそうに笑うローラに、ヴェルデとフェインは目を合わせて少し照れ気味に微笑んだ。
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