生徒会長は不登校!?

中村健一

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銭湯

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 この時雨荘は風呂なしだが、近くに銭湯があるのは凄く助かっている。

 その夜、俺は洗面器に二人分のタオルを入れると、飾莉を連れて玄関を出た。

「あ」
「あ……」

 同じタイミングで久園寺さんが部屋から出てきた。
 本当に隣に住んでるんだ……。
 
 久園寺さんの手には、洗面器とタオル、シャンプーがあった。
 
「……悟さんたちもお風呂ですか?」
「うん、久園寺さんも?」
「はい、よかったら一緒にいきましょう!」

 そうして、三人でアパートを出た。
 行き先は、時雨荘から歩いて15分の場所にある銭湯。

 途中、手をつなぐ飾莉の視線が、ちらちらと久園寺さんの方を向いていた。
 それに気づいた久園寺さんがにっこりと微笑んで

「お二人は仲が良いですよね。飾莉ちゃんは小学校何年生ですか?」

「……小4」

 飾莉はぼそりとつぶやいた。

「わあ、そうなんですね。可愛いですね」
「……」

 飾莉は、久園寺さんのことをまだ警戒しているようで、あまり喋ろうとしない。

 途中にある水門橋から川を見渡すと、夜空に浮かぶ月をきらきらと反射させていた。

 しばらく歩くと、もうもうと煙の上がる銭湯の煙突が見えてきた。


 そこで、俺は大事なことに気付く。
 銭湯にはもちろん、男湯と女湯がある。
 飾莉はつい先月まで小学3年生だったから気にしなかったものだが、今年の4月に入ってからはもう小学4年生だ。
 高学年になってまで男湯に入れるのは、少し考えを改めるべきだろうか。
 さて、どうするか。

「なあ飾莉、せっかく久園寺さんがいるんだし、今日は男湯じゃなくて……」
「やだ、にーちゃんと入る」

 本当ならここで飾莉と別れるべきだが、まだ当の本人は久園寺さんに慣れていないみたいだ。

「あはは……じゃあ私、先に入ってきちゃいますね」

 そういって、女湯の暖簾をくぐっていった。


 ***


 男湯の暖簾をくぐると、番台の老人がにっこりと目を合わしてくる。

「やあ飾莉ちゃん、今日もお兄ちゃんと一緒かい?」
「うん」

 この銭湯は何歳まで男湯に入れるんだろうか。
 俺は番台の老人に尋ねてみると、十歳までは一緒で問題ないと言われた。
 どういう基準なんだろう、と思いながら俺は二人分の料金を払い、飾莉を連れて脱衣所へ。
 他人と交じり、高学年にもなってこんな異性ばかりの場所で服を脱ぐのは恥ずかしくないんだろうかと思ったが、飾莉は気にする風でもなく服を脱いでいた。
 やっぱりまだ子どもなんだよなあ……と考えさせられつつ、俺も服を脱いで風呂場へ向かう。

 俺は飾莉の手を引いて近くの洗い場に腰を下ろす。
 隣に腰を下ろした飾莉は、じっとこちらを見ている。

「洗ってほしいのか」

 こくん、と頷く。
 いつものように、背中を向けてくる。

 振り返ってみれば、小さい頃、俺も親父によく洗ってもらっていたなあ。
 そんなことを考えつつ、飾莉の体を洗い終える。

「頭くらいは自分で洗えよ」

 また、こくん、と頷くと飾莉はシャンプーを手にとってわしわしと髪を洗い始めた。

 ……これからいつまで、こんな風にして一緒に風呂に入れるのだろうか。
 飾莉の頭をシャワーで洗い流してやりながら、そんなことを少し考えてしまった。

 お湯の熱さに耐えられないようで、飾莉は1分もしない内に湯船から上がった。

「先でてる」

 そして一人で脱衣所へ向かった。
 俺はもう少し長く浸かっていたかったが、飾莉の後を追った。
 こうも騒がしいと疲れるだけ。
 かつての自分も、やはり両親に世話をかけていたのだろうな、と思いながら脱衣所へ向かった。

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