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5話
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公爵邸の裏庭からは、夜通しイザベラの呪詛に満ちた叫びが聞こえていましたが、明け方にはそれもぷっつりと途絶えました。
「エリス様、もう外を気にされる必要はございませんよ」
老執事セバスが、穏やかな手つきでエリスの髪を梳かします。エリスの肌は、連日の魔力供給のおかげで、病弱だった頃が嘘のように透き通るような輝きを放っていました。
「……イザベラは、どうなったのですか?」
「自らの呪いの毒に焼かれ、砂のように崩れ去りました。ローウェル伯爵も、溜まった借金と呪いの転移に耐えかね、今朝がた夜逃げしたようです。……もっとも、あの死神(旦那様)の眼から逃げ切れる場所など、この世にございませんが」
エリスは鏡の中の自分を見つめました。自分を虐げた者たちが消えていく。それは救いであるはずなのに、今のエリスには、それ以上に自分を縛り上げる「愛の重さ」が恐ろしく、そして甘美でした。
そこへ、重厚な足音が響き、アルカードが姿を現しました。 彼の手には、見たこともないほど巨大な紅色の宝石が嵌められたチョーカーが握られていました。
「エリス、こちらへ」
アルカードはセバスからブラシを奪い取ると、自らの手でエリスの細い首にそのチョーカーを巻き付けました。
「これは……?」
「『竜の心臓』を加工した魔石だ。私の魔力を極限まで圧縮して閉じ込めてある。……これをつけていれば、私が傍にいない数時間も、君の命を繋ぎ止めることができる」
冷たい宝石が肌に触れますが、内側からはアルカードの体温と同じ熱がじわじわと溢れ出してきます。
「ありがとうございます、公爵様……」
「礼などいらん。……だが、これにはもう一つの役割がある」
アルカードはエリスの耳元に唇を寄せ、地を這うような低い声で囁きました。
「その石は私の瞳と繋がっている。君がどこにいて、どんな表情をし、どんな男と口を利いているか……すべて私に伝わるようになっている。……君を私の視界から一秒たりとも外したくないのだ」
それは贈り物という名の「監視の鎖」でした。 しかし、エリスは拒むどころか、その石の熱に安心を覚えてしまう自分に気づいていました。
「明晩、王宮で夜会がある。そこで君を私の『唯一の妻』として披露する」
「夜会……? でも、私はまだ呪いの痣がありますし、何より不吉な生贄として……」
「誰がそんな口を利く? 君の痣は、今や私だけが触れることを許された『愛の刻印』だ。……君を侮辱する視線があれば、その瞳ごとすべて私が潰してやろう」
アルカードは、チョーカーの宝石の上から深く接吻を落としました。 明日、世界は知ることになるのです。冷酷無比な死神が、一人の生贄の令嬢に、国を滅ぼしかねないほどの狂った執着を捧げていることを。
「エリス様、もう外を気にされる必要はございませんよ」
老執事セバスが、穏やかな手つきでエリスの髪を梳かします。エリスの肌は、連日の魔力供給のおかげで、病弱だった頃が嘘のように透き通るような輝きを放っていました。
「……イザベラは、どうなったのですか?」
「自らの呪いの毒に焼かれ、砂のように崩れ去りました。ローウェル伯爵も、溜まった借金と呪いの転移に耐えかね、今朝がた夜逃げしたようです。……もっとも、あの死神(旦那様)の眼から逃げ切れる場所など、この世にございませんが」
エリスは鏡の中の自分を見つめました。自分を虐げた者たちが消えていく。それは救いであるはずなのに、今のエリスには、それ以上に自分を縛り上げる「愛の重さ」が恐ろしく、そして甘美でした。
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「エリス、こちらへ」
アルカードはセバスからブラシを奪い取ると、自らの手でエリスの細い首にそのチョーカーを巻き付けました。
「これは……?」
「『竜の心臓』を加工した魔石だ。私の魔力を極限まで圧縮して閉じ込めてある。……これをつけていれば、私が傍にいない数時間も、君の命を繋ぎ止めることができる」
冷たい宝石が肌に触れますが、内側からはアルカードの体温と同じ熱がじわじわと溢れ出してきます。
「ありがとうございます、公爵様……」
「礼などいらん。……だが、これにはもう一つの役割がある」
アルカードはエリスの耳元に唇を寄せ、地を這うような低い声で囁きました。
「その石は私の瞳と繋がっている。君がどこにいて、どんな表情をし、どんな男と口を利いているか……すべて私に伝わるようになっている。……君を私の視界から一秒たりとも外したくないのだ」
それは贈り物という名の「監視の鎖」でした。 しかし、エリスは拒むどころか、その石の熱に安心を覚えてしまう自分に気づいていました。
「明晩、王宮で夜会がある。そこで君を私の『唯一の妻』として披露する」
「夜会……? でも、私はまだ呪いの痣がありますし、何より不吉な生贄として……」
「誰がそんな口を利く? 君の痣は、今や私だけが触れることを許された『愛の刻印』だ。……君を侮辱する視線があれば、その瞳ごとすべて私が潰してやろう」
アルカードは、チョーカーの宝石の上から深く接吻を落としました。 明日、世界は知ることになるのです。冷酷無比な死神が、一人の生贄の令嬢に、国を滅ぼしかねないほどの狂った執着を捧げていることを。
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