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7話
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夜会の喧騒を後にし、公爵邸へと走る馬車の車内。 揺れる街灯の光が、アルカード様の鋭い輪郭を交互に照らし出していました。
「……公爵様。先ほどの、ジュリアン様への沙汰は……」
エリスがそっと言葉を漏らすと、アルカード様は無言で彼女を引き寄せ、膝の上に強引に座らせました。ドレスの裾が乱れるのも構わず、彼はエリスの細い首筋に顔を埋めます。
「奴の名を口にするなと言ったはずだ。……あの程度の報いでは生ぬるい。私の見ていないところで、奴の視線が君を汚した。その事実だけで、万死に値する」
「あっ……公爵、さま……」
首筋に落とされる熱い吸い痕に、エリスは吐息を漏らしました。夜会の緊張から解放された安堵と、アルカード様の強すぎる独占欲が混ざり合い、彼女の心臓は激しく波打ちます。
「寿命が縮んでいるな……。エリス、魔力が必要か?」
彼はエリスの唇を奪おうとしましたが、その時、馬車が急停車しました。
「――お熱いところを失礼。相変わらず、食欲旺盛だね、アルカード」
馬車の扉が外から魔法で開かれ、そこに一人の男が立っていました。 漆黒のローブを纏い、不敵な笑みを浮かべた男――アルカード様の旧友であり、帝国最高の魔術師、カシアンです。
「カシアン。……殺されたいのか」
「おっと、怖い怖い。そんな顔をするなよ。親友が『生贄の小鳥』を買い込んだと聞いて、鑑定に来ただけさ」
カシアンは馬車に乗り込むと、アルカード様の制止を無視してエリスの瞳を覗き込みました。その瞬間、彼の軽薄な笑みが消え、目つきが鋭くなります。
「……おい、アルカード。正気か? 彼女の呪い……これ、ただの『不吉』じゃないぞ」
「分かっている。だから生かしている」
「いや、分かってない。この呪いの正体は『神への供物』だ。彼女の命が尽きる時、その神気はすべて、彼女を『捧げた者』の力になる。つまり、彼女が死ねば、君の手に負えないほどの怪物が生まれるぞ」
カシアンの言葉に、エリスは顔を青くしました。 自分の死が、誰かの強大な力になる。家族が自分を「生贄」として公爵に売った本当の理由は、そこにあったのです。
「……ならば、死なせなければいいだけの話だ」
アルカード様はエリスを隠すようにマントで包み込み、カシアンを冷たく睨みつけました。
「カシアン。君の知識が必要だ。呪いの根を、彼女の命から引き剥がす方法を見つけろ。……さもなくば、君の魔術塔ごと、この地から消し飛ばす」
「ははっ、脅しが本気すぎる。……お嬢さん、同情するよ。君を狙う『死の運命』よりも、君を離さないこの『死神』の方が、よほど執念深いようだ」
カシアンは肩をすくめましたが、その瞳にはエリスの命を巡る残酷な真実への懸念が宿っていました。
その夜、アルカード様はいつも以上に激しく、エリスに魔力を注ぎ込みました。
「君を誰にも渡さない。死にさえも、神にさえもだ」
彼の囁きは、もはや祈りではなく、この世界の理を歪めるための呪文のようにエリスの耳に響くのでした。
「……公爵様。先ほどの、ジュリアン様への沙汰は……」
エリスがそっと言葉を漏らすと、アルカード様は無言で彼女を引き寄せ、膝の上に強引に座らせました。ドレスの裾が乱れるのも構わず、彼はエリスの細い首筋に顔を埋めます。
「奴の名を口にするなと言ったはずだ。……あの程度の報いでは生ぬるい。私の見ていないところで、奴の視線が君を汚した。その事実だけで、万死に値する」
「あっ……公爵、さま……」
首筋に落とされる熱い吸い痕に、エリスは吐息を漏らしました。夜会の緊張から解放された安堵と、アルカード様の強すぎる独占欲が混ざり合い、彼女の心臓は激しく波打ちます。
「寿命が縮んでいるな……。エリス、魔力が必要か?」
彼はエリスの唇を奪おうとしましたが、その時、馬車が急停車しました。
「――お熱いところを失礼。相変わらず、食欲旺盛だね、アルカード」
馬車の扉が外から魔法で開かれ、そこに一人の男が立っていました。 漆黒のローブを纏い、不敵な笑みを浮かべた男――アルカード様の旧友であり、帝国最高の魔術師、カシアンです。
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「おっと、怖い怖い。そんな顔をするなよ。親友が『生贄の小鳥』を買い込んだと聞いて、鑑定に来ただけさ」
カシアンは馬車に乗り込むと、アルカード様の制止を無視してエリスの瞳を覗き込みました。その瞬間、彼の軽薄な笑みが消え、目つきが鋭くなります。
「……おい、アルカード。正気か? 彼女の呪い……これ、ただの『不吉』じゃないぞ」
「分かっている。だから生かしている」
「いや、分かってない。この呪いの正体は『神への供物』だ。彼女の命が尽きる時、その神気はすべて、彼女を『捧げた者』の力になる。つまり、彼女が死ねば、君の手に負えないほどの怪物が生まれるぞ」
カシアンの言葉に、エリスは顔を青くしました。 自分の死が、誰かの強大な力になる。家族が自分を「生贄」として公爵に売った本当の理由は、そこにあったのです。
「……ならば、死なせなければいいだけの話だ」
アルカード様はエリスを隠すようにマントで包み込み、カシアンを冷たく睨みつけました。
「カシアン。君の知識が必要だ。呪いの根を、彼女の命から引き剥がす方法を見つけろ。……さもなくば、君の魔術塔ごと、この地から消し飛ばす」
「ははっ、脅しが本気すぎる。……お嬢さん、同情するよ。君を狙う『死の運命』よりも、君を離さないこの『死神』の方が、よほど執念深いようだ」
カシアンは肩をすくめましたが、その瞳にはエリスの命を巡る残酷な真実への懸念が宿っていました。
その夜、アルカード様はいつも以上に激しく、エリスに魔力を注ぎ込みました。
「君を誰にも渡さない。死にさえも、神にさえもだ」
彼の囁きは、もはや祈りではなく、この世界の理を歪めるための呪文のようにエリスの耳に響くのでした。
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