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9話
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禁忌の儀式から数日が経ちました。 エリスの胸元にあった「黒い百合」の痣は、アルカード様の血を吸い上げたことで、毒々しい黒から、燃えるような真紅へと色を変えていました。
「……はぁ、っ……く……」
公爵邸の寝室。アルカード様は珍しく、ベッドの上で荒い息をついていました。 強大な「死神」といえど、寿命の半分を切り分け、さらにエリスの呪いを肩代わりした代償は大きく、その体は高熱に浮かされています。
「公爵様! お水を持ってまいります、それともカシアン様を……」
慌てて立ち上がろうとするエリスの手を、アルカード様が力強く引き戻しました。
「……どこへ行く。行くなと言っているだろう」
「でも、貴方のお体が……私のせいで、こんな……っ」
エリスが涙をこぼすと、アルカード様はその雫を指で拭い、そのまま彼女を自分の方へと引き寄せました。彼と肌が触れ合った瞬間、エリスの心臓がドクンと大きく跳ねました。
不思議な感覚でした。自分の鼓動のすぐ裏側に、もう一つの鼓動——アルカード様の鼓動が重なって聞こえるのです。
「感じるか、エリス。私の命が、君の中で脈打っているのを。……今、私はかつてないほどに満たされている。君が私の痛みを感じ、私が君の熱を感じる。……これこそが、私の望んでいた真の結合だ」
アルカード様は苦しげな吐息を漏らしながらも、その瞳には恍惚とした光が宿っていました。 彼はエリスを抱き枕のように抱え込み、彼女の首筋に深く顔を埋めます。エリスが彼の髪を優しく撫でると、アルカード様は満足げに目を細めました。
しかし、その平穏を破るように、カシアンが血相を変えて部屋に飛び込んできました。
「おい、二人で愛の逃避行を楽しんでいるところを悪いが、事態は急を要するぞ!」
「……カシアン。殺されたいのか。今すぐ出ていけ」
「殺されてもいいが、その前にこれを見ろ。イザベラの死体……いや、砂になったはずの残骸を調べて分かったことがある」
カシアンが差し出したのは、ひび割れた不気味な水晶の破片でした。
「イザベラに呪いを植え付け、エリスを『生贄』としてアルカードに差し出すよう仕向けたのは、彼女の両親じゃない。……隣国の『冥王教団』だ。彼らは、死神である君の魔力と、エリスの神聖な呪いをぶつけ合わせ、その衝撃で『災厄の神』を降臨させようとしている」
アルカード様の銀色の瞳が、鋭く細められました。
「教団だと……? くだらん。私の女を、儀式の道具にしようというのか」
「それだけじゃない。教団の刺客が、すでにこの邸の結界を破って侵入している。……狙いは、エリスの心臓だ。アルカード、今の君の体で戦えるのか?」
その言葉が終わるか終わらないかのうちに、邸の廊下から、不気味な詠唱の声と、衛兵たちの悲鳴が響き始めました。
アルカード様は、ふらつく体を押して立ち上がると、傍らにあった大剣を手に取りました。
「エリス、私の後ろにいろ。……私の命を分けてまで繋ぎ止めた宝に、指一本触れさせると思うなよ」
病床の「死神」が、愛する者を守るために、再び戦鬼へと変貌しようとしていました。
「……はぁ、っ……く……」
公爵邸の寝室。アルカード様は珍しく、ベッドの上で荒い息をついていました。 強大な「死神」といえど、寿命の半分を切り分け、さらにエリスの呪いを肩代わりした代償は大きく、その体は高熱に浮かされています。
「公爵様! お水を持ってまいります、それともカシアン様を……」
慌てて立ち上がろうとするエリスの手を、アルカード様が力強く引き戻しました。
「……どこへ行く。行くなと言っているだろう」
「でも、貴方のお体が……私のせいで、こんな……っ」
エリスが涙をこぼすと、アルカード様はその雫を指で拭い、そのまま彼女を自分の方へと引き寄せました。彼と肌が触れ合った瞬間、エリスの心臓がドクンと大きく跳ねました。
不思議な感覚でした。自分の鼓動のすぐ裏側に、もう一つの鼓動——アルカード様の鼓動が重なって聞こえるのです。
「感じるか、エリス。私の命が、君の中で脈打っているのを。……今、私はかつてないほどに満たされている。君が私の痛みを感じ、私が君の熱を感じる。……これこそが、私の望んでいた真の結合だ」
アルカード様は苦しげな吐息を漏らしながらも、その瞳には恍惚とした光が宿っていました。 彼はエリスを抱き枕のように抱え込み、彼女の首筋に深く顔を埋めます。エリスが彼の髪を優しく撫でると、アルカード様は満足げに目を細めました。
しかし、その平穏を破るように、カシアンが血相を変えて部屋に飛び込んできました。
「おい、二人で愛の逃避行を楽しんでいるところを悪いが、事態は急を要するぞ!」
「……カシアン。殺されたいのか。今すぐ出ていけ」
「殺されてもいいが、その前にこれを見ろ。イザベラの死体……いや、砂になったはずの残骸を調べて分かったことがある」
カシアンが差し出したのは、ひび割れた不気味な水晶の破片でした。
「イザベラに呪いを植え付け、エリスを『生贄』としてアルカードに差し出すよう仕向けたのは、彼女の両親じゃない。……隣国の『冥王教団』だ。彼らは、死神である君の魔力と、エリスの神聖な呪いをぶつけ合わせ、その衝撃で『災厄の神』を降臨させようとしている」
アルカード様の銀色の瞳が、鋭く細められました。
「教団だと……? くだらん。私の女を、儀式の道具にしようというのか」
「それだけじゃない。教団の刺客が、すでにこの邸の結界を破って侵入している。……狙いは、エリスの心臓だ。アルカード、今の君の体で戦えるのか?」
その言葉が終わるか終わらないかのうちに、邸の廊下から、不気味な詠唱の声と、衛兵たちの悲鳴が響き始めました。
アルカード様は、ふらつく体を押して立ち上がると、傍らにあった大剣を手に取りました。
「エリス、私の後ろにいろ。……私の命を分けてまで繋ぎ止めた宝に、指一本触れさせると思うなよ」
病床の「死神」が、愛する者を守るために、再び戦鬼へと変貌しようとしていました。
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