死を待つ生贄令嬢ですが、冷徹な死神公爵に「君が死ぬまで離さない」と愛を刻まれました

腐ったバナナ

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10話

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 邸の回廊を、どす黒い霧が覆い尽くしていました。「冥王教団」の刺客たちは、実体を持たない影の騎士となり、エリスの心臓を狙って迫ります。

「……っ、アルカード様! お顔の色が……!」

 エリスを背中に隠し、大剣を杖代わりにして立つアルカード様の額には、脂汗が滲んでいます。寿命の半分を分け与えた直後の体には、本来なら立ち上がることさえ不可能な負荷がかかっていました。

「気にするな……と言いたいが、確かに少しばかり、視界が赤いな」

 アルカード様は自嘲気味に笑うと、迫り来る影の騎士を一太刀で一掃しました。しかし、斬ったそばから影は再生し、不気味な詠唱がエリスの耳元で直接響きます。

『――捧げよ。神聖なる生贄を。その心臓は、王の血によって熟した。今こそ、我らが神の糧となる時だ』

「黙れ、羽虫どもが……!」

 アルカード様が再び剣を振るおうとした瞬間、激しい吐血と共に膝をつきました。エリスの呪いを肩代わりしている彼の胸に、真紅の百合が燃えるような痛みを刻みます。

「公爵様!!」

 エリスが駆け寄ろうとしたその隙を、教団の司祭が見逃しませんでした。影の中から現れた司祭の鉤爪が、エリスの細い首筋を掴み上げます。

「くっ……離して……!」

「素晴らしい。死神の命を吸い込み、これほどまでに芳醇な香りを放つ生贄になろうとは。アルカード公爵、貴公の執着こそが、最高の調味料となったのだ」

 司祭が勝ち誇ったように笑い、エリスの胸元へ短剣を突き立てようとした――その時でした。

「……私の女に、その汚い手で触れるなと言ったはずだ」

 アルカード様の全身から、見たこともないほど濃密な、漆黒の魔力が溢れ出しました。 それは「魔力」というより、純粋な「殺意」の塊。 彼の瞳は銀色から血のような赤へと染まり、限界を超えた力が、邸の石床を粉々に砕きます。

「な、何だこの圧は……!? 貴公の寿命は尽きかけているはず――」

「尽きかけている? 違うな。エリスが生きている限り、私は死なない。彼女の鼓動が、私の命を繋いでいるのだからな」

 アルカード様は、影の騎士たちを素手で掴み取ると、そのまま霧散させることさえ許さず握り潰しました。絶叫を上げる司祭を、彼は冷酷な眼差しで見下ろします。

「君を連れ去ろうとする者が神であれ運命であれ、私がすべて噛み殺すと……そう誓ったのだ」

 アルカード様の手が、司祭の喉元を貫きました。 教団の者たちが灰となって消えていく中、アルカード様は返り血を浴びたまま、震えるエリスを力任せに抱き寄せました。

「ああ……エリス。……大丈夫だ。どこへも行かせない。君の心臓は、ここで……私の腕の中でしか動くことを許さない」

 熱に浮かされたアルカード様の接吻は、鉄の味がしました。 エリスは恐怖と安堵、そして自分を救うために命を削り続ける男への、逃れられない愛着に涙し、彼の背中に細い腕を回しました。

 教団の襲撃は退けましたが、アルカード様の執着は、もはや正気を失いつつありました。
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