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12話
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窓を閉ざし、蜜月とも監禁ともつかぬ生活が続いていたある夜。 アルカード様の体調は、かつてないほど悪化していました。魔王化が進む彼の肌には、黒い亀裂のような紋様が浮かび上がり、その熱はエリスの肌を焼くほどに高まっていました。
「……あ、が……っ、エリス……逃げろ、今のうちに……」
意識が混濁する中で、アルカード様が苦しげに喘ぎます。 彼の強大すぎる魔力が、制御を失って暴走し始めていたのです。部屋の家具がひとりでに震え、空間が歪み始めます。
「嫌です! どこにも行きません!」
エリスは黄金の枷に繋がれた足を引きずり、アルカード様の胸にしがみつきました。 彼を救いたい。自分の命を半分くれたこの人を、今度は自分が救いたい。 その強い願いに呼応するように、エリスの胸元にある「真紅の百合」が、まばゆいばかりの純白の光を放ち始めました。
「これは……?」
エリスの体から溢れ出したのは、ドロドロとした魔力ではなく、清冽な「神気」でした。 彼女の手がアルカード様の頬に触れると、彼を蝕んでいた黒い紋様が、雪が溶けるように消えていきます。
「……う、あ……熱が、引いていく……?」
アルカード様の赤い瞳が、次第に元の美しい銀色へと戻っていきました。 エリスの神気は、暴走する死神の力を鎮める唯一の「浄化の鍵」だったのです。
しかし、その奇跡と引き換えに、エリスの体からは急激に力が抜けていきました。 神気を使い果たした彼女は、そのまま糸の切れた人形のように、アルカード様の腕の中へ倒れ込みます。
「エリス! ――おい、目を開けろ!」
飛び込んできたカシアンが、エリスの様子を見て舌打ちしました。
「……やっぱりか。彼女は『神聖の依代』として完全に覚醒した。アルカード、皮肉なもんだな。君が彼女に寿命を分けたことで、彼女の中の眠っていた神気が、君の魔力を栄養にして芽吹いちまったんだ」
「エリスはどうなる」
「……彼女が君を癒やせば癒やすほど、彼女の意識は『個』を失い、ただの浄化装置……神の道具へと近づいていく。君が彼女を独占しようとすればするほど、彼女の人間としての心は壊れていくかもしれないんだぞ」
アルカード様は、青ざめた顔で眠るエリスを抱き締めました。 彼女の力は、彼を救う。しかし、その力を使わせることは、彼女を廃人にしかねない。
「……それでも、私は彼女を離さない。彼女が心を失うというのなら、私がその心の代わりになればいいだけのことだ」
アルカード様の瞳に、暗い決意が宿りました。 彼はエリスを癒やすためではなく、彼女が二度とその「神の力」を使わなくて済むように、自分自身の魔力をさらに凶悪なものへと鍛え上げることを決意します。
一方、深い眠りの中で、エリスは不思議な声を聞いていました。 『……捧げなさい。あなたのすべてを。そうすれば、愛する男を永遠に救える』
それは救済か、それとも破滅への誘いか。 二人の愛は、もはや人間が触れてはならない領域へと足を踏み入れようとしていました。
「……あ、が……っ、エリス……逃げろ、今のうちに……」
意識が混濁する中で、アルカード様が苦しげに喘ぎます。 彼の強大すぎる魔力が、制御を失って暴走し始めていたのです。部屋の家具がひとりでに震え、空間が歪み始めます。
「嫌です! どこにも行きません!」
エリスは黄金の枷に繋がれた足を引きずり、アルカード様の胸にしがみつきました。 彼を救いたい。自分の命を半分くれたこの人を、今度は自分が救いたい。 その強い願いに呼応するように、エリスの胸元にある「真紅の百合」が、まばゆいばかりの純白の光を放ち始めました。
「これは……?」
エリスの体から溢れ出したのは、ドロドロとした魔力ではなく、清冽な「神気」でした。 彼女の手がアルカード様の頬に触れると、彼を蝕んでいた黒い紋様が、雪が溶けるように消えていきます。
「……う、あ……熱が、引いていく……?」
アルカード様の赤い瞳が、次第に元の美しい銀色へと戻っていきました。 エリスの神気は、暴走する死神の力を鎮める唯一の「浄化の鍵」だったのです。
しかし、その奇跡と引き換えに、エリスの体からは急激に力が抜けていきました。 神気を使い果たした彼女は、そのまま糸の切れた人形のように、アルカード様の腕の中へ倒れ込みます。
「エリス! ――おい、目を開けろ!」
飛び込んできたカシアンが、エリスの様子を見て舌打ちしました。
「……やっぱりか。彼女は『神聖の依代』として完全に覚醒した。アルカード、皮肉なもんだな。君が彼女に寿命を分けたことで、彼女の中の眠っていた神気が、君の魔力を栄養にして芽吹いちまったんだ」
「エリスはどうなる」
「……彼女が君を癒やせば癒やすほど、彼女の意識は『個』を失い、ただの浄化装置……神の道具へと近づいていく。君が彼女を独占しようとすればするほど、彼女の人間としての心は壊れていくかもしれないんだぞ」
アルカード様は、青ざめた顔で眠るエリスを抱き締めました。 彼女の力は、彼を救う。しかし、その力を使わせることは、彼女を廃人にしかねない。
「……それでも、私は彼女を離さない。彼女が心を失うというのなら、私がその心の代わりになればいいだけのことだ」
アルカード様の瞳に、暗い決意が宿りました。 彼はエリスを癒やすためではなく、彼女が二度とその「神の力」を使わなくて済むように、自分自身の魔力をさらに凶悪なものへと鍛え上げることを決意します。
一方、深い眠りの中で、エリスは不思議な声を聞いていました。 『……捧げなさい。あなたのすべてを。そうすれば、愛する男を永遠に救える』
それは救済か、それとも破滅への誘いか。 二人の愛は、もはや人間が触れてはならない領域へと足を踏み入れようとしていました。
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