辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ

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5話

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 ミサキと騎士団長ガイウスの半強制的な同居生活が始まって、数日が経過した。

 夜は、ミサキの簡素なベッドの隣で、ガイウスが用意した硬い寝床が並ぶという、極度の緊張感が続く状態だった。ガイウスは、寝ている間も微動だにせず、ミサキが身動きするたびに彼の冷たい視線を感じるような錯覚に陥った。

 しかし、ミサキは昼間のガイウスの意外な行動に戸惑い始めていた。

「ミサキ、その調味料の匂いは何だ。この森のハーブと、どう調和するのか」

 ガイウスは、ミサキが料理をする際、必ず厨房の隅に座り、静かに観察を始めた。彼は騎士団長としての激務を終えた後も、ミサキの傍を離れようとしない。

 ミサキが、自作のマヨネーズを使って森の野菜を和えていると、ガイウスが興味深そうに身を乗り出した。

「その白い油……粘性が高い。酸味があるようだが、この野菜の苦味をどう変える?」

「別に、団長に教える必要はありません」

 ミサキはそっけなく返した。

「教えろ」

 ガイウスは命令した。

「君の全ては、私の食の安寧に繋がる。知識の独占は許さない」

 ミサキは渋々、マヨネーズが油と卵と酸味でできていること、そして野菜の苦味を抑え、コクと旨味を加えることを説明した。

 ガイウスは、ミサキの説明を戦術の講義を聞くように真剣に聞いていた。そして、完成したマヨネーズ和えを一口食べると、またあの崩壊した表情を見せた。

「……信じられん。ただの野菜が、これほどまでに甘く、まろやかになるのか。君の技術は、魔法だ」

 その顔は、冷酷な騎士団長という仮面が剥がれ落ちた、純粋な感動と賛辞に満ちていた。外の世界では「鉄血」と恐れられる彼が、ミサキの料理の前では感情の起伏が激しい、孤独な美食家へと変わる。

 この強烈なギャップが、ミサキの心に小さな波紋を広げ始めた。彼は冷酷で強引だが、自分の料理を誰よりも理解し、必要としている。

 夕食後、ガイウスはミサキに、一本の飾り気のない花を差し出した。

「これは、辺境にしか咲かない『安寧』という花だ。君の料理は、私にこれをもたらした。これは、その対価だ」

 ガイウスは、報酬や対価といった言葉で表現したが、その行為はまるで不器用な贈り物だった。

「あの……ありがとうございます」

 ミサキは戸惑いつつも受け取った。

「感謝はいらない。君は私の専属だ。ただ、君の才能を、私以外の誰にも見せるな。君の料理の香りが、私以外の男を引き寄せるのを想像すると……胸糞が悪い」

 ガイウスは、ふと顔を歪ませた。それは、嫉妬のような、恐怖のような、複雑な感情だった。

 ミサキは確信した。この男の「囲い込み」は、単なる権力による支配ではない。彼の生命線である「味覚」を、必死に独占しようとする、彼の孤独な愛情表現なのだと。

 ミサキの望むスローライフは失われたが、代わりに最強の騎士団長からの絶対的な庇護と、彼だけの美食という、予想外の人生が始まっていた。
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