離婚予定の冷徹公爵閣下が、なぜか私の「心の声」を聴きすぎて離してくれません

腐ったバナナ

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16話

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(……体が、軽い。……っていうか、感覚がなくなっていく……)

 窓のない奥座敷に軟禁されて三日。 ギルバート様は政務すら放り出し、私を片時も離さず抱きしめていました。けれど、カイトの術式が強まるにつれ、私の体は少しずつ、向こう側が透けて見えるほどに希薄になっていました。

「……アリア。また、お前の腕が消えかかっている。……嫌だ、離さないと言っているだろう!」

 ギルバート様が、狂ったように私の体を掻き抱きます。 ですが、その指先は虚しく私の体をすり抜け、シーツを掴むだけでした。

(ギルバート様……。泣かないで。私はここにいるわ。……見て、脳内プロジェクターはまだ、こんなにあなたを映しているのに!)

 私の脳内から溢れ出す映像は、もはや制御不能でした。 日本のコンビニ、満員電車、そしてギルバート様と過ごした日々の断片が、走馬灯のように部屋中を埋め尽くします。

「……消えるな。あの『元の世界』とやらに、お前を連れて行かせはしない!」

 ギルバート様は私の首筋に顔を埋め、絶望に満ちた声を漏らしました。 その時、部屋の扉が魔法の衝撃で粉砕されました。

「そこまでだ、公爵様! 彼女を無理に繋ぎ止めれば、魂が引き裂かれて死んでしまうよ!」

 現れたのはカイトでした。彼は月明かりを背に、複雑な魔導具を掲げています。

「アリア、さあ今だ! 向こう側へ意識を向けて! 君の本当の家族や、友達が待っている世界へ!」

(家族……。友達……。……あ)

 私の脳裏に、前世の母の笑顔や、親友と笑い合った放課後の記憶が鮮明に蘇ります。 魂が、強烈に「向こう側」へと引っ張られるのを感じました。

「…………っ」

 ギルバート様が、私の体を抱きしめていた腕の力を、ふっと抜きました。

(……え? 旦那様?)

 彼は、透き通るような私の頬に、最後の一滴のような優しい手つきで触れました。 彼の瞳からは、先ほどまでの狂気じみた執着が消え、深い、深い慈しみだけが残っていました。

「……アリア。……お前の脳内が、今、一番美しく輝いた」

 ギルバート様の「心の声」を聴く力が、この極限状態でかつてないほど鋭敏になったのでしょう。 彼は、私の脳内に浮かんだ「前世の幸せ」を見てしまったのです。

「……お前を檻に閉じ込めて、俺だけを見ていろと言った。だが……お前が一番幸せそうに笑う場所がここではないのなら、俺の愛は……ただの呪いだ」

(違うわ、ギルバート様! それは過去の幸せで、今の私の幸せは……!)

「行け、アリア。……俺を、忘れていい。……お前が、お前らしくいられる場所へ」

 ギルバート様はそう言うと、私の背中を優しく、カイトの方へと押し出しました。 その瞬間、私の体は眩い光に包まれました。

「旦那様ーーーー!!」

 私は叫びました。 声にならない声で。脳内プロジェクターのすべての出力を、彼一人の姿に集中させて。 

「冷蔵庫野郎! 冷徹公爵! 大好きよ! あんたを置いてニート生活なんて、死んでもごめんだわ!!」

 その爆音のような「本音」が、ギルバート様の耳に、そして魂に直接叩きつけられました。

「……アリア?」

 光が弾け、世界が真っ白に染まります。 私が最後に見たのは、絶望に沈んでいたギルバート様が、目を見開き、私に向かって必死に手を伸ばす姿でした。
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