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17話
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(……あ、喉が……痛い……)
次に目を開けたとき、視界に飛び込んできたのは、シャンデリアでも石造りの天井でもありませんでした。 無機質な蛍光灯、微かに漂う消毒液の匂い、そして規則正しく鳴り響く心電図の音。
「……気がついた!? 有亜、有亜なのね!」
泣き崩れる母の姿が見えました。 私は、横断歩道でトラックに撥ねられ、数日間意識不明の重体だったのだそうです。
(……夢、だったの?)
ギルバート様との日々。騒がしい脳内。パンケーキの味。 すべては、死の間際に見せた脳の幻覚だったのでしょうか。 私は、元の「有亜」として、満員電車に揺られ、上司に気を使い、スマホの画面を見つめる日常に戻りました。
(……寂しくなんてないわ。これが現実なんだもの。……でも。……なんで、冷蔵庫を見るたびに涙が出てくるのかしら)
退院して一ヶ月。私はリハビリを兼ねて、新宿の雑踏を歩いていました。 脳内のプロジェクターはもう起動しません。私の心は、あんなに騒がしかったのが嘘のように、静まり返っていました。
「……冷徹公爵、様」
声に出すと、胸が締め付けられるように痛みます。 あの時、最後に聞こえた彼の「アリア!」という叫び。 彼を一人にしてしまった。あの孤独な「彫像」を、また元の氷の世界に戻してしまった。
(ごめんね。……大好きだったよ、ギルバート様)
信号を待つ間、私は溢れそうになる涙を堪えて俯きました。 その時。
不意に、背筋が凍りつくような、けれど懐かしくて堪らない「冷気」を感じました。
「――おい。……お前の脳内、少しは静かになったかと思ったが」
「……え?」
聞き覚えのある、低くて心地よい、少し意地悪な声。 私は弾かれたように顔を上げました。
新宿駅のアルタ前。行き交う人々が思わず足を止めて振り返るほどの、異様なオーラを放つ一人の男が立っていました。 仕立ての良い現代のスーツを着こなし、眼鏡をかけたその姿は、あの日デートで見た「軍服ビジョン」よりもずっと、凛々しく、そして――。
「……相変わらず、顔を見るなり『顔面国宝』だの『エロ……美しい』だの、騒がしい女だ」
その男――ギルバート様は、驚愕で固まる私の前まで歩み寄ると、逃がさないように私の腕を強く掴みました。
(……夢じゃない。……この、腕の強さも、氷の中に情熱を隠したような瞳も!)
「旦那様……!? なんで、どうしてここに!?」
「お前が『死んでもごめんだ』と叫ぶからだ。……魂を引き止めるのに、全魔力を使い果たした。……おかげで、公爵の地位も財産も、向こう側に置いてくる羽目になったがな」
ギルバート様は、困ったように眉を下げ、けれど最高に幸せそうに微笑みました。
「アリア。……お前が望んでいた『ニート生活』はさせてやれない。……この世界で、一から俺を養う覚悟はできているか?」
(……はい!! 喜んで! 養うわよ、私の給料全部注ぎ込んで、あんたを世界一幸せなヒモ……じゃなくて、旦那様にしてあげるわよ!!)
私の脳内プロジェクターが、新宿のど真ん中で大爆発(エモーショナルな花火)を起こしたのを、彼は確かにその耳で聴いていたのでした。
次に目を開けたとき、視界に飛び込んできたのは、シャンデリアでも石造りの天井でもありませんでした。 無機質な蛍光灯、微かに漂う消毒液の匂い、そして規則正しく鳴り響く心電図の音。
「……気がついた!? 有亜、有亜なのね!」
泣き崩れる母の姿が見えました。 私は、横断歩道でトラックに撥ねられ、数日間意識不明の重体だったのだそうです。
(……夢、だったの?)
ギルバート様との日々。騒がしい脳内。パンケーキの味。 すべては、死の間際に見せた脳の幻覚だったのでしょうか。 私は、元の「有亜」として、満員電車に揺られ、上司に気を使い、スマホの画面を見つめる日常に戻りました。
(……寂しくなんてないわ。これが現実なんだもの。……でも。……なんで、冷蔵庫を見るたびに涙が出てくるのかしら)
退院して一ヶ月。私はリハビリを兼ねて、新宿の雑踏を歩いていました。 脳内のプロジェクターはもう起動しません。私の心は、あんなに騒がしかったのが嘘のように、静まり返っていました。
「……冷徹公爵、様」
声に出すと、胸が締め付けられるように痛みます。 あの時、最後に聞こえた彼の「アリア!」という叫び。 彼を一人にしてしまった。あの孤独な「彫像」を、また元の氷の世界に戻してしまった。
(ごめんね。……大好きだったよ、ギルバート様)
信号を待つ間、私は溢れそうになる涙を堪えて俯きました。 その時。
不意に、背筋が凍りつくような、けれど懐かしくて堪らない「冷気」を感じました。
「――おい。……お前の脳内、少しは静かになったかと思ったが」
「……え?」
聞き覚えのある、低くて心地よい、少し意地悪な声。 私は弾かれたように顔を上げました。
新宿駅のアルタ前。行き交う人々が思わず足を止めて振り返るほどの、異様なオーラを放つ一人の男が立っていました。 仕立ての良い現代のスーツを着こなし、眼鏡をかけたその姿は、あの日デートで見た「軍服ビジョン」よりもずっと、凛々しく、そして――。
「……相変わらず、顔を見るなり『顔面国宝』だの『エロ……美しい』だの、騒がしい女だ」
その男――ギルバート様は、驚愕で固まる私の前まで歩み寄ると、逃がさないように私の腕を強く掴みました。
(……夢じゃない。……この、腕の強さも、氷の中に情熱を隠したような瞳も!)
「旦那様……!? なんで、どうしてここに!?」
「お前が『死んでもごめんだ』と叫ぶからだ。……魂を引き止めるのに、全魔力を使い果たした。……おかげで、公爵の地位も財産も、向こう側に置いてくる羽目になったがな」
ギルバート様は、困ったように眉を下げ、けれど最高に幸せそうに微笑みました。
「アリア。……お前が望んでいた『ニート生活』はさせてやれない。……この世界で、一から俺を養う覚悟はできているか?」
(……はい!! 喜んで! 養うわよ、私の給料全部注ぎ込んで、あんたを世界一幸せなヒモ……じゃなくて、旦那様にしてあげるわよ!!)
私の脳内プロジェクターが、新宿のど真ん中で大爆発(エモーショナルな花火)を起こしたのを、彼は確かにその耳で聴いていたのでした。
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