婚約破棄されたら、実はわたし聖女でした~捨てられ令嬢は神殿に迎えられ、元婚約者は断罪される~

腐ったバナナ

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8話

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 神殿の広間に、重苦しい足音が響いた。
 扉の向こうには、アラン公爵が不安げな表情で立っている。
 その肩には、リディアもついてきた。彼女の目は怒りと嫉妬に光っていた。

「エリス……少し話をさせてくれ」

 アランの声はかすかに震えている。普段の高慢な態度は微塵もなく、必死さだけが伝わる。

 エリスは落ち着いた声で答える。

「何を話すつもりですか?もうあなたに耳を傾ける理由はありません」

 アランは俯き、必死に言葉を探す。

「私は……その……間違った判断をした。貴女を侮辱したこと、後悔している」

 リディアが横から口を挟む。

「エリス、ちょっとは分かってよ!あなたが聖女だなんて、誰が予想したのよ!」

 その声には、嫉妬と焦りが混ざっていた。

 広間の扉が開き、王太子レオンハルトが静かに入ってきた。
 その存在感に、アランとリディアは思わず一歩後退する。

「アラン公爵、リディア嬢……ここで何をしている?」

 王太子の声は冷静だが、確実に重みがある。

 アランは必死に弁解しようとした。

「殿下、誤解です!私は……私はただ――」

「やめなさい」

 レオンハルトは静かに遮った。

「貴方が間違ったのは、誰もが知っています。だからといって、今さら言い訳を並べても何の意味もありません」

 アランの顔が青ざめる。

「でも……私は……」

「あなたが失ったものは、もう取り戻せません。彼女の価値は、貴方の評価に左右されるものではありません」

 王太子の言葉は鋭く、そして揺るがぬ正義感に満ちていた。

 リディアも必死に食い下がる。

「でも、私たちは……まだ……!」

「まだ……?」

 レオンハルトは静かにため息をついた。

「貴方たちに残されたのは、国民や社交界からの信頼を失った現実だけです。理解してください」

 広間は静まり返り、アランとリディアの動揺が空気を支配する。
 エリスは冷静に見守る。胸の奥には、以前の孤独を思い出す痛みもあるが、今はもう強さがあった。

「……わかりました」

 アランは俯き、悔しそうに息をつく。

「では、退出を」

 レオンハルトの言葉に、アランとリディアは無言で頷き、広間を去った。

 扉が閉まると、静かな空気が戻ってきた。
 エリスは深呼吸をし、初めて感じる安堵に微笑む。

「これで……もう、過去に怯える必要はない」

 月明かりが差し込む神殿の窓辺で、エリスは手を組み、そっと祈った。
 ――これからは、自分の力を信じて、人々を守ろう。

 神殿の空気は穏やかで、かすかな花の香りが漂っている。
 初めて心の底から安心できる場所ができたことを、エリスは静かに噛み締めた。
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