婚約破棄されたら、実はわたし聖女でした~捨てられ令嬢は神殿に迎えられ、元婚約者は断罪される~

腐ったバナナ

文字の大きさ
13 / 25

13話

しおりを挟む
 王都の空は、いつもより暗く重かった。北部の村々から瘴気が押し寄せ、民の悲鳴が届くという報告が連日王城に届いていた。

 王都の広間には国王、王太子レオンハルト、側近たちが集まり、深刻な面持ちで資料を読み比べていた。

「これはただの異常気象ではありません。魔物の群れが村を襲っています」

 側近の一人が声を震わせながら報告する。

 国王は深く息をつき、ゆっくりと口を開いた。

「聖女の力を借りるしかない……エリスを呼ぶのだ」

「父上、今から呼びましょう」

 王太子レオンハルトは即座に返事をし、執務官に指示を飛ばす。

 ◇

 神殿では、エリスが朝の祈りを終えたところだった。庭の大理石に反射する光が、彼女の肩をそっと照らす。

「今日も、民を守らなければ……」

 声に出してはっきりと自分に言い聞かせる。恐怖よりも、使命感が胸を満たしていた。

 そのとき、大神官セラフィムが静かに近づいた。

「エリス、北部の村々に瘴気が迫っている。準備はできているか?」

 エリスは一度深く息を吸う。

「はい。私にできることなら、必ず守ります」

 セラフィムは頷き、低い声で告げた。

「慎重に、しかし迷わず行動せよ。民を守ること、それこそが聖女の務めだ」

 その言葉に、エリスの心はさらに引き締まった。

 ◇

 午後、エリスは王太子と共に北部へ向かった。街道沿いの村々は、瘴気で灰色に霞み、家々は倒壊の危険にさらされていた。民たちは怯え、手に持てるものを抱えて道の端に避難していた。

「エリス様……どうか助けてください!」

 小さな少年が泣きながら手を握る。

 エリスは膝をつき、優しく微笑む。

「大丈夫、私はあなたたちを守ります」

 心の中で祈りを集中させると、手のひらから柔らかな光が広がり、瘴気を吸い上げるように消し去った。小さな魔物も光に触れ、跪くように消えた。村人たちは目を見開き、声を震わせながら感嘆の声をあげる。

「聖女様……!」

 エリスは少し照れながらも静かにうなずく。

「皆さんの命を守れることが、私の力です」

 村の長老が涙を拭きながら近づき、礼を述べる。

「この村を救ってくださり、本当にありがとうございます……」

「私一人ではなく、皆さんの勇気と信じる心があったからです」

 エリスは穏やかな微笑みを返し、村人たちの心に安心を届けた。

 ◇

 夕刻、王都に戻る道すがら、王太子レオンハルトがふと口を開いた。

「君の力は、ただ驚くべきだけではない。民を守ろうとするその心が、何より大切だ」

 エリスは頷き、少し恥ずかしそうに目を伏せる。

「ありがとうございます……でも、まだ安心はできません。北部だけでなく、他の地域も危険にさらされています」

 王太子は軽く肩を叩いた。

「君なら大丈夫だ。民も私も信頼している」

 ◇

 その頃、遠くアラン公爵家の屋敷では、アランが窓から月光に照らされた王都の方向を見つめていた。

「……あの女が……また人々に称賛されて……」
 
 拳を握りしめ、悔恨と孤独に苛まれる顔が青白く浮かび上がる。孤立した公爵家内で、かつての優位はすでに遠い記憶となっていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

聖女業に飽きて喫茶店開いたんだけど、追放を言い渡されたので辺境に移り住みます!【完結】

青緑 ネトロア
ファンタジー
 聖女が喫茶店を開くけど、追放されて辺境に移り住んだ物語と、聖女のいない王都。 ——————————————— 物語内のノーラとデイジーは同一人物です。 王都の小話は追記予定。 修正を入れることがあるかもしれませんが、作品・物語自体は完結です。

失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~

紅月シン
ファンタジー
 聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。  いや嘘だ。  本当は不満でいっぱいだった。  食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。  だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。  しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。  そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。  二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。  だが彼女は知らなかった。  三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。  知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。 ※完結しました。 ※小説家になろう様にも投稿しています

追放された聖女は、辺境で狼(もふもふ)とカフェを開く

橘 あやめ
ファンタジー
――もう黙らない。追放された聖女は、もふもふの白狼と温かい居場所を見つける―― 十二年間、大聖堂で祈り続けた。 病人を癒し、呪いを祓い、飢饉のときは畑に恵みの光を降ろす。 その全てを、妹の嘘泣きひとつで奪われた。 献金横領の濡れ衣を着せられ、聖女の座を追われたアーシャ。 荷物は革鞄ひとつ。行く宛てもない。 たどり着いた辺境の町で、アーシャは小さなハーブティーのカフェを開くことに。 看板は小枝の炭で手作り。 焼き菓子は四度目でようやく成功。 常連もできて、少しずつ「自分の居場所」が生まれていく――。 そんなカフェに夜ごと現れるのは、月光のように美しい銀色の狼。 もふもふで、不愛想で、でも何かとアーシャのことを助けてくれる。 やがて、穏やかな日々を壊しに――妹が現れる。 ※追放聖女のカフェ開業もの(もふもふつき)です!ハッピーエンド!

偽りの呪いで追放された聖女です。辺境で薬屋を開いたら、国一番の不運な王子様に拾われ「幸運の女神」と溺愛されています

黒崎隼人
ファンタジー
「君に触れると、不幸が起きるんだ」――偽りの呪いをかけられ、聖女の座を追われた少女、ルナ。 彼女は正体を隠し、辺境のミモザ村で薬師として静かな暮らしを始める。 ようやく手に入れた穏やかな日々。 しかし、そんな彼女の前に現れたのは、「王国一の不運王子」リオネスだった。 彼が歩けば嵐が起き、彼が触れば物が壊れる。 そんな王子が、なぜか彼女の薬草店の前で派手に転倒し、大怪我を負ってしまう。 「私の呪いのせいです!」と青ざめるルナに、王子は笑った。 「いつものことだから、君のせいじゃないよ」 これは、自分を不幸だと思い込む元聖女と、天性の不運をものともしない王子の、勘違いから始まる癒やしと幸運の物語。 二人が出会う時、本当の奇跡が目を覚ます。 心温まるスローライフ・ラブファンタジー、ここに開幕。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

金貨増殖バグが止まらないので、そのまま快適なスローライフを送ります

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
ファンタジー
 無能の落ちこぼれと認定された『ギルド職員』兼『ぷちドラゴン』使いの『ぷちテイマー』のヘンリーは、職員をクビとなり、国さえも追放されてしまう。  突然、空から女の子が降ってくると、キャッチしきれず女の子を地面へ激突させてしまう。それが聖女との出会いだった。  銀髪の自称聖女から『ギフト』を貰い、ヘンリーは、両手に持てない程の金貨を大量に手に入れた。これで一生遊んで暮らせると思いきや、金貨はどんどん増えていく。増殖が止まらない金貨。どんどん増えていってしまった。  聖女によれば“金貨増殖バグ”だという。幸い、元ギルド職員の権限でアイテムボックス量は無駄に多く持っていたので、そこへ保管しまくった。  大金持ちになったヘンリーは、とりあえず念願だった屋敷を買い……スローライフを始めていく!?

私生児聖女は二束三文で売られた敵国で幸せになります!

近藤アリス
恋愛
私生児聖女のコルネリアは、敵国に二束三文で売られて嫁ぐことに。 「悪名高い国王のヴァルター様は私好みだし、みんな優しいし、ご飯美味しいし。あれ?この国最高ですわ!」 声を失った儚げ見た目のコルネリアが、勘違いされたり、幸せになったりする話。 ※ざまぁはほんのり。安心のハッピーエンド設定です! ※「カクヨム」にも掲載しています。

宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです

ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」 宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。 聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。 しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。 冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。

処理中です...