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12話
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辺境の小国の朝は、いつも静かで、風が木々の葉を揺らす音だけが耳に届く。リディアは庭のハーブを摘みながら、昨日仕込んだ薬草茶の香りを楽しんでいた。
ゆったりとした時間の中、村人たちの声が遠くから聞こえる。そんな穏やかな日常を邪魔するかのように、遠くから馬のひずめの音が近づいてきた。
「リディア様!」
声の主は、宮廷の使者と名乗る青年だった。リディアは一瞬、眉をひそめる。宮廷からの使者——つまり、あの冷たい元婚約者や取り巻き令嬢たちが、また彼女を必要としているということだ。
「……どうしました?」
リディアは落ち着いた口調で問いかける。心の奥では少しの期待と、ほんの少しの楽しみが混じっていた。宮廷の人間が慌てふためく姿を、遠くから眺めるのも悪くない。
「リディア様、王子より、どうしてもお力を貸してほしいとの伝言です。重大な儀式に不可欠な書類が……」
使者の声は震えていた。焦りが隠せない。
「ふむ……確かに、ここから宮廷まで送るのは容易ではないでしょうね」
リディアは微笑みを浮かべながら、深くうなずく。心の中では、あの頃の自分を軽く笑い飛ばす感覚があった。宮廷では「役立たず」と烙印を押され、彼女の存在を軽んじたはずだった。しかし今、状況は逆転している。
「どのくらい急ぐのですか?」
「……今日中に、とのことです」
使者の声はさらに焦る。額に汗が光る。リディアは静かに考える。自分の時間を乱さず、村人や自分の生活を守りながら、宮廷の要請に応じる方法はある。
「わかりました。私が同行しましょう。ただし、条件があります」
「条件……ですか?」
「ここで私の生活や村人たちに影響が出ない範囲で。私の指示に従うこと」
使者は少し戸惑いながらも、渋々うなずく。
馬車に乗り込む途中、リディアは窓から村を見下ろす。子供たちが走り回り、村人たちは日常の営みを続けている。心地よい風が頬を撫で、彼女は胸の奥で確かな満足感を味わった。宮廷の慌ただしさとは無縁のこの生活こそ、彼女の望んだ自由だった。
「リディア様、王子はお怒りでは……」
「怒りはともかく、慌てているのでしょうね。自分たちの準備不足が原因で」
使者の声に、リディアは軽く笑みを返す。宮廷側の焦りや羞恥心は、彼女にとって小さな喜びとなる。
馬車が宮廷に近づくにつれ、リディアは心を引き締める。しかし恐怖や不安はない。すでに自分は宮廷に縛られた存在ではなく、村で確かな生活を築いているのだ。
「書類はここですか?」
「はい、リディア様」
使者が書類を手渡す。リディアは手早く内容を確認し、必要な手順を整理する。宮廷の者たちが慌てている中、彼女は冷静そのものだ。
「これで儀式は滞りなく行えるはずです」
「本当に……ありがとうございます、リディア様!」
使者の喜びが伝わる。リディアは微笑みながら答える。
馬車を宮廷から引き返す途中、リディアは心の中で小さく呟いた。
「自由でいながら、必要とされる……これほど気持ちの良いことはない」
宮廷の焦りや羞恥心は、かつて自分が受けた屈辱の余韻をかすかに思い出させるが、それも今は過去のものだ。
日が傾き始め、辺境の小国の森の緑が金色に染まる。リディアは窓の外を眺め、これからも自分のペースで生活を築きながら、必要に応じて宮廷と関わることができる――その思いに胸が満たされる。
馬車が小国の城跡に到着すると、リディアは再び自分の生活に戻る。村人たちは心配そうに迎えに出てくるが、彼女の表情は穏やかだ。宮廷からの依頼は、日常を壊すものではなく、むしろ自分の自由と価値を再確認させる刺激だった。
「さあ、今日の作業に戻りましょう」
村人たちの声に応え、リディアはゆっくりと微笑む。宮廷との再接触は、もう恐れるものではない。彼女は自分の意思で、自由に選び、穏やかな日常を守るのだ。
夜、ランタンの灯りの下で一息つくリディア。外では虫の音が優しく響き、森の香りが漂う。今日も、そしてこれからも、自分のペースで生きる――その確信に、彼女は満たされていた。
ゆったりとした時間の中、村人たちの声が遠くから聞こえる。そんな穏やかな日常を邪魔するかのように、遠くから馬のひずめの音が近づいてきた。
「リディア様!」
声の主は、宮廷の使者と名乗る青年だった。リディアは一瞬、眉をひそめる。宮廷からの使者——つまり、あの冷たい元婚約者や取り巻き令嬢たちが、また彼女を必要としているということだ。
「……どうしました?」
リディアは落ち着いた口調で問いかける。心の奥では少しの期待と、ほんの少しの楽しみが混じっていた。宮廷の人間が慌てふためく姿を、遠くから眺めるのも悪くない。
「リディア様、王子より、どうしてもお力を貸してほしいとの伝言です。重大な儀式に不可欠な書類が……」
使者の声は震えていた。焦りが隠せない。
「ふむ……確かに、ここから宮廷まで送るのは容易ではないでしょうね」
リディアは微笑みを浮かべながら、深くうなずく。心の中では、あの頃の自分を軽く笑い飛ばす感覚があった。宮廷では「役立たず」と烙印を押され、彼女の存在を軽んじたはずだった。しかし今、状況は逆転している。
「どのくらい急ぐのですか?」
「……今日中に、とのことです」
使者の声はさらに焦る。額に汗が光る。リディアは静かに考える。自分の時間を乱さず、村人や自分の生活を守りながら、宮廷の要請に応じる方法はある。
「わかりました。私が同行しましょう。ただし、条件があります」
「条件……ですか?」
「ここで私の生活や村人たちに影響が出ない範囲で。私の指示に従うこと」
使者は少し戸惑いながらも、渋々うなずく。
馬車に乗り込む途中、リディアは窓から村を見下ろす。子供たちが走り回り、村人たちは日常の営みを続けている。心地よい風が頬を撫で、彼女は胸の奥で確かな満足感を味わった。宮廷の慌ただしさとは無縁のこの生活こそ、彼女の望んだ自由だった。
「リディア様、王子はお怒りでは……」
「怒りはともかく、慌てているのでしょうね。自分たちの準備不足が原因で」
使者の声に、リディアは軽く笑みを返す。宮廷側の焦りや羞恥心は、彼女にとって小さな喜びとなる。
馬車が宮廷に近づくにつれ、リディアは心を引き締める。しかし恐怖や不安はない。すでに自分は宮廷に縛られた存在ではなく、村で確かな生活を築いているのだ。
「書類はここですか?」
「はい、リディア様」
使者が書類を手渡す。リディアは手早く内容を確認し、必要な手順を整理する。宮廷の者たちが慌てている中、彼女は冷静そのものだ。
「これで儀式は滞りなく行えるはずです」
「本当に……ありがとうございます、リディア様!」
使者の喜びが伝わる。リディアは微笑みながら答える。
馬車を宮廷から引き返す途中、リディアは心の中で小さく呟いた。
「自由でいながら、必要とされる……これほど気持ちの良いことはない」
宮廷の焦りや羞恥心は、かつて自分が受けた屈辱の余韻をかすかに思い出させるが、それも今は過去のものだ。
日が傾き始め、辺境の小国の森の緑が金色に染まる。リディアは窓の外を眺め、これからも自分のペースで生活を築きながら、必要に応じて宮廷と関わることができる――その思いに胸が満たされる。
馬車が小国の城跡に到着すると、リディアは再び自分の生活に戻る。村人たちは心配そうに迎えに出てくるが、彼女の表情は穏やかだ。宮廷からの依頼は、日常を壊すものではなく、むしろ自分の自由と価値を再確認させる刺激だった。
「さあ、今日の作業に戻りましょう」
村人たちの声に応え、リディアはゆっくりと微笑む。宮廷との再接触は、もう恐れるものではない。彼女は自分の意思で、自由に選び、穏やかな日常を守るのだ。
夜、ランタンの灯りの下で一息つくリディア。外では虫の音が優しく響き、森の香りが漂う。今日も、そしてこれからも、自分のペースで生きる――その確信に、彼女は満たされていた。
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