婚約破棄された私を拾ったのは、辺境のグルメ公爵でした

腐ったバナナ

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7話

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 辺境の公爵領で、エマとライナス公爵が「才能と庇護のための結婚」を静かに済ませた数日後、その報せは王都に巨大な衝撃波となって届いた。

 侯爵家から追放された「料理の毒を撒く愚かな令嬢」が、「冷徹な美食公爵」として知られるライナス・グレイヴの公爵夫人になったというのだ。

 特に激しく動揺したのは、エマを捨てた王太子ルドルフとその新しい婚約者となったリリアだった。

 王太子の執務室。ルドルフは、報告書を握りしめ、顔を蒼白にしていた。

「嘘だ!あの無能なエマが、なぜライナス公爵と!?公爵は、王族からの縁談さえ全て蹴ってきたではないか!」

 リリアは、隣で震えていた。彼女は、王太子に愛される「家庭的な聖女」として周囲から賞賛されていたが、内心では、ライナス公爵の圧倒的な権力と、エマが公爵夫人という地位を手に入れたことに激しい嫉妬**を覚えていた。

「殿下、きっと、その結婚は単なる政略ですわ。あのエマの料理の腕では、公爵様の胃袋を満たせるはずがありません。すぐに捨てられるはず……」

 リリアは必死に自分に言い聞かせた。

 ルドルフは報告書の隅にある記述に目を留めた。

「婚礼の儀では、公爵夫人が自ら公爵のための一皿を供し、公爵はそれを一滴残らず完食したとのこと。公爵が他者の料理を完食されたのは、前例がございません」

 王太子の顔に、激しい後悔の念が浮かんだ。彼が「毒」と罵ったエマの料理が、冷徹な美食家である公爵を満足させたという事実。もしや、エマの言う「不味さ」は、本当に彼女の天才的な味覚の裏返しだったのではないか?

 一方、ライナス公爵領では、エマが公爵夫人として初めて、領地の食料資源管理の会議に出席していた。

「公爵夫人様。おかげさまで、夫人のご指導通りに土壌を改良した結果、今年の穀物は例年にないほどの豊作です。味が純粋で、長持ちすると評判です!」

 農夫たちの報告は、朗報ばかりだった。エマの味覚と食材の知識は、領地の農業生産性を飛躍的に向上させていた。

「ありがとうございます。公爵様、この余剰分で、長期保存が可能な乾燥食品の製造を始めましょう。領民の非常食として、また、公爵様の視察時の食料としても役立ちます」

 ライナスは、エマの提案を即座に承認した。彼の瞳は、エマの才能がもたらす利益と、彼女の献身的な姿勢に、強い満足を宿していた。

「君の判断に間違いはない、エマ。その代わり、君の知恵と技術は、全て私の管理下にある」

 ライナスは、傍らに座るエマの手を握り、誰にも聞こえない声で囁いた。

「もし、君の才能を求める者がこの領地に一歩でも踏み入れたら、私は公爵の権力をもって、その者を二度と立ち上がれないよう叩き潰す」

 それは、甘い愛情表現ではない。だが、エマにとって、その言葉こそが揺るぎない庇護の誓いだった。彼女は、王太子に捨てられた屈辱を、この公爵の絶対的な庇護の下で、乗り越えつつあった。

 しかし、王都でエマの力の噂が広まり始めるにつれ、公爵領への「不穏な影」が伸びてくるのは、時間の問題だった。
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