婚約破棄された私を拾ったのは、辺境のグルメ公爵でした

腐ったバナナ

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9話

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 ライナス公爵からの冷酷な拒絶と通告は、王都を震撼させた。特に王太子ルドルフは、エマが今や王室さえも手出しできない公爵の絶対的な庇護下にあるという事実に、激しい後悔と屈辱を感じていた。

「ライナス公爵め…!たかが料理人の技術一つで、私に宣戦布告同然の態度を取りおって!」

 ルドルフは執務室で怒りに震えた。しかし、彼の怒りの裏には、自らの愚行に対する深い自責の念があった。

(もし、あの時私がエマを信じていれば、あの技術は今、私のものだったのではないか?私があの毒だと罵った料理こそが、公爵が命を賭して守るほどの『奇跡の美食』だったというのか……)

 彼の脳裏には、エマが追放前に作った、素朴で自然な甘さのタルトが蘇った。あの時、彼は「味が薄い」と一蹴したが、今思えば、それは素材の純粋な味を求めたエマの天才的な表現だったのかもしれない。

 ルドルフの隣にいる婚約者、リリアの嫉妬は、すでに憎悪に変わりつつあった。

「殿下、あんな辺境の料理人の技術など、気にする必要はありません!私が、私こそが王国の食を支える聖女として、殿下とこの国をお守りいたします!」

 リリアはそう強がるが、彼女の治癒魔法は即効性はあるものの、エマの持続性のあるグルメチートによる食糧生産性の向上には到底及ばなかった。

 さらに、リリアが作る「家庭的な」とされる料理も、ルドルフの食卓に並ぶたびに、彼の心には満たされない虚無感が広がっていた。リリアの料理は万人受けする無難な味だったが、ライナス公爵が命を懸けて守る「究極の美食」の存在を知った今、ルドルフの舌は「平凡な味」では満足できなくなっていた。

「リリア。君の料理は……悪くはない。だが、私の求める『完璧な調和』ではない」

 ルドルフの冷たい言葉は、リリアの心を深く傷つけた。

「殿下……!私は、殿下のために全てを捧げているのに!」

 リリアは激しい嫉妬に駆られながらも、エマを直接陥れる手段がないことに焦燥していた。ライナス公爵の庇護は、あまりにも強固だった。

 一方、公爵領では、エマが公爵のために新しいスパイスを使ったソースを開発していた。

「公爵様、このスパイスはほんの微量で、全体の味を劇的に引き締めます。以前の王都の料理では、この繊細な変化を殺してしまうため、使えなかったはずです」

 ライナスはソースを一口味わい、静かにエマの頭を撫でた。

「君の舌は、やはり神の領域だ。王太子とその愚かな婚約者は、君という至宝の価値を全く理解できなかった」

(王都の者は、この至宝の価値を知る資格はない。彼らが求めても、二度と与えてはならない)

 ライナスの独占欲は、エマの才能への賛辞と、元婚約者への軽蔑という形で表現された。

「公爵様……」

 エマは、かつて王太子に「毒」だと罵倒された自分の才能が、今、この冷徹な美食家にとって「至宝」として扱われている事実に、満たされた幸福を感じていた。

 しかし、王都の貴族たちがエマの存在を諦めていないことは、彼女も薄々感じていた。エマのグルメチートは、公爵領をさらに豊かにし、やがて国を揺るがすほどの力を持つことになるだろう。その時、王都は黙っているだろうか。
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