婚約破棄された私を拾ったのは、辺境のグルメ公爵でした

腐ったバナナ

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18話

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 王都での騒動が落ち着き、ライナス公爵夫妻は、再び辺境の公爵領での平穏な日常に戻っていた。王家は、エマの助言に従って食料安全保障政策を導入し、徐々にではあるが飢饉から回復へと向かっていた。

 公爵領は、エマのグルメチートによって、以前にも増して豊かになり、「美食の理想郷」として国内外から注目を集めるようになっていた。

 エマは、公爵夫人として、そして王国の食料安全保障の最高顧問として多忙な日々を送っていたが、彼女の最優先事項は変わらなかった。それは、ライナス公爵のために最高の料理を作り続けることだ。

 ある穏やかな昼下がり。エマは、ライナスが狩りから持ち帰ったばかりの新鮮なジビエを使って、特別な料理を準備していた。

 ライナスは、いつものように厨房の傍らに置かれた椅子に座り、エマの調理の様子を静かに見つめていた。彼の表情は、かつての冷徹な美食家のそれではなく、愛する妻を見つめる夫の優しさに満ちていた。

「エマ。君が作っている料理の香りは、私の心臓を震わせる。王都で権力を握っていた時よりも、今の私の方が遥かに満たされている」

 ライナスは、心の底からそう感じていた。

「公爵様がそう言ってくださるなら、わたくしは最高の幸せです」

 エマは微笑んだ。

 エマは、新鮮な肉の最高の風味を引き出すため、ハーブとスパイスの調合を微調整した。その繊細な作業は、神の舌を持つエマにしかできない、芸術的な領域だった。

「公爵様」

 エマは、完成した料理をライナスの前に置いた。

「今日は、公爵様の独占欲を表現してみました」

「独占欲だと?」

 ライナスは、一口食べた瞬間、その意味を悟った。その料理は、強烈な肉の旨味が中心にあり、他の全ての風味が、その肉の風味を引き立てるために完全に隷属しているような構造だった。

「これは……確かに私だ」

 ライナスは感動した。

「君の全ての才能と、君自身が、この私に集中している。この支配的な味覚が、私の愛そのものだ」

 ライナスは、その料理を一滴残らず食べ尽くすと、エマを抱き上げた。

「エマ。君は、私の全てを満たす。君が私の傍にいる限り、私は揺るぎない王でいられる」

 二人の間に、「料理は愛であり、愛は独占である」という、独特で強固な絆が築かれていた。

 夜になり、二人は暖炉の前でくつろいでいた。ライナスは、エマの頭を膝に乗せ、静かに髪を撫でていた。

「ねぇ、公爵様。わたくしの味覚は、本当に王太子様を『毒』と罵倒するためにあったのでしょうか?」

 エマは、ふと過去を振り返った。

「そうではない」

 ライナスは即座に答えた。

「君の味覚は、真の純粋さを求めていた。王太子の世界が汚れていたから、君の料理が『毒』になっただけだ。君の才能は、私という『純粋な愛』を見つけるために存在していたのだ」

 ライナスは、エマの才能が、最終的に自分にたどり着く運命だったのだと信じていた。

 エマは、この冷徹で独占欲の強い夫の、甘く揺るぎない愛を感じながら、目を閉じた。彼女の人生は、追放と屈辱から、最高の美食と、唯一無二の愛へと、完全に反転したのだった。
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