婚約破棄された私を拾ったのは、辺境のグルメ公爵でした

腐ったバナナ

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19話

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 エマが公爵夫人となり数年が経過した。公爵夫妻の愛と、エマのグルメチートによって築かれた美食の理想郷は、王国の希望となっていた。

 しかし、公爵家の「跡継ぎ」という問題は、静かに二人の間に存在していた。ライナス公爵はエマの存在に心底満たされていたため、継承問題に無関心だったが、公爵家の側近たちはその点を憂慮していた。

 ある朝、エマはライナスに、一つの朗報を伝えた。

「公爵様。わたくし、公爵様のお子を身籠りました」

 ライナスは、一瞬、全てを支配する冷徹な公爵の顔を失い、純粋な驚きと喜びに満たされた表情になった。

「エマ……本当か?」

 ライナスは、エマを抱きしめ、喜びを噛み締めた。彼の心は、エマの才能と、彼女自身が、永遠に自分のものであるという、究極の満足感で満たされた。

(これで、エマを私の傍に繋ぎ止める、揺るぎない鎖が完成した。私の愛と、公爵家の未来は、エマによって完全に保証された)

 公爵の愛は、家族という新しい形の独占欲へと昇華した。

 エマの妊娠は、公爵領全体に大きな喜びをもたらした。ライナスは、エマの身体を最優先し、彼女の健康と食生活に過剰なほどの注意を払った。

「エマ、君が口にするものは、全て私が事前に確認する。もし、一つでも不純なものがあれば、その食材の生産者を追放する」

 エマは微笑んで、彼の過剰なまでの愛を受け入れた。

「大丈夫です、公爵様。わたくしの舌は、不協和音を許しません。そして、わたくしが作る料理は、公爵様とお子様にとって、最も純粋で美味しいものです」

 エマは妊娠中も、王国の食料安全保障最高顧問としての仕事を続けた。彼女が新たに打ち出したのは、「王国の食の貧困を根絶するための全国的な料理教育プログラム」だった。

「わたくしの神の舌は、誰もが持てるものではございません。ですが、食材の純粋な味を引き出すための基本的な知識と、食の安全を守るための技術は、全ての人に必要です」

 ライナスは、このプログラムがエマを王都に近づけ、彼女の時間を奪うことを嫌がったが、エマの「公爵領の富を、王国全体に還元する」という強い意志を尊重した。彼は、「エマが喜ぶことが、私の喜びである」という愛の結論に達していた。

「分かった。プログラムは承認する。だが、その全ての講師と責任者は、君が訓練した公爵領の者でなければならない。そして、君自身は、公爵領から一歩も出てはならない」

 ライナスは、王国への貢献と妻の独占という二つの要求を、完璧に両立させることに成功した。

 エマは、追放された無能な令嬢から、王国の食の未来を担う公爵夫人へと、その地位を揺るぎないものにした。彼女の人生は、美食と愛、そして新しい命によって、最高の終着点へと向かい始めていた。
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