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3話
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セシルはルーク副官から人形の真実を聞き、胸が熱くなった。
「ありがとう、ルーク。あなたからその話を聞けて、本当に良かった」
「いえ、団長が報われるなら私も本望です!団長は口下手なだけでなく、感情を出すこと自体を極端に嫌う方なのです。セシル様を守りたい、大切にしたいという気持ちは、人一倍強いのですが……」
セシルは頷いた。前世ではアークライトの無表情と冷たさが全てだったが、今世、セシルには「感情の色」が見える。彼の心の動きは、もうごまかせない。
(よし。今世は私が一歩踏み込む番ね。彼に、言葉で表現する楽しさを教えてあげよう)
翌日。セシルは早速、アークライトとの距離を縮めるために行動を開始した。
アークライトは城の執務室で、大量の書類に埋もれていた。その周囲からは、昨日の青い焦燥の色が、わずかに薄れて「責任の灰色」に変わっていた。
セシルは、彼の疲れを労おうと、自分で淹れた香り高い紅茶を盆に載せて執務室へ向かった。
「アークライト様、お仕事の合間にどうぞ。少しでもお疲れが癒やさればと思いまして」
セシルは笑顔でカップを差し出した。
アークライトは顔を上げず、書面に目を落としたまま、低い声で答えた。
「不要だ。私は仕事中に私的なものは口にしない」
その言葉通り、彼はカップに触れようともしなかった。セシルの視界には、彼の周囲の「灰色」が一瞬濃くなったのが見えた。
(ああ、また『義務』の壁を築いている……)
しかし、セシルは引き下がらない。前世で彼が仕事ばかりしていた真実を知っているからだ。彼は国を守る「結界騎士」としての重責に耐えるため、私情を排していたのだ。
セシルはカップを彼の机の端に置き、静かに言った。
「そうでしたか。それでは、お仕事の合間に冷めないうちに。……無理をなさらないでくださいね。あなたの体は、私との結婚生活のために大切にしていただかなくては困りますから」
「結婚生活」という言葉を強調した瞬間、アークライトの手が、ピタリと書類の上で止まった。
彼が発する感情の色が、青色と金色が混じり合い、激しく揺らめき始めた。
アークライトは顔を上げ、セシルを射抜くように見つめた。その瞳の奥には、セシルを捕らえて離さないような、強い執着の光が一瞬見えた。
「……退室しろ」
「はい。失礼いたしました」
セシルは内心の興奮を隠し、優雅に頭を下げて部屋を出た。ドアを閉めた直後、セシルは聞こえるか聞こえないか程度の「チッ」という舌打ちと、カップが机に置かれる音を聞いた。
(飲んだわね。そして、感情を隠しきれずに舌打ちまで。私の作戦、成功よ!)
その日の夕刻。ルーク副官がセシルの元を訪れた。
「セシル様、実は……大変申し上げにくいのですが、アークライト団長が激しく嫉妬しておられます」
セシルは目を丸くした。「嫉妬?誰に?」
「……私です」
ルークは困惑した顔で続けた。
「昼間、私がセシル様の体調を気遣い、「団長もセシル様のように穏やかに過ごせれば良いのに」と話したところ、団長から『公務以外で夫人に声をかけるな』と顔色一つ変えずに厳命されました。あの、極度の口下手な団長が、言葉で禁止するなんて……」
ルークは、アークライトがどれほど感情を抑圧しているかを知っているため、その行動に震え上がっていた。
セシルは思わず笑い出した。
(彼は言葉で愛を伝えられない。だから、行動と嫉妬で示すのね)
「ルーク、ありがとう。彼の愛の形が少しずつ分かってきました。今度は、彼から愛情を込めたプレゼントをねだってみようかしら」
「な、何をなさるおつもりですか!?」
「ふふ。前世で私が冷たい義務だと誤解し、そっけない態度をとった、彼が心を込めて贈ってくれたもの。それを、今世は心から喜んで受け取ってみるのよ」
セシルの次の目標は、前世で彼に拒絶の意思表示だと受け取られてしまった「古い人形」。彼女は、それを今世、最高の愛の証としてアークライトに示そうと決意した。
「ありがとう、ルーク。あなたからその話を聞けて、本当に良かった」
「いえ、団長が報われるなら私も本望です!団長は口下手なだけでなく、感情を出すこと自体を極端に嫌う方なのです。セシル様を守りたい、大切にしたいという気持ちは、人一倍強いのですが……」
セシルは頷いた。前世ではアークライトの無表情と冷たさが全てだったが、今世、セシルには「感情の色」が見える。彼の心の動きは、もうごまかせない。
(よし。今世は私が一歩踏み込む番ね。彼に、言葉で表現する楽しさを教えてあげよう)
翌日。セシルは早速、アークライトとの距離を縮めるために行動を開始した。
アークライトは城の執務室で、大量の書類に埋もれていた。その周囲からは、昨日の青い焦燥の色が、わずかに薄れて「責任の灰色」に変わっていた。
セシルは、彼の疲れを労おうと、自分で淹れた香り高い紅茶を盆に載せて執務室へ向かった。
「アークライト様、お仕事の合間にどうぞ。少しでもお疲れが癒やさればと思いまして」
セシルは笑顔でカップを差し出した。
アークライトは顔を上げず、書面に目を落としたまま、低い声で答えた。
「不要だ。私は仕事中に私的なものは口にしない」
その言葉通り、彼はカップに触れようともしなかった。セシルの視界には、彼の周囲の「灰色」が一瞬濃くなったのが見えた。
(ああ、また『義務』の壁を築いている……)
しかし、セシルは引き下がらない。前世で彼が仕事ばかりしていた真実を知っているからだ。彼は国を守る「結界騎士」としての重責に耐えるため、私情を排していたのだ。
セシルはカップを彼の机の端に置き、静かに言った。
「そうでしたか。それでは、お仕事の合間に冷めないうちに。……無理をなさらないでくださいね。あなたの体は、私との結婚生活のために大切にしていただかなくては困りますから」
「結婚生活」という言葉を強調した瞬間、アークライトの手が、ピタリと書類の上で止まった。
彼が発する感情の色が、青色と金色が混じり合い、激しく揺らめき始めた。
アークライトは顔を上げ、セシルを射抜くように見つめた。その瞳の奥には、セシルを捕らえて離さないような、強い執着の光が一瞬見えた。
「……退室しろ」
「はい。失礼いたしました」
セシルは内心の興奮を隠し、優雅に頭を下げて部屋を出た。ドアを閉めた直後、セシルは聞こえるか聞こえないか程度の「チッ」という舌打ちと、カップが机に置かれる音を聞いた。
(飲んだわね。そして、感情を隠しきれずに舌打ちまで。私の作戦、成功よ!)
その日の夕刻。ルーク副官がセシルの元を訪れた。
「セシル様、実は……大変申し上げにくいのですが、アークライト団長が激しく嫉妬しておられます」
セシルは目を丸くした。「嫉妬?誰に?」
「……私です」
ルークは困惑した顔で続けた。
「昼間、私がセシル様の体調を気遣い、「団長もセシル様のように穏やかに過ごせれば良いのに」と話したところ、団長から『公務以外で夫人に声をかけるな』と顔色一つ変えずに厳命されました。あの、極度の口下手な団長が、言葉で禁止するなんて……」
ルークは、アークライトがどれほど感情を抑圧しているかを知っているため、その行動に震え上がっていた。
セシルは思わず笑い出した。
(彼は言葉で愛を伝えられない。だから、行動と嫉妬で示すのね)
「ルーク、ありがとう。彼の愛の形が少しずつ分かってきました。今度は、彼から愛情を込めたプレゼントをねだってみようかしら」
「な、何をなさるおつもりですか!?」
「ふふ。前世で私が冷たい義務だと誤解し、そっけない態度をとった、彼が心を込めて贈ってくれたもの。それを、今世は心から喜んで受け取ってみるのよ」
セシルの次の目標は、前世で彼に拒絶の意思表示だと受け取られてしまった「古い人形」。彼女は、それを今世、最高の愛の証としてアークライトに示そうと決意した。
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