離婚寸前で人生をやり直したら、冷徹だったはずの夫が私を溺愛し始めています

腐ったバナナ

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4話

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 セシルは、自分のベッドの上に置かれた古い人形を見つめていた。人形は、アークライトが結婚前にセシルに贈ったものだ。前世のセシルは、この贈り物を「子供っぽい、無関心な義務の品」として放置し、結果的にアークライトの心を傷つけた。

(今世は違う。これは彼が、多忙な仕事の合間に、私のためだけに修理した、彼の愛情が込められた唯一の贈り物なんだわ)

 セシルは、その人形を抱きしめ、熱い想いを込めて「金色の愛の色」を視認した。人形からは、アークライトの温かい、しかし抑圧された感情が流れ出ているように感じられた。

 翌日、セシルはアークライトに会うため、再び執務室へ向かった。しかし、執務室の前には副官のルークが待ち構えていた。

「セシル様。団長は今、国の最高機密である『対魔術結界』の緊急修繕で席を外されています。おそらく、明日まではお戻りになれません」

 セシルは息をのんだ。『対魔術結界』。前世でアークライトが最も時間を費やした「仕事」であり、セシルが最も「私を顧みない冷たい義務」だと誤解していたものだ。

「そう……彼は国を守るために、身を削っているのね」

 セシルは、アークライトが冷徹なのではなく、彼の愛が国と、そして自分を守るという「義務」にすり替わっていたことを改めて痛感した。

「ルーク。少しお話ししてもよろしいですか?アークライト様が、この結界の維持にどれほどの負担を負っているのかを、詳しく知りたいのです」

 ルークは驚きながらも、セシルの真剣な眼差しに応えた。ルークの話によると、アークライトの魔力は結界維持に不可欠であり、その代償として精神と魔力が極度に消耗していること、そして、その負担を和らげる手段は一切ないという事実が明かされた。

(彼は、自分の命を削って国と、そして私を守っていたのね……!私はその愛に気づかず、離婚を望んでいたなんて……)

 セシルは涙をこらえた。今世のセシルには、彼の命を守るという新たな使命ができた。

 翌日、ようやく執務室に戻ってきたアークライトは、疲労困憊していた。セシルの視界には、彼の身体全体を覆う濃い「疲労の黒」と、微かに残る「焦燥の青」が見えた。

 セシルは、ルークから聞いた結界の話を胸にしまい、静かに彼の前に進み出た。

「アークライト様。お疲れのところ申し訳ございません」

 セシルは、包みから前世で拒絶した古い人形を取り出した。

「この人形。前世の私……いいえ、未熟な私は、これを冷たい義務の贈り物だと誤解していました。ですが、今、これがあなたの愛情なのだと知りました」

 セシルは人形を両手で抱き、心からの感謝と深い愛情を込めた眼差しでアークライトに差し出した。

「私はこの人形を、あなたの私への愛の証として、大切に飾らせていただきます」

 アークライトの無表情が、初めて完全に崩壊した。

 彼の瞳は大きく見開かれ、疲労で黒く染まっていた感情の色が一瞬にして吹き飛び、強烈な「金の愛の色」と、「驚愕の白」が入り混じった光が彼の全身から噴き出した。

「セシル……嬢……」

 アークライトは、言葉を失っていた。彼はゆっくりと立ち上がり、セシルに近づく。そして、セシルが抱える人形ごと、乱暴で、しかし切実な力でセシルを抱きしめた。

「ッ……ッ!」

 彼は何も言わない。しかし、その力強い抱擁は、「失った愛が戻ってきた」ことに対する狂喜と、「もう二度と手放さない」という激しい独占欲に満ちていた。

 セシルは、彼の不器用で、しかし全てを懸けた愛情を肌で感じ、心から涙を流した。

「ありがとう、アークライト様。あなたの愛は、もう私には届いています」

 この抱擁は、二人の間にあった前世からの12年間の誤解を、完全に氷解させたのだった。
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