訳あり未亡人と、年下の騎士様 ~私はもう、恋なんてしないはずでした~

腐ったバナナ

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2話

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 クロードが私兵隊長となって三日が過ぎた。

 彼の存在は、侯爵城に確かな緊張感と安心感をもたらしていた。クロードは常にフィオナの傍、あるいは視界に入る場所に控え、その漆黒の鎧はユーリウスの部下たちを牽制するのに十分な威圧感があった。

 その日の午後、フィオナは社交界に出る必要があった。亡き夫の弔問という名目だが、実際は侯爵家の現状を探ろうとする貴族たちの集まりだ。

「フィオナ様、クロードを護衛にお連れください」

 執事セバスチャンが心配そうに言った。

「ええ、もちろん。彼の威圧的な存在感こそが、今の私には必要ですから」

 フィオナは、クロードを道具として割り切っているつもりだったが、彼の背後にいると、確かに過去の孤独が和らぐのを感じた。

 馬車の中で、フィオナはクロードに指示した。

「クロード殿。会場では、私に近づく不埒な輩から距離を取るのが貴方の任務です。私的な会話には関与しないでください」

「承知いたしました。貴女の安全と名誉のため、私の感情は氷の奥に封じます」

 クロードは無表情に応じたが、彼の瞳には揺るぎない熱が宿っていた。

 会場は、侯爵家の不幸を肴に噂話を楽しむ貴族たちで溢れていた。

 フィオナが会場に入ると、さっそく亡き夫の弟、ユーリウスが、妻を連れて愛想笑いを浮かべながら近づいてきた。

「おお、フィオナ夫人。弔問に感謝いたします。しかし、貴女が連れているのは、平民の騎士ではありませんか。侯爵家の夫人が、このような粗野な男を護衛に連れてくるとは、随分と品が落ちましたね」

 ユーリウスの言葉には、侯爵家を継ぐ者としての優越感と、フィオナへの侮辱が込められていた。周囲の貴婦人たちも、冷ややかな視線を浴びせる。

 フィオナは冷静を装った。

「ご心配なく、ユーリウス様。彼は私兵団長です。私の安全を買うには、血筋より実力が必要ですから」

 その言葉で、ユーリウスの顔が歪んだ。

「実力と申しても、所詮は貧民の出。夫人が落ちぶれて、そのような下賤な男に頼らざるを得ないのは、侯爵家の恥ですよ」

 ユーリウスがさらに侮辱的な言葉を続けようとした、その時だった。

 フィオナの背後、一歩下がった位置に立っていたクロードが、静かに、しかし地響きのような低い声を発した。

「ヴァレンティノ卿」

 クロードは、ユーリウスを睨みつけた。彼の眼差しは、凍てつくように冷たく、獲物を仕留める猛禽のようだった。

「貴方が今、侮辱したのは、私の主人です。貴族の血筋を持つか否かは知りませんが、私の剣は、侮辱には代償を求めることを知っています」

 クロードは、一言も多くは語らず、ただ怒りと庇護欲を込めた視線だけで、ユーリウスを圧倒した。

 ユーリウスは、クロードの殺気にも似た威圧感に、反射的に一歩後ずさった。彼の口は乾き、それ以上言葉を発することができなかった。周囲の貴族たちも、冷徹な騎士の迫力に息をのんだ。

 その場が静まり返った後、クロードはユーリウスからフィオナを守るように、あえて一歩前に進み、フィオナの横に並んだ。

 フィオナは驚愕した。彼は「私的な関与はしない」という契約を破ったのだ。

「クロード殿、貴方は……」

 クロードはフィオナに視線を合わせることなく、静かに耳元で囁いた。

「フィオナ様。契約に『貴女の名誉を守ること』も含まれています。私は、貴女の命令ではなく、私の本能に従いました。罰するなら、どうぞ」

 彼の声には、冷徹さではなく、熱烈な忠誠が宿っていた。

 フィオナは、クロードの規律を破ってまで自分を守ろうとする情熱に、初めて胸の奥が温かくなるのを感じた。過去の夫は、自分の名誉のために彼女を社交界の矢面に立たせたというのに。

 フィオナはすぐに冷静さを取り戻し、優雅に微笑んだ。

「お見事です、クロード殿。これで、私の安全と名誉は、貴方の剣によって守られました。この場は引き上げます」

 フィオナは、クロードの圧倒的な守護に包まれ、誰にも文句を言わせることなく、侯爵城へと戻った。
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