無実の罪で追放された神官令嬢は、最強大公に拾われました。

5話

　リリアンがクロイツェル大公城で大公の闇を癒やし、清らかな力を発揮し始める一方、王都の神殿では偽りの聖女カサンドラの存在が、次第に王国に悪影響を及ぼし始めていた。

　カサンドラが持つ魔力は、儀式的な華やかさこそあったが、根源的な治癒力を持たないため、彼女が主導する神殿の儀式は、時間が経つにつれて魔力の反動と不安定さを露呈し始めた。

　特に、神殿が担っていた特定の結界維持の儀式が不完全になったことで、王国の魔力の均衡が崩れ、辺境の地域で原因不明の病や魔獣の増加が確認され始めた。

　大公城の執務室に、辺境の領主から届いた報告書が積まれていた。報告書には、「神殿の浄化儀式が機能せず、闇の魔力の影響による病が広がっている」という切迫した内容が記されていた。

　アシュトンは、その報告書を読み、苛立ちを隠さなかった。

「愚か者め。リリアンという真の光を追放し、偽りの道具に頼った報いだ」

　アシュトンは、リリアンの存在が自分の闇を安定させていることで、彼女の真の聖女としての価値を確信していた。彼は、カサンドラと最高司祭が神殿の権威を守るために、意図的にリリアンを陥れたことを許せなかった。

「リリアン。王都の神殿は、貴様を追放したことで、今や無能な集団と化している。彼らが国にもたらす災いは、貴様が追放されるきっかけとなった秘宝の盗難よりも遥かに重い」

　リリアンは、病で苦しむ人々のことを思い、心を痛めた。

「大公様。もしその病が闇の魔力による影響であれば、私の力で……」

「今は動くな」

　アシュトンは即座にリリアンを制した。

「貴様が動くのは、貴様の無実と真の聖女の地位を王宮全体に認めさせる時だ。今は、偽りの聖女がどれほどの悪影響をもたらすか、彼ら自身に思い知らせる必要がある」

　アシュトンは、「影の王」としての情報網を駆使し、辺境の被害報告や、カサンドラの儀式の失敗に関する確固たる証拠を集め始めた。彼は、リリアンを道具としてではなく、王国の救世主として王都に帰還させるための冷徹な戦略を練っていた。

　その夜、アシュトンはリリアンを彼の私室に呼び寄せた。

「リリアン。貴様を王都へ帰還させる時、貴様を蔑んだ者たちに容赦ない制裁を加える。貴様が追放された痛み、無実の罪、その全てに報いを受けさせる」

　アシュトンの金色の瞳には、リリアンへの深い愛と、彼女を侮辱した者たちへの激しい報復の念が宿っていた。

「貴様は、私の庇護の下にいる。貴様の清らかな光は、私と、私が守るべき領民のためにだけ使われる。他の誰にも、貴様の価値を勝手に測らせはしない」

　リリアンは、大公の独占的な愛情と、彼女を守り抜くという強い意志に、安堵を覚えた。彼女の静かな決意は、偽りの聖女がもたらす闇を打ち破るための、確かな光となっていた。