3 / 15
3話
しおりを挟む
アリアは、巨大な銀狼の傍で、ほとんど眠らずに夜を明かした。
狼は伝説の聖獣か、あるいは強力な魔獣か判然としなかったが、アリアの治療中は一度も攻撃的な行動に出なかった。傷口に触れるたびに、銀狼は呻き声を上げたが、それは痛みを訴えるだけで、アリアを威嚇するものではなかった。
「動いたらダメよ。深い傷なんだから」
アリアは、冷たい銀狼の毛皮に優しく声をかけた。
彼女の微弱な能力は、止血作用のある薬草の効能を最大限に高めた。そのおかげで、銀狼の傷口の出血は止まり、熱も少しずつ下がっているようだ。
しかし、銀狼は依然として警戒を解かなかった。金色の瞳はアリアを一瞬たりとも離さず、アリアが少しでも動くと耳をぴくりと動かした。
(私を信用していないのね。当然だわ。人間は、私を裏切ったのだから)
アリアは自嘲したが、すぐに頭を切り替えた。信用されないのは当然だ。だが、この命を見捨てるわけにはいかない。
次の日の日中、アリアは森で採ってきたばかりの滋養強壮に効く薬草を煎じた。それを銀狼の口元に持っていくと、銀狼は拒否するように顔をそむけた。
「飲まないと治らないわ。これ、私が命懸けで採ってきた薬草なのよ」
アリアは少し苛立ちながら、その薬草を自分の手のひらに垂らし、そのまま銀狼の口元へ押し付けた。
「ほら、毒なんか入ってない。信用して」
銀狼は、アリアの躊躇のない行動に驚いたようだった。そして、その金色の瞳が、一瞬だけ警戒から疑問の色に変わった。ゆっくりと、銀狼はその薬草の水を飲み込んだ。
数日が経ち、銀狼の傷は目に見えて回復した。
その間、アリアの生活は全て銀狼の看病と、食料調達に費やされた。孤独を感じる暇もなかった。
銀狼は完全にアリアを信用するようになり、アリアが少しでも離れようとすると、寂しそうに鼻を鳴らすようになった。
そして、ついにアリアは究極の癒やしを見つける。
薬を塗り終わった後、アリアは銀狼の巨大な体を労うように撫でた。すると、銀狼は嬉しそうに低く喉を鳴らし、頭をアリアの膝の上にゴロンと乗せてきたのだ。
「えっ...?」
アリアは驚いたが、すぐに笑みがこぼれた。銀狼の毛並みは、驚くほど柔らかく、暖かく、最高にモフモフだった。
「ふふっ...あなたがこんなに甘えん坊だなんて」
アリアが優しく毛を梳くと、銀狼はそのまま安心しきったように眠りに落ちた。その姿は、恐ろしい魔獣の王ではなく、ただアリアに懐いた巨大なペットにしか見えなかった。
(このモフモフに比べたら、レイモンド様の甘い言葉なんて、どれほど空虚だったか)
アリアは膝の上の温もりと重みに、今まで感じたことのない安心感を覚えた。裏切られる心配がない、純粋な命の繋がり。アリアの凍えていた心は、この銀狼のモフモフによって少しずつ溶かされ始めていた。
銀狼の回復は完璧だった。
アリアは、彼がもうすぐこの森を去るだろうことを理解していた。孤独に戻ることに微かな寂しさを感じたが、それは仕方ないことだと諦めていた。
その日の夕暮れ。銀狼はアリアを優しく見つめ、何かを伝えようとするように何度も頭を擦りつけてきた。
「ありがとう、って言ってるの?私も助けられたわ。寂しくなるけど、もう大丈夫よ」
アリアは笑顔でそう答えた。
そして、夜が訪れた。小屋のランプの光が揺れる中、アリアが薬草の整理をしていると、外から異様な魔力の気配が押し寄せてきた。
アリアが驚いて立ち上がったその時、小屋の扉が開き、そこに立っていたのは銀狼ではなかった。
そこにいたのは、銀色の髪と冷たい金色の瞳を持つ、息を呑むほど美しい一人の青年だった。
彼の体からは、銀狼と同じ、圧倒的な魔力の威圧感が放たれている。
青年はアリアを一瞥すると、低い、冷たい声で言った。
「俺の傷を治した礼だ。そして、俺の命を救ったのだから、永遠に俺の傍にいろ」
狼は伝説の聖獣か、あるいは強力な魔獣か判然としなかったが、アリアの治療中は一度も攻撃的な行動に出なかった。傷口に触れるたびに、銀狼は呻き声を上げたが、それは痛みを訴えるだけで、アリアを威嚇するものではなかった。
「動いたらダメよ。深い傷なんだから」
アリアは、冷たい銀狼の毛皮に優しく声をかけた。
彼女の微弱な能力は、止血作用のある薬草の効能を最大限に高めた。そのおかげで、銀狼の傷口の出血は止まり、熱も少しずつ下がっているようだ。
しかし、銀狼は依然として警戒を解かなかった。金色の瞳はアリアを一瞬たりとも離さず、アリアが少しでも動くと耳をぴくりと動かした。
(私を信用していないのね。当然だわ。人間は、私を裏切ったのだから)
アリアは自嘲したが、すぐに頭を切り替えた。信用されないのは当然だ。だが、この命を見捨てるわけにはいかない。
次の日の日中、アリアは森で採ってきたばかりの滋養強壮に効く薬草を煎じた。それを銀狼の口元に持っていくと、銀狼は拒否するように顔をそむけた。
「飲まないと治らないわ。これ、私が命懸けで採ってきた薬草なのよ」
アリアは少し苛立ちながら、その薬草を自分の手のひらに垂らし、そのまま銀狼の口元へ押し付けた。
「ほら、毒なんか入ってない。信用して」
銀狼は、アリアの躊躇のない行動に驚いたようだった。そして、その金色の瞳が、一瞬だけ警戒から疑問の色に変わった。ゆっくりと、銀狼はその薬草の水を飲み込んだ。
数日が経ち、銀狼の傷は目に見えて回復した。
その間、アリアの生活は全て銀狼の看病と、食料調達に費やされた。孤独を感じる暇もなかった。
銀狼は完全にアリアを信用するようになり、アリアが少しでも離れようとすると、寂しそうに鼻を鳴らすようになった。
そして、ついにアリアは究極の癒やしを見つける。
薬を塗り終わった後、アリアは銀狼の巨大な体を労うように撫でた。すると、銀狼は嬉しそうに低く喉を鳴らし、頭をアリアの膝の上にゴロンと乗せてきたのだ。
「えっ...?」
アリアは驚いたが、すぐに笑みがこぼれた。銀狼の毛並みは、驚くほど柔らかく、暖かく、最高にモフモフだった。
「ふふっ...あなたがこんなに甘えん坊だなんて」
アリアが優しく毛を梳くと、銀狼はそのまま安心しきったように眠りに落ちた。その姿は、恐ろしい魔獣の王ではなく、ただアリアに懐いた巨大なペットにしか見えなかった。
(このモフモフに比べたら、レイモンド様の甘い言葉なんて、どれほど空虚だったか)
アリアは膝の上の温もりと重みに、今まで感じたことのない安心感を覚えた。裏切られる心配がない、純粋な命の繋がり。アリアの凍えていた心は、この銀狼のモフモフによって少しずつ溶かされ始めていた。
銀狼の回復は完璧だった。
アリアは、彼がもうすぐこの森を去るだろうことを理解していた。孤独に戻ることに微かな寂しさを感じたが、それは仕方ないことだと諦めていた。
その日の夕暮れ。銀狼はアリアを優しく見つめ、何かを伝えようとするように何度も頭を擦りつけてきた。
「ありがとう、って言ってるの?私も助けられたわ。寂しくなるけど、もう大丈夫よ」
アリアは笑顔でそう答えた。
そして、夜が訪れた。小屋のランプの光が揺れる中、アリアが薬草の整理をしていると、外から異様な魔力の気配が押し寄せてきた。
アリアが驚いて立ち上がったその時、小屋の扉が開き、そこに立っていたのは銀狼ではなかった。
そこにいたのは、銀色の髪と冷たい金色の瞳を持つ、息を呑むほど美しい一人の青年だった。
彼の体からは、銀狼と同じ、圧倒的な魔力の威圧感が放たれている。
青年はアリアを一瞥すると、低い、冷たい声で言った。
「俺の傷を治した礼だ。そして、俺の命を救ったのだから、永遠に俺の傍にいろ」
159
あなたにおすすめの小説
追放された悪役令嬢、規格外魔力でもふもふ聖獣を手懐け隣国の王子に溺愛される
黒崎隼人
ファンタジー
「ようやく、この息苦しい生活から解放される!」
無実の罪で婚約破棄され、国外追放を言い渡された公爵令嬢エレオノーラ。しかし彼女は、悲しむどころか心の中で歓喜の声をあげていた。完璧な淑女の仮面の下に隠していたのは、国一番と謳われた祖母譲りの規格外な魔力。追放先の「魔の森」で力を解放した彼女の周りには、伝説の聖獣グリフォンをはじめ、可愛いもふもふ達が次々と集まってきて……!?
自由気ままなスローライフを満喫する元悪役令嬢と、彼女のありのままの姿に惹かれた「氷の王子」。二人の出会いが、やがて二つの国の運命を大きく動かすことになる。
窮屈な世界から解き放たれた少女が、本当の自分と最高の幸せを見つける、溺愛と逆転の異世界ファンタジー、ここに開幕!
追放聖女の薬草店~光らない無能と言われた私の治癒力は、最強騎士団長の呪いにだけ効くようです。辺境で始める溺愛スローライフ~
黒崎隼人
恋愛
「君の力だけが、俺を救ってくれる」
派手な光を放つ魔法が使えず、「光らない無能」として国を追放された聖女エリナ。
彼女は辺境の村で廃屋を買い取り、念願だった薬草店をオープンする。
相棒の精霊獣ポポと共にスローライフを始めたある嵐の夜、店の前に倒れていたのは、国の最強騎士団長ゼフィルだった。
「黒竜の呪い」に侵され、あらゆる魔法を受け付けない彼の体。
しかし、エリナの持つ「細胞そのものを活性化させる」地味な治癒力だけが、彼の呪いを解く唯一の鍵で……!?
無能扱いされた聖女と、余命わずかの最強騎士。
二人が辺境で紡ぐ、温かくて幸せな再生と溺愛の物語。
『冷酷な悪役令嬢』と婚約破棄されましたが、追放先の辺境で領地経営を始めたら、いつの間にか伝説の女領主になっていました。
黒崎隼人
ファンタジー
「君のような冷たい女とは、もう一緒にいられない」
政略結婚した王太子に、そう告げられ一方的に離婚された悪役令嬢クラリス。聖女を新たな妃に迎えたいがための、理不尽な追放劇だった。
だが、彼女は涙ひとつ見せない。その胸に宿るのは、屈辱と、そして確固たる決意。
「結構ですわ。ならば見せてあげましょう。あなた方が捨てた女の、本当の価値を」
追放された先は、父亡き後の荒れ果てた辺境領地。腐敗した役人、飢える民、乾いた大地。絶望的な状況から、彼女の真の物語は始まる。
経営学、剣術、リーダーシップ――完璧すぎると疎まれたその才能のすべてを武器に、クラリスは民のため、己の誇りのために立ち上がる。
これは、悪役令嬢の汚名を着せられた一人の女性が、自らの手で運命を切り拓き、やがて伝説の“改革者”と呼ばれるまでの、華麗なる逆転の物語。
地味で無能な聖女だと婚約破棄されました。でも本当は【超過浄化】スキル持ちだったので、辺境で騎士団長様と幸せになります。ざまぁはこれからです。
黒崎隼人
ファンタジー
聖女なのに力が弱い「偽物」と蔑まれ、婚約者の王子と妹に裏切られ、死の土地である「瘴気の辺境」へ追放されたリナ。しかし、そこで彼女の【浄化】スキルが、あらゆる穢れを消し去る伝説級の【超過浄化】だったことが判明する! その奇跡を隣国の最強騎士団長カイルに見出されたリナは、彼の溺愛に戸惑いながらも、荒れ地を楽園へと変えていく。一方、リナを捨てた王国は瘴気に沈み崩壊寸前。今さら元婚約者が土下座しに来ても、もう遅い! 不遇だった少女が本当の愛と居場所を見つける、爽快な逆転ラブファンタジー!
言葉の色が見える私には、追放された冷徹魔術師様の溺愛がダダ漏れです~黒い暴言の裏に隠された、金色の真実と甘い本音~
黒崎隼人
恋愛
王立図書館の辺境分館で働く司書のリリアナには、言葉に込められた感情が「色」として見える秘密の力があった。
ある日、彼女の前に現れたのは、かつて「王国の至宝」と呼ばれながらも、たった一度の失言で全てを失い追放された元宮廷魔術師、アレン・クロフォード。
冷徹で皮肉屋、口を開けば棘だらけの言葉ばかりのアレン。しかし、リリアナの目には見えていた。その黒い暴言の奥底で、誰よりも国を思い、そしてリリアナを気遣う、美しく輝く「金色」の本音が。
「邪魔だ」は「そばにいろ」、「帰れ」は「送っていく」。
素直になれない不器用な魔術師と、その本音が全部見えてしまう司書の、じれったくて甘い、真実の愛を取り戻す物語。
偽りの呪いで追放された聖女です。辺境で薬屋を開いたら、国一番の不運な王子様に拾われ「幸運の女神」と溺愛されています
黒崎隼人
ファンタジー
「君に触れると、不幸が起きるんだ」――偽りの呪いをかけられ、聖女の座を追われた少女、ルナ。
彼女は正体を隠し、辺境のミモザ村で薬師として静かな暮らしを始める。
ようやく手に入れた穏やかな日々。
しかし、そんな彼女の前に現れたのは、「王国一の不運王子」リオネスだった。
彼が歩けば嵐が起き、彼が触れば物が壊れる。
そんな王子が、なぜか彼女の薬草店の前で派手に転倒し、大怪我を負ってしまう。
「私の呪いのせいです!」と青ざめるルナに、王子は笑った。
「いつものことだから、君のせいじゃないよ」
これは、自分を不幸だと思い込む元聖女と、天性の不運をものともしない王子の、勘違いから始まる癒やしと幸運の物語。
二人が出会う時、本当の奇跡が目を覚ます。
心温まるスローライフ・ラブファンタジー、ここに開幕。
【完結】辺境伯の溺愛が重すぎます~追放された薬師見習いは、領主様に囲われています~
深山きらら
恋愛
王都の薬師ギルドで見習いとして働いていたアディは、先輩の陰謀により濡れ衣を着せられ追放される。絶望の中、辺境の森で魔獣に襲われた彼女を救ったのは、「氷の辺境伯」と呼ばれるルーファスだった。彼女の才能を見抜いたルーファスは、アディを専属薬師として雇用する。
追放された薬膳聖女は氷の公爵様を温めたい~胃袋を掴んだら呪いが解けて溺愛されました~
黒崎隼人
恋愛
冤罪で婚約破棄され、極寒の辺境へ追放された伯爵令嬢リリアナ。「氷の公爵」と恐れられる魔導師アレクセイの城に送られるが、そこで彼女を待っていたのは、呪いにより味覚を失い、孤独に震える公爵だった!?
「……なんだ、この温かさは」
前世の知識である【薬膳】で作った特製スープが、彼の凍りついた心と胃袋を溶かしていく!
料理の腕で公爵様を餌付けし、もふもふ聖獣も手なずけて、辺境スローライフを満喫していたら、いつの間にか公爵様からの溺愛が止まらない!?
一方、リリアナを追放した王都では作物が枯れ果て、元婚約者たちが破滅へと向かっていた――。
心も体も温まる、おいしい大逆転劇!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる