役立たずと追放された令嬢ですが、極寒の森で【伝説の聖獣】になつかれました〜モフモフの獣人姿になった聖獣に、毎日甘く愛されています〜

腐ったバナナ

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4話

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 小屋の扉の前に立つ美青年は、圧倒的な存在感を放っていた。銀色の髪は月の光を浴びて輝き、その金色の瞳は、数日前まで私を見つめていた銀狼の瞳と全く同じだった。

 アリアは、目の前の青年が、間違いなく自分が看病した聖獣シルヴァンであると理解した。そして、その瞬間、彼の発する魔力の波動が、自分を追放した家族や元婚約者のものとは比較にならないほど強大であることを悟った。

「あなたは…シルヴァン、なの?」

 青年はわずかに口角を上げたが、その表情は冷たいままだった。

「その名で呼ぶのは構わない。俺の正式な名は、シルヴァン・ド・アメシスト。この辺境領を治める領主であり、そして…君が助けた銀狼だ」

 シルヴァンは一歩踏み出し、アリアとの距離を詰めた。その冷たい視線に、アリアは身動きが取れない。

「俺の命を救った人間は、君が初めてだ。だが、君は魔力が微弱で、王都で役立たずと追放されたのだろう?」

 彼の言葉は、アソリアの最も深い傷を突いた。

「…ええ。その通りよ」

「ならば、俺の傍にいろ。君の命は、今この瞬間から俺の所有物だ」

 シルヴァンの言葉は、命令だった。彼はアリアに選択肢を与えていない。

「それは、どういう…」

「俺は、辺境領を治める領主として、常に命を狙われている。特に毒や呪いには警戒が必要だ。君の薬学の知識と、あの微弱だが特異な生命力操作の力は、俺にとって必要不可欠だ」

 アリアは驚いた。誰も気づかなかった彼女の能力を、この聖獣は一瞬で見抜いたのだ。

 シルヴァンは続けた。

「俺の妻となれ、アリア。これは契約だ。君は俺の庇護のもとで、安全と地位を手に入れる。誰も君を侮辱することも、追放することもできなくなる。その代わりに、君は俺の専属の治癒者となる。…そして、永遠に俺の愛を一身に受ける」

 アリアは息を飲んだ。彼の瞳には、銀狼の時のような純粋な甘えではなく、全てを支配下に置こうとする、狂おしいほどの独占欲が宿っていた。

(妻…。辺境領主の妻。それは、王都の伯爵令嬢だった頃よりも遥かに強大な地位だわ)

 家族も元婚約者も私を見捨てた。彼らの愛は偽物だった。ならば、この契約と支配こそが、裏切りのない最も確かな安全ではないか。

 アリアは、自分の凍えた心に問いかけた。彼のこの執着は、決して私を裏切らないだろう。

「...分かりました、シルヴァン様。この契約、受け入れましょう」

 アリアが承諾した瞬間、シルヴァンの冷たい表情がわずかに和らいだ。それは、獲物を手に入れた獣の、満足した笑みだった。

「賢明な判断だ、アリア。もう一度言う。君は今、この俺の妻となった。二度と、王都のゴミどもが君に手出しすることは許さない」

 翌日、アリアはシルヴァンによって辺境領の居館へ連れて行かれた。

 領主館は質素ながらも堅牢で、そこでアリアはリカルドという副団長に引き合わされた。リカルドはシルヴァンの片腕を務める騎士で、アリアに対しては終始、警戒と不信の眼差しを向けていた。

「領主様。本当に、あの伯爵令嬢を夫人として迎え入れるのですか?彼女は...」

「黙れ、リカルド。アリアは、俺が選んだ。彼女の価値は、王都の愚か者には理解できぬ。彼女の能力は、この辺境を救う」

 シルヴァンは一言でリカルドを黙らせた。公の場での彼は、まさに冷酷無比な領主そのものだった。

 しかし、その日の夜。

 アリアが部屋で不安と緊張を感じながら休んでいると、ノックもなしに部屋に入ってきたシルヴァンは、驚くべき行動に出た。

 彼はアリアの目の前で、再び巨大な銀狼の姿へと戻ったのだ。

「アリア。リカルドなどの前では、妻として威厳を保て。だが、ここでは違う」

 銀狼となったシルヴァンは、アリアの小さなベッドに乗り上がり、大きな頭をアリアの首筋に擦り付けた。

「モフモフ...」

 アリアは思わず口に出た。冷酷な領主の姿とは打って変わって、目の前の銀狼は、ただ甘えを求める巨大なペットだった。

「ああ、この毛並み...」

 アリアが彼の毛並みを優しく撫でると、シルヴァンは満足げに低く喉を鳴らした。

「人間の姿だと、君が緊張するだろう。俺は、君に安らぎを与えたい。だから、ここでだけは、この姿で愛してやる」

 冷酷な領主シルヴァンと、甘えん坊の銀狼シルヴァン。アリアの新しい、支配と溺愛に満ちた生活は、こうして始まった。
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