役立たずと追放された令嬢ですが、極寒の森で【伝説の聖獣】になつかれました〜モフモフの獣人姿になった聖獣に、毎日甘く愛されています〜

腐ったバナナ

文字の大きさ
13 / 15

13話

しおりを挟む
 アリアの妊娠が公になると、冷酷な領主シルヴァンの過保護と溺愛は、文字通り常軌を逸したレベルに達した。

 彼は政務の全てを一時的に縮小し、アリアの傍を離れなくなった。執務室でさえ、アリアの椅子はシルヴァンの席の隣に置かれ、彼女の周囲には何重もの結界と警護が敷かれた。

「アリア、寒くないか?風邪を引けば、この子の成長に影響が出る」

「アリア、これを食べろ。王都から取り寄せた最も安全な食材だ。毒など、この領地に一滴も入れさせない」

 シルヴァンは常にアリアの体調と安全を気にかけ、少しでも彼女が体調を崩す素振りを見せると、聖獣の力を使って彼女の微弱な治癒能力を活性化させた。彼の愛は、もはや依存ではなく、狂信的な防衛本能へと変化していた。

 アリアは、その過剰なまでの庇護に戸惑いつつも、心から幸福を感じていた。彼は、かつて自分を見捨てた者たちとは違い、アリアと新しい命を世界の全てだと考えている。

 リカルド副団長は、この状況に頭を抱えながらも、忠実にシルヴァンの指示に従った。

「旦那様は、奥様を世界で最も尊いものだとお考えだ。もはや、我々の主君は旦那様ではなく、奥様と、その腹のお子様だ」

 リカルドは騎士団に対し、冗談ではなく真剣にそう宣言した。辺境領全体が、皇后アリアと、聖獣の世継ぎを守るための厳戒態勢を敷いていた。

 そして、季節が巡り、出産の日が訪れた。

 分娩室に入れず、廊下で待機していたシルヴァンは、辺境の冷酷な領主の威厳などどこへやら、ただただ絶望的な恐怖に顔を歪ませていた。

「アリア!苦しいなら、俺が代わる!君を置いていかないでくれ!」

 彼の叫びは、聖獣の魔力に震え、廊下の壁を揺らした。リカルドは、彼を宥めることに必死だった。

 やがて、分娩室から元気な産声が響き渡った。

 シルヴァンは、扉が開くと同時に分娩室へ飛び込んだ。彼の目に映ったのは、疲労困憊ながらも幸福そうな顔で横たわるアリアと、看護師に抱かれた小さな命だった。

「アリア...よくやった...」

 シルヴァンは涙を流しながら、アリアの手を握りしめた。そして、恐る恐るその小さな我が子を抱き上げた。

 その子は、父譲りの銀色の髪と、まだ薄いながらも金色の瞳を持っていた。しかし、その瞳の奥には、シルヴァンとアリアの力を受け継いだ、計り知れないほどの魔力が秘められていることが感じられた。

「ああ...俺の...」

 シルヴァンは、小さな命を抱きしめ、嗚咽した。それは、彼が孤独な聖獣から、愛する妻と子を持つ父親へと完全に生まれ変わった瞬間だった。彼の愛は、アリアへの執着から、家族を守るという絶対的な使命感へと昇華した。

 アリアは、出産後もシルヴァンから片時も離れられなかった。

 シルヴァンは、常に銀狼の姿と人間の姿を使い分け、アリアの傍を離れない。人間の姿の時は、冷酷な目で政務をこなすが、夜になるとすぐに銀狼の姿に戻り、アリアと子の寝台の傍で丸くなる。

「アリア。この子も、君のようにモフモフを愛してくれるだろうか?」

 銀狼の姿のシルヴァンが、大きな頭をアリアの腕に寄せてきた。

「ええ、きっと。だって、あなたは世界で一番優しくて、一番強いモフモフなのですから」

 アリアは笑いながら、彼の毛皮を撫でた。

 彼女を追放した家族と元婚約者は、今頃、自分たちの愚かさの報いを噛み締めているだろう。しかし、アリアの心には、彼らへの憎悪はもうなかった。

 裏切りによって全てを失った人生から、聖獣の狂おしいほどの愛と新たな命を得て、アリアは真の幸福を掴んだのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

追放された悪役令嬢、規格外魔力でもふもふ聖獣を手懐け隣国の王子に溺愛される

黒崎隼人
ファンタジー
「ようやく、この息苦しい生活から解放される!」 無実の罪で婚約破棄され、国外追放を言い渡された公爵令嬢エレオノーラ。しかし彼女は、悲しむどころか心の中で歓喜の声をあげていた。完璧な淑女の仮面の下に隠していたのは、国一番と謳われた祖母譲りの規格外な魔力。追放先の「魔の森」で力を解放した彼女の周りには、伝説の聖獣グリフォンをはじめ、可愛いもふもふ達が次々と集まってきて……!? 自由気ままなスローライフを満喫する元悪役令嬢と、彼女のありのままの姿に惹かれた「氷の王子」。二人の出会いが、やがて二つの国の運命を大きく動かすことになる。 窮屈な世界から解き放たれた少女が、本当の自分と最高の幸せを見つける、溺愛と逆転の異世界ファンタジー、ここに開幕!

追放聖女の薬草店~光らない無能と言われた私の治癒力は、最強騎士団長の呪いにだけ効くようです。辺境で始める溺愛スローライフ~

黒崎隼人
恋愛
「君の力だけが、俺を救ってくれる」 派手な光を放つ魔法が使えず、「光らない無能」として国を追放された聖女エリナ。 彼女は辺境の村で廃屋を買い取り、念願だった薬草店をオープンする。 相棒の精霊獣ポポと共にスローライフを始めたある嵐の夜、店の前に倒れていたのは、国の最強騎士団長ゼフィルだった。 「黒竜の呪い」に侵され、あらゆる魔法を受け付けない彼の体。 しかし、エリナの持つ「細胞そのものを活性化させる」地味な治癒力だけが、彼の呪いを解く唯一の鍵で……!? 無能扱いされた聖女と、余命わずかの最強騎士。 二人が辺境で紡ぐ、温かくて幸せな再生と溺愛の物語。

『冷酷な悪役令嬢』と婚約破棄されましたが、追放先の辺境で領地経営を始めたら、いつの間にか伝説の女領主になっていました。

黒崎隼人
ファンタジー
「君のような冷たい女とは、もう一緒にいられない」 政略結婚した王太子に、そう告げられ一方的に離婚された悪役令嬢クラリス。聖女を新たな妃に迎えたいがための、理不尽な追放劇だった。 だが、彼女は涙ひとつ見せない。その胸に宿るのは、屈辱と、そして確固たる決意。 「結構ですわ。ならば見せてあげましょう。あなた方が捨てた女の、本当の価値を」 追放された先は、父亡き後の荒れ果てた辺境領地。腐敗した役人、飢える民、乾いた大地。絶望的な状況から、彼女の真の物語は始まる。 経営学、剣術、リーダーシップ――完璧すぎると疎まれたその才能のすべてを武器に、クラリスは民のため、己の誇りのために立ち上がる。 これは、悪役令嬢の汚名を着せられた一人の女性が、自らの手で運命を切り拓き、やがて伝説の“改革者”と呼ばれるまでの、華麗なる逆転の物語。

地味で無能な聖女だと婚約破棄されました。でも本当は【超過浄化】スキル持ちだったので、辺境で騎士団長様と幸せになります。ざまぁはこれからです。

黒崎隼人
ファンタジー
聖女なのに力が弱い「偽物」と蔑まれ、婚約者の王子と妹に裏切られ、死の土地である「瘴気の辺境」へ追放されたリナ。しかし、そこで彼女の【浄化】スキルが、あらゆる穢れを消し去る伝説級の【超過浄化】だったことが判明する! その奇跡を隣国の最強騎士団長カイルに見出されたリナは、彼の溺愛に戸惑いながらも、荒れ地を楽園へと変えていく。一方、リナを捨てた王国は瘴気に沈み崩壊寸前。今さら元婚約者が土下座しに来ても、もう遅い! 不遇だった少女が本当の愛と居場所を見つける、爽快な逆転ラブファンタジー!

言葉の色が見える私には、追放された冷徹魔術師様の溺愛がダダ漏れです~黒い暴言の裏に隠された、金色の真実と甘い本音~

黒崎隼人
恋愛
王立図書館の辺境分館で働く司書のリリアナには、言葉に込められた感情が「色」として見える秘密の力があった。 ある日、彼女の前に現れたのは、かつて「王国の至宝」と呼ばれながらも、たった一度の失言で全てを失い追放された元宮廷魔術師、アレン・クロフォード。 冷徹で皮肉屋、口を開けば棘だらけの言葉ばかりのアレン。しかし、リリアナの目には見えていた。その黒い暴言の奥底で、誰よりも国を思い、そしてリリアナを気遣う、美しく輝く「金色」の本音が。 「邪魔だ」は「そばにいろ」、「帰れ」は「送っていく」。 素直になれない不器用な魔術師と、その本音が全部見えてしまう司書の、じれったくて甘い、真実の愛を取り戻す物語。

偽りの呪いで追放された聖女です。辺境で薬屋を開いたら、国一番の不運な王子様に拾われ「幸運の女神」と溺愛されています

黒崎隼人
ファンタジー
「君に触れると、不幸が起きるんだ」――偽りの呪いをかけられ、聖女の座を追われた少女、ルナ。 彼女は正体を隠し、辺境のミモザ村で薬師として静かな暮らしを始める。 ようやく手に入れた穏やかな日々。 しかし、そんな彼女の前に現れたのは、「王国一の不運王子」リオネスだった。 彼が歩けば嵐が起き、彼が触れば物が壊れる。 そんな王子が、なぜか彼女の薬草店の前で派手に転倒し、大怪我を負ってしまう。 「私の呪いのせいです!」と青ざめるルナに、王子は笑った。 「いつものことだから、君のせいじゃないよ」 これは、自分を不幸だと思い込む元聖女と、天性の不運をものともしない王子の、勘違いから始まる癒やしと幸運の物語。 二人が出会う時、本当の奇跡が目を覚ます。 心温まるスローライフ・ラブファンタジー、ここに開幕。

【完結】辺境伯の溺愛が重すぎます~追放された薬師見習いは、領主様に囲われています~

深山きらら
恋愛
王都の薬師ギルドで見習いとして働いていたアディは、先輩の陰謀により濡れ衣を着せられ追放される。絶望の中、辺境の森で魔獣に襲われた彼女を救ったのは、「氷の辺境伯」と呼ばれるルーファスだった。彼女の才能を見抜いたルーファスは、アディを専属薬師として雇用する。

追放された薬膳聖女は氷の公爵様を温めたい~胃袋を掴んだら呪いが解けて溺愛されました~

黒崎隼人
恋愛
冤罪で婚約破棄され、極寒の辺境へ追放された伯爵令嬢リリアナ。「氷の公爵」と恐れられる魔導師アレクセイの城に送られるが、そこで彼女を待っていたのは、呪いにより味覚を失い、孤独に震える公爵だった!? 「……なんだ、この温かさは」 前世の知識である【薬膳】で作った特製スープが、彼の凍りついた心と胃袋を溶かしていく! 料理の腕で公爵様を餌付けし、もふもふ聖獣も手なずけて、辺境スローライフを満喫していたら、いつの間にか公爵様からの溺愛が止まらない!? 一方、リリアナを追放した王都では作物が枯れ果て、元婚約者たちが破滅へと向かっていた――。 心も体も温まる、おいしい大逆転劇!

処理中です...