魔力なしの欠陥品として婚約破棄された狼族の令嬢ですが、実は伝説の白獅子の番でした。

腐ったバナナ

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7話

「リリアナ様、見てください! お庭の『冬枯れのバラ』が、一斉に蕾をつけました!」

 侍女たちの弾んだ声が、クリスタルのサンルームに響く。 私がこの城に来てから、不思議なことばかりが起きていた。枯れていた泉から水が湧き出し、病に伏せていた老兵たちが次々と回復しているという。

(すべて、私の「神気」のせい……?)

 狼族の里では、私の周りには常に冷たい風が吹いていた。けれど今は、私が歩く(と言っても、レオンハルト様に抱かれているけれど)だけで、世界に色が灯っていく。

 その時、背後から熱い体温が私を包み込んだ。

「……リリアナ、外を見てはいけないと言っただろう。貴殿の瞳には、私だけが映っていればいい」

 執務を終えたレオンハルト様だ。彼は私の首筋に顔を埋め、深く、深く、その香りを吸い込む。

「レオンハルト様、お帰りなさい。……でも、お庭がとても綺麗だったので、つい」 

「庭師をすべて入れ替えるか。……貴殿を誘惑するような花を植えた罪で」 

「そ、そんなのダメです! 私が喜ぶと思って、一生懸命育ててくれたんですよ?」

 私が慌てて振り返ると、レオンハルト様は黄金の瞳を細め、いたずらっぽく、だが底知れぬ重さを孕んだ笑みを浮かべた。

「冗談だ。……だが、貴殿が私以外の何かに心を奪われるのは、たとえ花であっても耐え難い」

 彼は私の手を取り、指先を一本ずつ丁寧に舐めるように接吻した。 その仕草は、王としての威厳に満ちているはずなのに、どこか飢えた獣のような危うさがある。

「リリアナ、知っているか? 貴殿の『神気』に当てられて、城中の男たちが貴殿を崇拝し始めている。……彼らは貴殿を『救世の聖女』と呼び、一目見ようと列を作っているそうだ」

  「えっ……私なんかが、そんな……」 

「……だから決めた。今日から、このサンルームの窓には特別な魔術をかける。外からは貴殿が見えず、貴殿も外を見る必要がないように。貴殿が触れていいのは、私の愛だけだ」

(……閉じ込められている。でも、どうしてこんなに温かいの?)

 彼の独占欲は、間違いなく「異常」だった。 けれど、一度も愛されなかった私にとって、この「逃げられないほど深い愛」は、どんな自由よりも心地よかった。

 だが、幸せな沈黙は、側近のハルトヴィヒが持ち込んだ一通の手紙によって破られた。

「陛下、失礼いたします。……隣国の『猛虎族』より、親書が届きました。『我が国で発生した原因不明の疫病を鎮めるため、白獅子の元へ逃げ込んだという「奇跡の令嬢」を貸し出せ』とのことです」

 その瞬間、部屋の温度が氷点下まで下がった。 レオンハルト様から放たれた殺気が、物理的な圧力となって空気を震わせる。

「……貸し出す? 我が魂の片割れを、道具のように呼ぶか」

 レオンハルト様の背後で、巨大な白獅子の幻影が牙を剥くのが見えた。 彼は私をさらに強く、骨が軋むほど抱きしめ、地を這うような声で告げた。

「ハルトヴィヒ、返答は不要だ。……その使者の首を跳ねて送り返せ。我が至宝に指一本でも触れようとする国は、地図から消し去ると伝えておけ」

「……御意」

 ハルトヴィヒが静かに一礼して去っていく。 私は、自分の存在が戦争の火種になりかねない恐怖を感じながらも、自分を「何よりも優先する」という彼の狂おしい愛に、抗いようもなく惹き込まれていた。

「リリアナ、怖がらなくていい。……貴殿を奪おうとする世界など、私がすべて壊してやる」

 王の腕の中で、私はただ、されるがままに唇を重ねられた。 それは、救済でありながら、永遠に続く「独占の契約」だった。

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