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9話
レオンハルト様の腕の中でまどろむ時間は、まるで外界の時間を止めてしまったかのように甘く、静かだった。 私の髪を愛おしそうに梳く彼の手のひらからは、深い慈しみと、決して離さないという執念が伝わってくる。
しかし、その静寂を切り裂くように、寝室の厚い扉の外から切迫した声が響いた。
「陛下! 申し訳ございません、緊急事態です! 隣国『猛虎族』の軍勢が、国境の河を越えました!」
レオンハルト様の指が、ぴたりと止まる。 私を抱きしめる腕に力が入り、彼の体から放たれる空気が、一瞬で「慈父」から「破壊の王」へと変貌した。
「……身の程知らずな猫どもが。我が番を寄越せと抜かした挙句、武力で行使しようというのか」
地を這うような低い声。レオンハルト様は私をベッドに残し、ゆっくりと立ち上がった。その背中は、どんな嵐も一人で受け止める巨壁のように大きく、そして孤独に見えた。
「リリアナ、ここで待っていなさい。……すぐに、貴殿を脅かす不浄な者たちを根絶やしにしてくる」
彼は私に一度だけ、熱く、切ない口づけを残して、部屋を出ようとした。 その時、私は無意識に彼のシャツの袖を掴んでいた。
「待ってください、レオンハルト様!」
「リリアナ……?」
「行かないでとは言いません。でも……私を、ただ守られるだけの『物』にしないでください」
レオンハルト様は驚いたように黄金の瞳を揺らした。
「私は狼族の里では、何もできずに捨てられました。でも、ここでは貴方に価値があると言ってもらえた。……私の『神気』が貴方の力になるのなら、どうかそれを使ってください」
私は自分の胸に手を当て、内側に流れる温かな光を意識した。 これまでは、レオンハルト様の独占欲に身を委ねるだけだった。けれど、彼が私のために戦いに行くのなら、私も彼のために、この力を捧げたい。
「貴方が傷つくのは嫌なんです。私が、貴方の盾になります」
リリアナの言葉と共に、部屋中にまばゆいばかりの黄金の光が溢れ出した。 それはレオンハルト様の魔力と共鳴し、彼の白銀の毛並みをさらに神々しく輝かせていく。
レオンハルト様は絶句した後、激しい感情を隠すように私を再び抱きしめた。
「……ああ、やはり貴殿は、私の魂を狂わせる。守るべき至宝が、私を守ると言うのか」
彼は私の額に深く唇を押し当てた。
「分かった。リリアナ、貴殿の力は私が預かろう。だが、戦場へは連れて行かない。貴殿は城の聖域で、私の勝利を祈っていてくれ。……貴殿の祈りがある限り、私は不敗だ」
レオンハルト様は今度こそ、決然とした足取りで部屋を後にした。
城のバルコニーから見下ろすと、白獅子の軍勢が整列し、王の出陣を待っていた。 空は猛虎族の邪悪な魔気で黒く濁っている。 私は一人、胸の前で手を組み、祈り始めた。
(どうか、彼に勝利を。そして、無事な帰還を——)
私の「神気」が、目に見える光の帯となって城を包み込み、出陣する兵士たちの武器や鎧に宿っていく。 狼族に「欠陥品」と捨てられた少女の祈りが、今、国を救う最大の武器になろうとしていた。
一方で、猛虎族の背後には、変わり果てた姿の「アドルフ」と「狼族の長」が、復讐の炎を燃やしながら潜んでいた。
しかし、その静寂を切り裂くように、寝室の厚い扉の外から切迫した声が響いた。
「陛下! 申し訳ございません、緊急事態です! 隣国『猛虎族』の軍勢が、国境の河を越えました!」
レオンハルト様の指が、ぴたりと止まる。 私を抱きしめる腕に力が入り、彼の体から放たれる空気が、一瞬で「慈父」から「破壊の王」へと変貌した。
「……身の程知らずな猫どもが。我が番を寄越せと抜かした挙句、武力で行使しようというのか」
地を這うような低い声。レオンハルト様は私をベッドに残し、ゆっくりと立ち上がった。その背中は、どんな嵐も一人で受け止める巨壁のように大きく、そして孤独に見えた。
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彼は私に一度だけ、熱く、切ない口づけを残して、部屋を出ようとした。 その時、私は無意識に彼のシャツの袖を掴んでいた。
「待ってください、レオンハルト様!」
「リリアナ……?」
「行かないでとは言いません。でも……私を、ただ守られるだけの『物』にしないでください」
レオンハルト様は驚いたように黄金の瞳を揺らした。
「私は狼族の里では、何もできずに捨てられました。でも、ここでは貴方に価値があると言ってもらえた。……私の『神気』が貴方の力になるのなら、どうかそれを使ってください」
私は自分の胸に手を当て、内側に流れる温かな光を意識した。 これまでは、レオンハルト様の独占欲に身を委ねるだけだった。けれど、彼が私のために戦いに行くのなら、私も彼のために、この力を捧げたい。
「貴方が傷つくのは嫌なんです。私が、貴方の盾になります」
リリアナの言葉と共に、部屋中にまばゆいばかりの黄金の光が溢れ出した。 それはレオンハルト様の魔力と共鳴し、彼の白銀の毛並みをさらに神々しく輝かせていく。
レオンハルト様は絶句した後、激しい感情を隠すように私を再び抱きしめた。
「……ああ、やはり貴殿は、私の魂を狂わせる。守るべき至宝が、私を守ると言うのか」
彼は私の額に深く唇を押し当てた。
「分かった。リリアナ、貴殿の力は私が預かろう。だが、戦場へは連れて行かない。貴殿は城の聖域で、私の勝利を祈っていてくれ。……貴殿の祈りがある限り、私は不敗だ」
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私の「神気」が、目に見える光の帯となって城を包み込み、出陣する兵士たちの武器や鎧に宿っていく。 狼族に「欠陥品」と捨てられた少女の祈りが、今、国を救う最大の武器になろうとしていた。
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